ネカマだと思っていた俺の一番仲のいいオンラインゲーム仲間が、クラスで隣の席の美少女であることに永遠に気がつかない

でらお

第一章

森本 司の日常

第1話

 時刻は、夜の8時過ぎ。


「aiさん、こんばんは。今日もよろです!」


 約束の時間となり、音声通話アプリで目的の人物がオンラインになったのを確認して、俺はそう話しかけた。


 まもなく、明るく元気な声が返ってくる。


「TSUKAくん、こんばんは! こちらこそよろで〜すっ」

「aiさん、もう夜ご飯は食べた?」

「食べたよ〜。そしてお風呂にも入った! だから私たちを邪魔するものは何1つとしてない! 今日は朝まで寝かさないぞっ」

「なに言ってんだ、明日はお互いに学校だろ?」

「残酷な現実を思い出させるなよぅ」


 俺は、オンラインゲームをやるのが趣味だった。

 いろんな人とネット上で知り合って、通話をしながらゲームをやっている。


 その中でも一番仲のいいオンラインゲーム仲間がいて、それがいま通話している、aiさんだ。


 aiさんは俺と同い年で、aiさんも高校1年生になったばかりらしい。


 3ヶ月くらい前にaiさんとは知り合ったのだが、今では週に3日ほどのペースで、一緒のゲームをプレイしている。


 ちなみにaiさんとやっているのは、某有名シューティングゲームだ。

 4対4のチームに分かれ、制限時間5分で勝敗を争う。


 aiさんとはゲームの腕前が同じくらいで、すぐに意気投合した。


「aiさん、今日の目標はどうする?」

「もちろん、全勝でしょ」

「それいっつも言うよな」

「負けることを考えて、ゲームをやるつもりはないよ!」

「そうだけどさ、もっと現実的な目標立てようぜ〜」

「じゃあ今日は一回も死なない」

「……aiさん、俺の話聞いてた?」


 オンラインゲームを少し嗜む人なら分かると思うが、数時間もプレイすれば試合に負ける瞬間は必ず訪れるし、1回も死なないなんてことはありえない。

 

 それでもaiさんは、いつも無理な目標を立てていた。

 言ってしまえば、aiさんは負けず嫌いだった。


 だから無理な目標を立てるのも、いつものことで。



 いつものことと言えば、もう1つ。


「今日もボイチェン芸、お疲れ様です!」

「だから私はネカマじゃないって!」

「はいはい、そうだね」

「どうして信じてくれないのよ! 違うっていつも言ってるじゃない!」


 aiさんは女性の声をしていたが、俺はaiさんのことをネカマだと思っていた。

 

 ちなみにネカマというのは、ネット上で女性のふりをしている男性という意味の単語だ。


 世の中には、ボイスチェンジという自分の声を瞬時に異性の声に変えることのできる恐ろしいアプリがあり、俺はaiさんがそれを使っていると疑って……いいや、それを使っていると確信していた。


 本人が強く否定しているのにも関わらず、僕がaiさんをネカマだと信じて疑わないのには理由がある。


「TSUKAくんがどうしても信じてくれないって言うなら、TSUKAくんが早漏な上に短小だから、クラスのみんなにミニ四駆ってあだ名つけられていること、TSUKAくんのご両親に報告しちゃうからね!」

「早くて小さいってか!? 根も葉もないことを言うな!」


 

 それは……aiさんが大の下ネタ好きだったからだ。


 それもかなりエグめの下ネタ好きで、男の俺でも思わず耳を塞ぎたくなってしまうような単語を、大きな声で叫ぶこともある。


 女性にも下ネタ好きはいると思うが、まだ顔も知らない異性に、ここまで下ネタを連呼できる女性などいるはずがないだろう。


 したがって、俺の中でaiさんはネカマだという結論に落ち着いたのだ。



「分かった分かった。aiさんは女の子だよ」

「それ絶対わかってないやつー」

「時間がもったいないからさ、とりあえずゲームを始めようぜ」

「……仕方ないわね」


 aiさんは俺の主張を否定したそうな様子ではあったが、早くゲームがしたいという気持ちもあるのか、渋々ゲームを始めてくれるようだった。



 しかし、どうしてaiさんはネカマなんてするんだろう。


 そもそも俺にネカマだと見抜かれてしまった時点で、女性の演技をする意味はほぼなくなってしまったはずであるのに。


 そういう部分でも、aiさんの負けず嫌いな一面が現れているのだろうか。


 まあそんな、どれだけ考えても一向に分かりそうにないことはいい、とにかく今はもうすぐ始めるゲームに集中しよう。


 ゲームに集中しないと、aiさんに叱られるしな。

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