第六話 ルナさんの狙いは既成事実
ルナさんに夜這いをされた俺だったが、どうにかメリュジーナが妨害してくれたお陰で一線を越えずに済んだ。
気を失ったルナさんは、俺の上に倒れている。
今の内に解毒を完了させるか。えーと、どこまでの解毒方法を試したっけ? これまで体験したことのない気持ちの良い感触が脳を支配していたせいで、忘れてしまった。
多分、あそこまでのは試したよな。
引き続き解毒魔法で治療を行うと、体の痺れがなくなってきた。
「あ……ああ……うん。よし、声が出せるようになった」
「
「まぁ、最終的にはルナさんの暴走を止めることができたから別に咎めはしない。でも、助けに入るのが遅かったな」
「う、うん。それが……とても言い難いことなのだけど」
頬を朱に染め、メリュジーナはもじもじとしだす。
もしかして。
「ごめん……
やっぱりな。そんなことだろうと思ったよ。
「とにかく、どうしてこんなことをしたのか、ルナさんからきっちりと話しを聞かないといけないよな。メリュジーナ、悪いけどルナさんを着替えさせてくれ」
「うん、分かった」
意識を失っているルナさんに着替えを頼むと、メリュジーナはルナさんの履いているパンツの縁に手を入れ、そっと下にズラした。
「ちょっ! 何をしているんだ! メリュジーナ!」
「え? だから着替えをさせようと。だってこんなエッチな下着を履かせたままでいさせる訳にはいかないだろう」
「下着はそのままで良いから! 何か上から羽織るものを着させて!」
真夜中であるにも関わらず、思わず声を上げてしまう。
なぜかメリュジーナは不服のようで、頬を膨らませると渋々とルナさんにローブを着せる。
俺の言い方が悪かったのは認めよう。でも、ローブの内側には下着姿ってなんか変態ぽくないか。
「うーん。あれ? ここは」
「あ、ルナさん。気が付いた?」
目を覚ますのを待つこと数分。ルナさんが両の瞼を開け、黄色い瞳が露わになる。
目が覚めたばかりだからか、彼女はボーッとしている様子であった。しかし時が経過すると意識がはっきりとしたようで、ルナさんは小さく息を吐く。
「そうか。私……失敗しちゃったんだ。ごめんね、テオ君……迷惑をかけて」
「謝るくらいなら最初からこんなことをしないでくれよ。なぁ、どうしてこんなことをしたんだ? やっぱり、ルナさんの婚約が関わっているのか?」
どうしてこんな大胆な行動に出たのかを訊ねる。するとルナさんは気まずいのか、腰を下ろした状態で膝を曲げ、足を抱き抱えるように腕を回して顔を俯かせる。
「やっぱり気付くよね。そう、私はお父様の決めた婚約が嫌だった。もちろん、お父様の言っていることは分かるわ。これまでご先祖様が頑張ってきたことを無駄にさせたくないって。でも、私も1人の女の子だもん。一緒に残りの人生を過ごす相手は、運命の相手だと思えるような人とが良い」
気持ちが沈んでいるのか、ルナさんの声は小さかった。でも、俺は彼女の言葉をひとつも漏らすことなく聞き取る。
「どうしても納得できなかった私は、お父様に反抗したわ。そして家を飛び出し、森の中を彷徨っているとテオ君と出会った。テオ君が予言に出て来る救世主だと知った時、あなたなら私を救ってくれるかもしれない。だから少しでも気に入ってもらいたくって。テオ君に色々と貢いだの」
ルナさんが俺に優しくしてくれたのは、何か裏があるのではないかと思っていたけど、やっぱり事情があったんだな。
まぁ、下心のない人間だなんて殆ど存在しない。口では聖人ぶって言っても、心の内側には何かしらの下心が隠されている。
「テオ君にはあまり効果がなかったみたいだけど、ハニートラップもしていたのよ。宿屋でゴキが出たって言って叫んだことがあったでしょう。あれ嘘だったのよ。事故に見せかけて私の裸体を見せれば、意識せざるを得ないと思ったから」
「
彼女の言葉を聞き、なぜかメリュジーナがジト目を向けてくる。
そりゃ、メリュジーナと出会う前だから当たり前じゃないか。
メリュジーナに視線を向けられ、苦笑いをすることしかできない。
どうして俺がこんなに攻撃を受けている?
まぁ、口に出して言えないことだから心の中で呟くけど、あのハニートラップはめちゃくちゃ効果がありました。意識しすぎて、その日はまともに寝られなかったですよ! 俺だって男だ! ルナさんみたいな綺麗で可愛い人の裸を見て、意識しない男なんていないって!
「まぁ、その後メリュジーナと出会ったことで、最近は控えるようにしていたのだけど、お父様が再び私の前に現れたから、焦ってしまったんだと思う。追い詰められていた私は、お父様の前でテオ君に全てを捧げたと言って嘘をついた」
ルナさんの言葉を聞いてこの前のことを思い出す。
あの時は、マジでビビった。突然すぎて、頭の中が真っ白になったからな。
「でも、お父様のことだから、そんなことは嘘だと直ぐにバレてしまう。だから最終手段として、嘘を真実にしようとしたの。既成事実を作ってワンチャンテオ君の子を授かるようなことになれば、さすがのお父様も諦めるしかないと思ってね」
ルナさんが行っていたこれまでの行動の真実が明らかになる中、俺は額に手を置く。
「ルナさんの気持ちは分かる。でも、もうこんなことは二度としないでくれ。自分の未来のために自分を犠牲にしてしまっては、本末転倒だ。俺が本気に好きになったら、俺から逃げることができないことくらい、ルナさんも分かっていたはずだろう。本当のルナさんが望む未来を実現するためにも、こんなことはしないでくれ。どんなことになろうとも、俺はルナさんの味方だ。何があっても君を守ってあげる。だから、好きでもないのに自分を犠牲にするようなことはしないでくれ」
「さすがの私でも、婚約を破棄するために利用する相手は、誰でもいい訳じゃないもん。テオ君だからこそ、私のファーストキスをあげたのに」
ルナさんが何か言ったようだったけど、今度は相当小さかった。なので、聞き漏らしてしまった。
「ルナさんごめん。今何か言ったよね。上手く聞き取れなかったから、もう1回言ってくれないか?」
「テオ君のバカ!」
「はい?」
今度は声が大きかったので嫌でも聞き取れる。だけど突然罵声を浴びせられ、困惑せざるを得ない。
「テオ君のバカ! 大バカよ! どうしようもない大バカだわ! 私の気持ちなんて全然分かっていない! この女
身に覚えのない暴言を吐かれ、唖然としている中、ルナさんはベッドから立ち上がると自分のベッドの中に入った。
俺、彼女の機嫌を損ねるようなことを言ったのだろうか。
考えてみるも、答えに辿り着かなかった。
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