第11話 取引と協力関係
受話器の向こう側では、アカネが顔を強張らせていた。
当然、アカネには今電話をかけてきた相手は誰なのだろうかという疑問が浮かぶ。
電話越しにその男は言った。
「僕の所属組織はダークホース、コードネームはスピアだ。つい7日ほど前に、あんたの家のインターホンを押した張本人だよ」
アカネは、何故彼が電話をかけたのか分からなかった。
「申し訳ありませんが……あなたの求める人物はここにいません」
アカネは、二階からインターホンでの会話を聞いていたのだ。
しかし、間髪入れずに彼が言う。
「それも分かっている。だから、僕はアンタに電話をかけているんだ。単刀直入に言わせてもらうよ、僕が持っているジュンカについての情報は全て開示するから、君が知っていることを話してくれないか? 」
アカネは、迷っていた。正直言って、今電話越しにいる人物が危険なのかどうかは分からなかった。ただ、前に私の家に来たときは、約束を守り本当に危害を加えなかったことも知っていた。
私の命を狙っているとは少し考えづらい。
数秒の沈黙の後に、彼女はゆっくりと言った。
「…………明日の午前9時、ミャンテワールドタワーの1階にあるカフェで待っています。どうせ、私の顔も分かっているんですよね……? なら、席の場所は指定しなくてもいいですか……? 」
「スピア」は、分かった、と言うとすぐに電話を切る。
静寂が訪れる。
アスカの額を、汗が伝った。
やはり私はまだ、諦めきれていなかったみたいだと、まるで他人事のように思う。
一方、スピアは一安心していた。
もし警戒心が強い人だったら、強制的に話を聞き出すという手段も考えていたのだが、それは使わなくて良さそうだ。
そんなことを思いながら、一人モーテルで眠る。
彼が丁度眠りについた頃。
ジュンカは、都市部のカジノのディーラーとして、働いていた。
黒いベストと蝶ネクタイ、パンツスーツを身に着けた私は、飲み物を各テーブルに持っていく。
赤いシャトーワインを、富豪のように見える男性客に注いでいた。
丁度、その時だ。
パーンと、一発の銃声が聞こえる。
客の悲鳴とどよめきが、妙に反響した。
私は、恐る恐る音が聞こえた方を振り返る。
「ここに、チャムロ・ジュンカという従業員はいませんか? 」
その瞬間、先程までワインを飲んでいた男が銃口を向ける。
この男もまた、リカルドの仲間だったのか。
……次はない、と言ったはずだ。なら、選択の余地はない。
しかし、様子がおかしい。もちろん、どよめき逃げ回っている客も大勢いるのだが、まるで動じず、一歩一歩私の方へ近づいてくる客もいる。
いや、彼らは客ではないのか。
リカルドは、この前に会った時からここまで協力者を増やしたのだろうか……?
そんなことを思いながら、私はスカートで隠れている小型の拳銃を取り出そうとした。
リカルドは決して大きくはない声で言う。
「貴女は、また無関係な人々を犠牲にするのですか? いい加減、投降してくださいよ……。ジュンカお嬢様、これは罪を償う絶好のチャンスですよ? 」
彼女は、表情を全く変えなかった。しかし、目には何も浮かんでいない。
ジュンカは思う。
私は、たとえ死んでも仕方ないのではないだろうか、と。
先程ワインを注いでいた隣の女が言った。
「彼女を捕らえなさい」
一斉に銃口を向けられた私は、抵抗せずに両手をあげる。遠くから、警察大学の同期の声が聞こえてきた。
彼女は……確かヴァレンティ・ベガという名前だった気がする。
私は、リカルドと警察が協力関係にあったという想定外の事態に対処しきれなかった。
「マデリーさん! チャムロ・ジュンカの確保、無事成功しました!
警察の本部では、マデリー・ライドンが真ん中の席に堂々と座っている。
「とにかく、彼女は警察庁の仮収容所に収容しておきなさい。話はそれからだろう。
無線越しに、「承知いたしました」とシュ・ソンリェンの声が聞こえる。
彼も、ジュンカと同じように特殊警察に所属している一人だ。
いや、ジュンカは
彼女は、敵だったのだ。
マデリーは呟く。
「何故ユミン警正は……いや、チャムロ・ジュンカは我々を裏切ったのか……じっくり話を聞く必要がありそうだな……」
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