第1話 実力と過去

第3次世界大戦中の日本は、他国の襲撃を受けていないため建物の崩壊や田畑などの損害もなく世界大戦以前の生活状態を維持していた。さらに、日本は本来防衛費の回すはずの予算を新たな食糧の開発や田畑・養豚、養鶏場などの支援に回したため他の国のような食糧不足に陥っていなかった。

政府が戦時中にこのような大胆な政策がとることができたのも、偏に日本を守る1人の番人の存在が大きかった。


東京は防衛省のすぐそばに佇む高さ800mの物見塔。そのてっぺんに居座るのが日本を守る最強の番人。その場所に1人の女性が訪れた。


 「そうくん。ご飯持ってきたよ。」


 「八坂やさかさん。ありがとうございます。」


濃い青色の着物を身に纏い、腰に1本の刀を携えている少年の名は群青蒼一郎ぐんじょうそういちろう。15歳から現在まで日本を守り続けてきた18歳。そして、蒼一郎のもとに食事を届けに来たの女性が八坂美琴やさかみこと。防衛省の職員であり、蒼一郎のお世話及び監視の命を受けている22歳。お世話と言っても1日3回の食事の配膳と蒼一郎が風呂に入っている間の周辺の監視、後は蒼一郎と話すことくらいだ。


 「もう蒼くん。私たちそんなに年も離れてないし、出会って1年以上たつんだしそんなよそよそしくしなくてもいいじゃない。美琴さんって呼んでもいいのよ。美琴お姉ちゃんでもいいわよ。」

 

 「変な冗談はやめてください。いただきます。」


蒼一郎は手を合わせてから、ご飯を食べ始めた。


 「もぉ、冗談じゃないのに。それで蒼くん、今日はどんな感じなの?」


蒼一郎は口いっぱいに入ったご飯を飲み込み、お茶を飲んでから答えた。


 「今日は珍しくまだ一機も来てないですね。このままどこも来なければいいですけどね。・・・!」


 「言ってるそばから。」


蒼一郎は残っているご飯を急いで口にかきこみ、お茶で流し込んだ後立ち上がった。


 「どうしたの?」


 「来ました。今回は中国の潜水艦3隻ですね。八坂さんは戻って住民にばれないように警戒するように防衛大臣に言っておいてください。東京湾の方向です。」


 「了解。気を付けてね。」


蒼一郎は物見塔から飛び降り、装着したパラグライダーを展開させ急いで現場に急行した。美琴は蒼一郎に言われた通り、急いで防衛省に戻って防衛大臣に警戒するように伝えた。


 「彼によると、今回は中国の潜水艦が3隻だそうです。」


 「そうか、八坂君何人か連れて現場に急行しなさい。彼がもし怪我をしたら大変だし、絶対上陸しないとは限らないからな。しかし、大勢で行くと住民の皆様が怖がるから君含め合計3人まで許可する。」


 「では、現場近くの自衛隊に要請いたします。」


 「あぁ、そうしてくれ。八坂君頼んだぞ。」


 「はい。」


美琴は直ぐに準備して、蒼一郎が向かった現場に車で急行した。現場に到着すると、自衛隊2名がすでに到着、警戒していた。


 「すみません遅くなりました。状況はどうですか?」


 「特に上陸してくる様子はありません。今日は市場も休みですから人もいないので避難遅れの心配はありません。」


 「わかりました。待機しておきましょう。」


 「「了解。」」


次の瞬間、東京湾の沖の方から大きな音と巨大な水しぶきが上がった。美琴が双眼鏡で確認すると水しぶきがあった場所には潜水艦であったであろう鉄の塊がいくつか浮かび上がっていた。自衛隊員たちが唖然としていると、蒼一郎が岸から上がってきた。


 「あっ、八坂さん。終わりましたよもう上陸してくる心配はありません。」


 「お疲れ様、怪我はない?」


 「はい、ありません。・・自衛隊の方ですか?警戒ありがとうございます。もう大丈夫ですよ。」


自衛隊員はあまりの呆気なさに言葉を失っていた。


 「あの?大丈夫ですか?」


 「え?あっはい。大丈夫です。あまりにも呆気なかったので、お疲れ様です。」


 「別の楽だったわけではないですよ。日に日に各国の軍事兵器たちの強力になっていきますし、ですが、これが俺の仕事なのでいつでも頼ってくださいね。この国を必ず守って見せますから。それでは、失礼いたします。」


蒼一郎は自衛隊員に微笑みながら会釈して、物見塔へと帰っていった。


 「なんかイメージと違いました。自分はもっと武骨で冷たい人だと思ってました。」


 「俺も。確か彼の存在は住民の皆様は知らないんでしたっけ?」


 「えぇ、彼の存在を知ってるのは国の上層部と一部の警察官・自衛隊だけです。なぜか、総理と防衛大臣以外の上層部の人たちが彼の存在を隠したがっていて、まぁ公表するメリットもないんですけど。」


 「ですが、噂以上に強いですね。他の国の軍事力を1人で圧倒するこの国の番人は。」


 「答えられたらでいいんですけど、彼の家族は?」


 「・・いません。いえ、正確に言うとどこにいるのかがわからないですね。」


美琴は暗い顔になりながら答えた。


 「私が彼にあったのは去年のことなので詳しいことはわからないのですが、防衛大臣の話によると彼はいわば捨て子です。彼の両親は彼が物心ついたころに育児放棄して、遠い山奥に彼を捨てました。彼は何とか山を下山して、東京と栃木の県境辺りを徘徊していたボロボロの彼を警察が保護しました。その後、彼は孤児院の入ったのですが周りになじめずずっと独りぼっちでした。」


美琴が続きを話そうとした時、美琴のスマホに防衛省に戻ってくるようメッセージが入った。


 「すみません。呼ばれたので戻りますねお疲れさまでした。」


 「あっちょっと!行ってしまいましたね。少年の過去は気になりますが我々も持ち場に戻りますか。」


 「あぁそうだな。・・・孤独故の依存か。」


自衛隊員も自分たちの持ち場へと戻っていった。 

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