第十五話 残り30分

~ルナ視点~




 部屋の中に閉じ込められた私は、お父様が戻って来るまでに脱出する方法を考える。


 身代わりのマネキンをベッドの中に忍び込ませたところで、タイムリミットは残り30分になっていた。


 早く、この部屋から脱出する方法を見つけないと。


 他に怪しい場所がないか、まだ触れていない箇所を調べることにする。


「まだ調べていない場所はあの本棚ね」


 本棚の前に向かい、中に収められている本の背表紙を眺める。


「この本ってまさか!」


 気になった本を取り出し、ページを開く。


「やっぱり、ファイヤーボールの魔導書だわ」


 魔導書は、魔力がない者でも魔法が使用できるようにするために開発された本。


 もしかしたら、解除魔法の魔導書があるかもしれないわ!


 目を凝らして本棚の中に収められている本の数々を眺めるも、他には魔導書の類いのものは見つけられない。


「やっぱり、そんなに都合良く解除魔法の魔導書は置いていないわよね。まぁ、良いわ。一先ずこの魔導書を使ってみましょう」


 魔導書を使って脱出を試みようとしたその時、本棚の中にあるとある本が視界に入る。


 気になってしまい、恐る恐る取り出してみると、表紙にはバニーガールの姿をした女性が載っており『ピーチピチバニーちゃん』と言うタイトルが書かれてある。


「うわー、懐かしい。小さい頃に読んだなぁ。何でこんなところにあるのだろう」


 時間がないことは承知していたが、懐かしい思いから、つい本を開いてしまう。


 しかし開いた瞬間、この本を床に叩き付けたい衝動に駆られる。


 登場人物は、確かに私の好きなバニーちゃんだった。でも、彼女は裸体であり、男性器を掴んだり、咥えたりしているシーンが描かれてある。


「私の大好きだったバニーちゃんを汚さないで!」


 思わず感情的になり、ファイヤーボールの魔導書を持つと魔法名を口走る。


「ファイヤーボール」


 言葉を放つと同時に空中に火球が現れ、窓に直撃するも、その後すぐに霧散する。


「そんな! 魔導書の対策もされているなんて」


 ことごとく失敗に終わってしまう。でも、私はまだ諦めない。


 もう一度本棚を覗くと、本があった場所に何やらダイヤルらしきものがあることに気付く。


「もしかして!」


 予想が的中しているかを確かめるために、棚一列分の本を取り出す。すると、本の奥にも本があったが、小さい金庫のようなものもあった。


「やっぱり、二重にして本が収納されていたんだ」


 見つけた金庫には鍵と4桁分のダイヤルがあり、それらをクリアすれば開けられるようになっている。


 そう言えば、さっきドレスの中から出てきた鍵を持っていたわよね。


 ショルダーバッグ型のアイテムボックスの中に、魔導書とエロ本を収納する。


 魔導書は使えるし、あの本は後で処分しましょう。でも、1回くらいなら最初から最後まで読んでみて良いかも。ある意味教材のようなものだろうし。


 2冊の本を収納した後に鍵を取り出すも、多少罪悪感はあった。


「こ、これは盗みではなくって借りるだけよ。それにあの本は、この世界に存在してはいけないものだわ。全国のバニーちゃんファンを悲しませるもの」


 罪悪感から逃れるために、拝借と言うことで自身を納得させる。


 まずはこの鍵が合うかどうかを確認しないと。


 持っている鍵を、金庫の鍵穴に挿入して回そうとしてみるも、鍵が回ることはなかった。


 微妙に形が合わなかったみたいね。そうなると、どこに使う鍵なのかしら?


 それに、この金庫を開けるには4桁の番号も知る必要がある。


 1番から順番にやれば、いずれかは開くかもしれない。でも、そんな時間は残されていないわ。


 他に怪しい箇所がないか、本棚を隈無く調べてみるも、あれ以上に怪しいものはなかった。


 もう一度柱時計を見る。時間は残り20分になっていた。


 もう、あまり時間がないわね。


 時間が迫る中、視界に入る柱時計に視線を向けていると、小さい扉があることに気付く。更にその扉には鍵穴があった。


「もしかしたら、あの柱時計に使う鍵かもしれないわ」


 鍵穴に先ほどの鍵を入れて回してみると、ガチャリと音が耳に入る。


 柱時計の鍵だったのね。中には何か入っているのかしら?


 扉を開けて中を見ると、一枚の紙が入っている。紙には3810と書かれてあった。


「3810……これってあの金庫の番号よね。3810サーバントと覚えるとしましょう」


 これで残すは鍵のみ。でも、その鍵はいったいどこにあるの?


 鍵が隠されている場所を探すも、見つかることはなかった。


 時計を確認すると、残り10分にまでタイムリミットが迫っている。


 次第に焦る中、時計の文字板に赤い石のようなものがはめられているのに気付く。


「ひとつ外れているわね……もしかして!」


 椅子を破壊したときに出てきたあの赤い石なら、もしかしたら嵌まるかもしれないわ。


 壊れた椅子の残骸の中から赤い石を取り出す。そしてすぐに柱時計のところに戻り、文字板に赤い石を嵌める。


 すると、時針と分針が回転を始め、12時のところで止まった。すると文字板の下の部分が破け、中から小さいハトのオモチャが現れる。


「ハトの口に加えているものは鍵?」


 作られたハトから鍵を取り出し、金庫に向かう。そして鍵を挿入して回した。


「あとは4桁の番号を入力するだけ。確か3810サーバントだったよね」


 ダイヤルを回して4桁の番号を紙に書か

れてあった数字に合わせる。すると金庫が開き、中からボタンのようなものが入っていた。


「このボタン、もしかして」


 思い切ってボタンを押してみる。すると床の一部が動き、地下に繋がるであろうと思われる階段が現れた。


「やった! これで私も脱出することができるわ!」


 私は階段を降り、無事に屋敷から脱出することができた。






 目が覚めると、私は小さくため息を吐く。


「はぁー。今日もなんて言う夢を見たのかしら。屋敷から出たいと言う願望が強すぎて、あんな夢を見たのね……テオ君早く助けに来て」

 

ベットから起き上がり、窓越しに外を見る。


テオ君はきっと助けに来てくれる。私も戦うのよ。

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