第十四話 ミッションスタート!1時間以内に脱出せよ

~ルナ視点~




 お父様が部屋から出て行った後、私はどうにかしてこの建物から出る方法を考えていた。


 周囲を見る限り、私の部屋ではない。それに部屋の作りからしても、グレイ家の屋敷ではないことは明白だった。


「お父様が戻ってくる前に、この部屋から脱出しないといけないわね」


 タイムリミットは1時間。それまでに、この建物から脱出しないと。


 扉の前に立ってドアノブを握り、右に回してみる。でもドアノブは不自然な程固く、回ることはなかった。


「施錠魔法がかけられている! これでは廊下に出ることができないわ!」


 こっちのドアから出られないとなると、確率は低いかもしれない。でも、やってみないことには何も分からないわ。窓からの脱出を試みてみましょう。


 窓に近付き、押し戸に力を入れてみる。


「やっぱりダメね。こっちにも施錠魔法がかけられているわ」


 扉からも、窓からの脱出は難しそう。でも、どうにかして脱出してみせる。だって、私がいるべきところはここではないもの。


 器物損害なんてことは、本当はしたくない。でも、この際は仕方がないわ。


「ファイヤーボール!」


 お得意の火球魔法を唱えて火の玉を生み出そうとする。けれど、ただの言葉遊びとなってしまい、火球が出現することはなかった。


「そんな! 魔力封じまでこの部屋にされているの!」


 魔法が発動しない状況だと、残す方法は後ひとつしかないわね。


 机の前に移動して椅子を掴み、脚を握って持ち上げる。そして勢い良く窓に叩き付けた。


 しかし窓に当たった瞬間、椅子はバラバラに壊れてしまい、残骸が床に散らばる。


「力技でも無理だなんて」


 状況に絶望しそうになった瞬間、バラバラになった椅子の残骸の中から、赤い石があることに気付く。


 椅子の装飾に使われていたものかしら? まぁ、今はそんなものを気にしている場合ではないわ。


「何かないの? この部屋から出る方法は?」


 部屋内を見渡し、もう一度周囲を確認する。


 部屋の中には、私が眠っていたベッドにドレスが入っていると言うクローゼット。それに机と本棚。あと、大きい柱時計ね。大雑把に言えばこんなものかしら。


 もしかしたら探索をすれば何かが見つかるかもしれない。絶対に諦められないもの。


「とりあえずは、私のドレスが入っているって言っていたクローゼットから調べてみましょうか」


 クローゼットに近付き、扉を開ける。


「きゃあ! ひ、人!」


 思わず声を上げてしまい、その場で尻餅をつく。けれど、よく見ればそれは人ではなく、等身大のマネキンだった。マネキンにはなぜか片方の腕がなくなっており、ホラー感を醸し出している。


「お、驚かせないでよ。お父様のバカ! どうしてマネキンごとクローゼットの中に入れているのよ!」


 本気でお父様に怒りを覚える中、心臓の鼓動が早鐘を打っている。


 心臓に悪いわね。夢に出て来なければ良いのだけど。


 マネキンの着ているドレスは黄色で、花の装飾が施されている。


 1回ドレスに袖を通してみたい気持ちになるも、首を左右に振って自信に言い聞かせる。


 こんなところでドレスを着ていたら、時間を浪費するわ。脱出をする前にお父様が来てしまう。


 クローゼットの中には、ドレスを着たマネキンくらいしかない。


「次は机を調べてみましょうか」


 机に近付き、引き出しを開ける。


「きゃあ!」


 引き出しを開けた瞬間、目に映る光景を見て思わず声を上げる。そこには、なぜかマネキンの片腕が入っていた。


「どうしてこんなところにマネキンの片腕なんてものが入っているのよ! 頭おかしいでしょうが!」


 マネキンの腕を掴み、その場に叩き付けようとしたが、こんなものに当たっても意味がないことに気付く。


「こんなことをしている場合ではないわ。でも、もしかしたらこれは時間稼ぎになるかもしれないわね」


 ベッドの中にマネキンを入れ、掛け布団を掛ければ、脱出した後にお父様が来たときに、注意を引かせることができるかもしれない。


 マネキンの腕を持ったままクローゼットに戻り、片腕を失ったマネキンに取り付けた。


 その時、ドレスの中から何かが落ちた。視線を下に向けると、鍵らしきものが落ちていることに気付く。


「いったい何の鍵かしら? まぁいいわ。もしかしたら何かに使えるかもしれない」


 鍵をショルダーバッグ型のアイテムボックスの中に入れ、マネキンを抱える。


「思っていた以上に重いわね。でも、どうにか1人で運べそう」


 ゆっくりとマネキンをベッドの上まで運び、バレないように上から掛け布団を被せる。


 これでトラップは完成ね。上手く引っかかってくれれば良いのだけど。


 部屋に置かれてある柱時計に目をやると、あれから30分が経過していた。


「うそ! もうそんなに時間が立ってしまったの!」


 残された時間は残り30分、タイムリミットの半分を消費してしまった。


 もう一度お父様がこの部屋にやって来るまでに、この部屋からの脱出方法を探して逃げ出さなければ。


「その場で立ち止まって考えている時間がもったいないわ。動きながら考えましょう」

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