第十五話 ルナさんVSパペットーズ後編

~ルナ視点~





「こっちの方に吹き飛ばされたと思ったのだけど?」


 強風で飛んで行ったパペットーズを追いかけると、木に激突している彼を発見する。


『いたた。まさか強風を生み出す魔法を使うとは』


「今ので分かったかと思うけど、これであなたは私に近づくことができないわ」


『確かにやっかいだな。でも、こうすれば怖くない』


 パペットーズは体を構成している繊維を解き、1本の糸を木に括り付ける。


『これで、風が来ても吹き飛ばされる心配はないぞ』


 完全に対策ができましたと言わんばかりに、パペットーズは上唇から上の部分を横にずらす。


 確かに木に繋がっている以上は、吹き飛ぶ心配はないかもしれない。だけど、その方法では明らかに穴があることを、彼は気付いていないみたい。


「確かにそれなら風の対策もできているけど、木に括り付けている以上は、私に接近することができないじゃない」


 リーチの関係で接近することができないことを告げると、この場に沈黙が流れた。


 何か言いなさいよ! これではまるで私が間違ったことを言っているように感じるじゃない。


 予想とは違った反応に、焦ってしまう。


 落ち着きなさい私。これも相手の作戦かもしれないわ。


 パーぺとマーペに分かれていた頃、彼らは予想外の行動にでて、精神面での攻撃をしていたこともある。


 ここは何かの作戦であることを踏まえて、何が起きても対策できるようにしておくのよ。


 敵のパペット人形を観察していると、違和感を覚えた。


 あれ? もしかして小さくなっている?


 目を凝らしてもう一度見てみる。


 うん、やっぱり見間違いじゃない。パペットーズの身長が縮んでいるわ。


 どうして敵が縮んでいるのか、それには理由があるはず。思考を巡らせながら観察をすれば何か分かるはず。


 小さくなりつつあるパペットーズを見ていると、地面に糸のような繊維がパペットーズから垂れ下がっているのが見えた。


「もしかして!」


『お、ようやく気付いたようだな。そうさ、俺は最初からこれを狙っていた! 届かないのなら届かせれば良いだけの話し』


 茂みの中から2本の糸が飛び出してくると、瞬く間に腕に巻き付く。


 今の私は両手にギブスをされているような状態となり、思うように動かせない。


『アハハハざまあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! これでお前の体は俺のものだ! さぁ僕とひとつになろう。最初は嫌かもしれないけれど、直ぐに気持ち良くなるから』


 次々と糸が巻き付き、拘束されていく。このまま全身を覆って、私の意識を乗っ取って操ろうとしているのね。


『言っておくが、核を破壊しようとしても無駄だぞ。俺の核はメイデス様が様々な鉱物を混ぜ合わせたブレンド核だ。普通の核ではない以上、簡単には死なないからな』


 なるほど、この子の核は鉱物をブレンドして作られているのね。この情報は使える。


 負ける訳にはいかない。頭の中にあるこの作が成功すれば。


 お願い、予想が当たって!


 心の中で声をあげると、繊維が顔を覆い、視界まで防がれた。


 もう何も見えない暗闇となってしまった。全身が覆われたことにより、意識すら朦朧としてくる。


『アハハハ! これでお前の体は俺のもの。ミイラのようになってしまったが、まぁ良いだろう。お前を人質にして、テオがボコられるように仕向けてやる』


 僅かにパペットーズの声が聞こえる。テオ君の迷惑になってたまるものですか!


『何だ! 体が熱い。ルナめ、炎魔法でも使いやがったか。でも残念、俺には炎魔法は効かない。アハハハ!』


 嘲笑うかのように、パペットーズは笑い声を上げる。


 確かに炎は効かないわね。これならどう?


『こ、今度は冷たい! ルナめ、俺の体内で氷魔法を使ったか。でも残念だったな。氷魔法の耐性も持っている』


 それはどうかしら!


『アハハハ……クアッ! ど、どうして苦しい! バカな! 俺には炎や氷への耐性をメイデス様から付与されているんだぞ』


 苦しむパペットーズの声が耳に入る。


 成功した! 自身を犠牲にした一か八かの策だったけど、どうにか成功してくれたわ。そのまま砕け散りなさい!


『こ、これは俺の核に直接熱と冷気が送り込まれているのか! ま、まずい! あ、頭が割れそうだ! ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 パペットーズが叫び声をあげると、私の視界は良好となり、締め付けられた感触もなくなった。


「ふぅ、どうにか倒すことができたわね。でも、服がボロボロ、後で着替えないと」


『くそう……どうして……核が破壊された……』


 全ての繊維が解けて空中に霧散する中、パペットーズは最後の言葉を思われるセリフを口にする』


「炎と氷の魔法を使って熱と冷気を与えることで、急激な温度変化が生じるわ。核を形成する鉱物に温度変化を与えたことで、鉱物も膨張や収縮を繰り返す。この時、鉱物の種類によって膨張や収縮の割合が異なるため、鉱物同士の間にずれが生じる。これによりヒビが入り、崩れてしまったって訳。まぁ、一言で言うのなら、あなたの核を風化させたのよ」


 おそらく聞こえてはいないのかもしれないけれど、冥土の土産にどうして負けたのかを教えてあげた。


 パペットーズの気配が消えたあと、アイテムボックスから予備の着替えを取り出し、服を脱ぐ。


「下着の方もボロボロ、これは全部着替えないといけないわね。それに肌も荒れてしまっている……ヒール」


 回復魔法を唱えてお肌の調子を整えると、周辺に人の気配を感じないことを確認して着替えを始める。

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