第43話
「……流石にまだ来てないか」
デート直前である昨日にようやくデートプランを固めた俺は、午前9時に、近所でもわりと栄えている駅のホームを待ち合わせ場所に指定していた。
ちなみに現在時刻は午前8時だ。
昨日は楽しみと緊張がごっちゃになってあまりよく眠れなかったし、今朝もそわそわして落ち着かなかったので、予定より早く家を出てしまったというわけだ。
しかし、待ち合わせ場所まで来ても今日のデートプランがこれで良かったのか、と自問自答を繰り返していた。
昨日、aiさんは俺がいつも行き慣れている場所に連れて行ってあげればいいとアドバイスをくれたが、本当にその言葉を信頼して良かったのか。
これから自分が連れて行こうとしている場所があまりにも愛とは似つかわしくなく、俺は土壇場になって尻込みしていた。
「……不安だ」
「なにが?」
「うわあ!」
振り返ると、そこには天使がいた。
天使がいたっていうのはもちろん比喩表現であるが、背後から話しかけてきた愛はどこか神々しいオーラを放っていた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「良かったね、今日は晴れて! 絶好のデート日和ってやつじゃない?」
「そうだな……とは言っても、今日行こうとしている場所は天気とかあまり関係ないんだけどな」
「そうなの?」
と、あざとく首を傾げながら俺の顔を覗き込んでくるのはやめて欲しい。
ドキドキして顔をまともに見れなくなってしまうから。
「デートといえばさ、どうかな? 今日の服、似合ってるかな?」
言いながら、愛は俺の前で服を見せびらかすように一周回ってみせた。今の仕草だけで100億点だ。
愛は白いセーターの上から黒い無地のワンピースを着ていて、白と黒のグラデーションが綺麗だった。実にシンプルな服装だったが、だからこそ愛の美人がより引き立っているというか、まあ一言で言えば——。
「……めちゃくちゃ似合ってる」
「めちゃくちゃ似合ってるってことは?」
「ありえないくらいに可愛いよ」
「えへへ」
そう嬉しそうに、愛は笑っていた。
今日が俺の命日なのかもしれない。
「まだちょっと早いけど、もう行こうか」
「うん! 一体、どこに私を連れて行ってくれるのか楽しみだよ!」
「あまり期待してくれない方がいいかもな……」
そうして、俺と愛はゆっくりと歩き出した。
隣に愛を連れて街を歩いていると、周囲の歩行者の目線がこちらに集まってくる。
愛はいつもこんな視線の中で生活しているのか、なんて思ったり。
というか冷静になって考えてみれば、愛も待ち合わせ時間のほぼ1時間前にやってきたんだよな……。
「へええ! ここがインターネットカフェなんだあ!」
aiさんから行き慣れた場所に連れて行ってあげればいいと助言された俺は、愛をインターネットカフェに連れてきていた。
インターネットカフェに今まで来たことのない様子だった愛は、物珍しそうに店舗を見回していて、まあ最初の感触は悪くなさそうだった。
俺は月に一度の頻度で、インターネットカフェに訪れていた。
気になっていた漫画を一気読みしたり、アニメを一期分まるまる視聴したり、自由気ままに過ごせるこの空間が好きだった。
そんな自分の好きな場所を愛に少しでも気に入ってもらえたら、嬉しかった。
「無人で受付なんだあ」
機械で受付を済ませてルームキーを受け取り、指定された部屋の中へと一緒に入った。
「意外と清潔な感じなんだね。カラオケみたい」
「カラオケができるとこもあるみたいだぞ」
「へええ、すごいね。このパソコンで調べ物もできるんだ。……ふーん」
俺と愛が入った部屋は、パソコン一台と広くくつろげるソファーがある部屋だった。
いつも1人で来る時はもう少し狭い部屋を選択するのだが、今日は2人なので少し広い部屋にした。
「……さっき大きな本棚があったけど、あそこから漫画とか持ってきていいってことだよね?」
「そういうことだ」
漫画喫茶には基本的に共有の大きな本棚が設置されていて、そこに置いてある漫画を自由に部屋まで持って行っていいことになっている。
店舗にもよるが、意外と多彩なジャンルの本が揃えられていて、時間を余らせることはない。
「ねえ、司。何かおすすめの漫画持ってきてくれない?」
「いいけど……愛は読みたい漫画とかないのか?」
「司のお気に入りの漫画が読みたい」
「読みたい漫画のジャンルとかは?」
「そこもおまかせで!」
「……分かったよ」
愛にそう頼まれた俺はルームキーを持って部屋を出て——漫画をとりに行くふりをした。
一度部屋を出てガチャリと扉を閉めた後、部屋の前で数秒を心の中で数える。
なぜそんなことをするのかと問われれば、愛の異変を感じとったからだ。
普段の愛なら、一緒に漫画をとりに行こうと楽しげに言うはずであるが、そうは言わなかった。
様子がおかしいのだ。
愛がインターネットカフェの部屋に入ってからというもの、愛はパソコンのあるアイコンに釘付けになっていた。
その事実から導き出された俺の仮説がもし、合っているとしたら……。
「ごめん、忘れ物し……って、18禁コンテンツを開くな!」
「こ、これは違うの! たまたま間違えて開いちゃっただけっ!」
「……その割には食い入るように見てたよな?」
俺たちはまだ高校生だ。
いくら興味があったとしても、18禁コンテンツを見ていい年齢ではない。
俺は部屋に残りたがる愛を無理やり連れて、共に本棚へと向かった。
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