第10話
「TSUKAくん、そっちに敵を追い詰めたよ!」
「了解!」
「それに負けたら、今日の深夜のおかずは抜きだからね!」
「それでやる気出したら、俺キモくない?」
「たしかにキモいね」
「でもまあ、男同士だし気にすることもないか」
「だから私はネカマじゃないって!」
何度ネカマじゃないと訂正しても、TSUKAくんはネカマの疑惑を晴らしてはくれなかった。
強引にネカマ疑惑を解消する方法はいくつか思いついてはいたが、それを実行してしまうと私の正体がバレてしまいかねないので自重していた。
「っ、倒した!」
「ナイス! TSUKAくん、さすがヤリチ○だね!」
「そう言われても別に嬉しくない」
「さすが粗チ◯だね!」
「そういうことを言いたかったんじゃない」
そのTSUKAくんの1キルで波に乗った私たちは、それから攻勢を維持し続けて、見事その試合に勝利した。
試合に勝利した瞬間の喜びは、他には変え難いものがある。
特にそれを分かち合える仲間がいれば、その喜びは何倍にもなる。
「ナイスプレイ、aiさん! 今日は調子がいいな!」
「うん! ———の————、——————!」
「下ネタの調子もいいみたいでなによりだよ……」
勢い余って、私はとんでもないことを口走ってしまった。
たまに自分で言った下ネタに自分が引いてしまうことがある。
というのも、私はついつい、ゲームのことになると熱くなってしまうのだ。
TSUKAくんが言うには、私は負けず嫌いらしい。
自分ではそう自覚したことはなかったけれど、確かに負けることは嫌いだった。
「ね、ねえ! 今からちょっと雑談しない?」
「いいけど……今日はまだ3試合しかしてないぞ?」
「そ、そんなことないもん!」
「そこはあんまり意地張っても意味ないでしょ……」
たしかに少し、雑談に誘うタイミングが早すぎてしまったかもしれない。
まだ通話を始めて30分も経っていなかったし、ここ3戦は3連勝という好成績を残せていて、いい流れが来ていると言って申し分なかった。
このタイミングで雑談に入るのは、もったいなかった。
しかしそれでも雑談をしようと言ったのは、今日は今すぐにでも、TSUKAくんに確かめたいことがあったからだ。
それは3時間目の授業が終わった時から、ずっと気になっていたことだ。
「まあ、いいけどさ。それで何か話したいことでもあるの?」
「うん」
私はそう相槌をして、いよいよ本題をきりだした。
「きょ、今日さ、TSUKAくんに何か特別なことはなかった?」
「特別なこと? 随分と抽象的な質問だなあ」
「た、例えば、学校で何か特別なことととか、なかった?」
「今日の学校であった何か特別なことか……」
言いながら、TSUKAくんは今日の学校で何があったか思い出してくれているようだ。
昨日、TSUKAくんは『男なんて一度目が合ってニコって微笑まれたら、好きになってしまう』と言っていた。
それを聞いて私は今日、TSUKAくんに目を合わせて微笑んでみたのだ。
タイミングはいつでも良かったのだが、数学の授業中にそれを実行した。
休み時間は私の周りにクラスメイトたちが集まってきてしまうし、数学の授業中がタイミング的にもちょうど良かったのだ。
——なぜそんなことをしたのかと問われれば、それはこれから、aiの正体が私であると打ち明けるためだ。
TSUKAくんが私のことを好きになってくれれば、きっとaiの正体が私でもTSUKAくんは失望しないでいてくれる。
そんな考えから起こした行動だった。
自他ともに認める、絶世の美女の私が直々に微笑んだのだ。
TSUKAくんも、きっとイチコロだったに違いない。
こうなったら最後、これからTSUKAくんのことは煮るなり焼くなり、私の好きにさせてもらおう。
「……ぐへへへへっ」
「なにその気持ち悪い笑い方」
「な、なんでもないよ。それで、何か思いついた?」
「ああ。確かに一つ、今日はいつもとは違う不思議なことがあったよ」
そうだろう、そうだろう。
キミは今日、右隣の絶世の美少女に……。
「今日、右隣の絶世の美少女に、なぜか凝視された上に鼻で笑われたんだ」
「…………ぇ?」
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