森本 司のデート
第42話
「随分と久しぶりだね、TSUKAくん!」
「たしかにaiさんとゲーム通話するの、すごい久しぶりだよなあ。お互いにテスト週間でタイミング合わなかったから、3週間くらいゲーム通話してなかったんじゃない?」
「そうだね。これが俗に言う、お預けセ———だね!」
「久しぶりのaiさんの下ネタは沁みるなあ……」
松本さんに学校紹介のPV作成を手伝ってもらい、無事にPVは完成した。そんな状況にホッとしていると、aiさんからゲーム通話の誘いがあったのだ。
それに応じて、今に至るというわけだ。
「aiさんって成績いいんだっけ?」
「ええ、誰かに勉強を教えてあげられるくらいにはできるわよ。ちなみに得意科目は保健体育」
「言うと思った。ってか、aiさんの偏った知識じゃテストに活かすことはできないだろ。……でもaiさんって、そんなに勉強ができるんだな。俺も今回、ある人に勉強を教えてもらって。それでまあまあの手ごたえを感じながら、テストを終えることができたんだ」
「それは良かったわね」
「ああ。その人には改めてちゃんとお礼を言わなくちゃいけないな、と思ってるんだ」
「どういたしまして」
「なぜaiさんがそれを言う!?」
っていうか、いま気がついたけど、aiさんって愛と同じ名前なんだな……。
まあ同じ名前の人間なんて、この世にごまんといるだろうし、偶然に過ぎないだろうが。
「そういえば、aiさんに相談したいことがあったんだ」
「なあに?」
「明日なんだけど……俺、デ、デートの約束をしてて……」
「知ってる」
「いや知らんだろ」
「そのデートする子って、例の右隣の席の美少女?」
「ああ、そうなんだ。ただ、3週間前からどういうデートプランにしようかなあって考えてるんだけど、なかなか思いつかなくて。なんかいいプランとかない?」
そう。デートの約束をしたはいいものの、今までデートの一つもしたことがない俺は、どういうデートプランにすれば女の子が喜んでくれるのか、分からなかったのだ。
デートが明日に迫っているというのに、プランがまだ決まっていないという現状に焦りを感じて、背に腹はかえられずaiさんに相談した次第だ。
「ベタに遊園地とかを選択してしまっても良かったんだけど、そもそも俺が行き慣れていないから、不安になっちゃって」
「そこまで一生懸命に考えてくれているのなら、それだけで相手の子は喜んでくれると思うけどなあ」
「とは言っても実際、その子にはそんなこと伝わらんだろ?」
「きっと伝わってるよ」
「いや伝わらんだろ」
そもそも勉強を教えてもらったお礼に何かを奢るという話だったし、当日はできるだけ俺がエスコートしなければならないだろう。
まあ、学校一の美少女を前にしてそんなことできるのかと問われれば、首を横に振るしかないが、それでも最初から諦めるつもりはない。
「じゃあ悩めるTSUKAくんに、一つアドバイスをあげよう」
「まじで!?」
「ええ、まじで。でも一つだけ教えてくれない?」
「なんだ?」
「TSUKAくんはその子のこと、どう思ってるの?」
俺が、愛のことをどう思っているのか。
それは、そろそろ俺が真剣に考えなくちゃいけないことだった。
そもそも告白を保留しているという状況は、実に不誠実な状況だった。
愛は返事を急かすようなことはしてこなかったが、それでも俺が早く返事をすることを望んでいるはずだ。
愛は完璧超人で、学校一の美人で、誰にでも優しくできる子で。
そして、こんななんでもない俺に好意を伝えてくれた。
告白された時は意味が分からなくて、ただただ動揺して、告白は保留にしてもらった。それからテスト期間中に勉強を教えてもらって、いろんなことを喋って、意外な一面も見せてもらった。
最初、愛は自分とは違う世界の住人だと思っていたけれど、そう思い込んでいたのは俺の方で。愛も俺と同じ、一人の人間に変わりなかった。
テストが始まってからは愛とまともに話す機会が減って、それをなんだか寂しく思う俺もいたり。日常のふとした瞬間に愛のことを思い浮かべては、会いたい話したいと、自然に思うことも増えていた。
だから俺はきっともう既に、愛のことを————。
「……それは明日、直接本人に伝えようと思う」
「そ、そう」
「ごめん、返事になってなかったよな」
「ううん、その返事を聞いて満足したからもういいよ」
「なんでだよ」
なんだかさっきから、aiさんと会話が噛み合わないな。
久しぶりの通話で、お互いの距離感が分からなくなってしまっているからだろうか。
「じゃあ、私からのアドバイスを贈呈します」
「よろしくお願いします」
「デートにはTSUKAくんがいつも行き慣れている場所に連れて行ってあげるべきだよ。きっとその子はキミのことをもっと知りたいと思っているはずだし、キミとならどこでも楽しく過ごせると思うから」
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