第十一話 救出作戦開始

 さて、それじゃそろそろ始めるとしますか。まずはこの牢屋に、魔法封印や魔法反射が施されていないかを確認するとするかな。


 俺は手始めに、火球を生み出そうとする。するとイメージ通りに火球が生まれ、魔法を発動することができた。


「ダメ! この牢屋には反射魔法がかけられている! 自分で自分を傷付けることになるわ!」


 火の玉を生み出した瞬間、対面の牢屋に閉じ込められている女の子の1人が叫ぶ。


 やっぱり反射魔法が施されているのか。でも、自分の目で確かめない限りは、そう易々とは信じることができない。


 幸いにもこの牢屋には俺しかいない。やるだけのことはやってみるとするかな。


 火球を鉄格子の扉に放つ。すると火の玉は鉄格子に当たった瞬間に跳ね返り、こちらに飛んで来た。


「ウォーターボール!」


 目の前に水球を生み出し、火球にぶつけることで相殺する。


「あなたバカなの! 人がせっかく親切に教えてあげているのに!」


「悪いな。俺は用心深いんだ。他人の言うことなんかを簡単に信じるほど、お人好しではないんでね」


 教えてくれた女の子に謝り、牢の端に移動すると床を見る。


 彼女の言う通り、この牢屋には反射魔法が施されている。なら、次はこの牢全体に反射魔法が施されているのかを確認すべきだな。


 右手を前に出し、床に向けて魔法を放つ。


「パップ!」


 魔法を発動した瞬間、床が砕け散る。砕けた範囲は通路の一部まで到達しており、鉄格子の下をくぐり抜けて脱出することができそうだった。


 どうやら床にまで反射魔法がかけられていなかったみたいだな。もし、反射されたら、音の力で吹き飛ばされるところだった。


 空気の振動だけで物を壊すことは、空気の振動が対象物の強度を上回ればできる。この性質を利用し、音の力だけで床を破壊したが、上手くいって良かった。


 空いた空間から鉄格子をくぐり抜け、通路へと出る。


「あなた何者?」


「ただの旅人だよ。ちょっとした縁があったから、君たちを救出しにきた」


「救出ねぇ……それにしても、捕まるなんておっちょこちょいじゃないの?」


「これは作戦だ。俺は敢えて捕まった。外から侵入して内部に潜り込むよりも、内部から君たちを解放した方が危険性は低いからな」


 女の子と会話をしながら思考を巡らせる。


 さてと、取り敢えず俺は脱出したが、彼女たちはどうやって助けるかな。音の魔法で床を破壊したら、牢の内側にいる彼女たちにまで被害を受けることになる。ここは肉体強化の魔法を使ってこじ開けてみるか。


「エンハンスドボディー」


 肉体強化の魔法を発動し、脳のリミッターを外して限界ギリギリまで筋力を強化させる。


 鉄格子を握り、思いっきり横に動かす。鉄はグニャリと曲がり、どうにか人ひとりが通れるくらいの空間を開けることができた。


 どうやら反射魔法は、牢の中にかけられているだけだったみたいだ。外側からの魔力には反応しないみたいだな。


「これでよし、みんな、もう出て来ても大丈夫だ。この屋敷から抜け出して家に帰ろう」


 家に帰れることを伝えると、女の子たちの顔が綻ぶ。


 1人ずつ牢から抜け出し、全員が通路に出た。すると、上の階から足音のようなものが聞こえてくる。


 こちらに来る様子はない。どうやらルナさんとメリュジーナが、頑張ってイルムガルドたちを誘導してくれているみたいだ。


「仲間が誘拐犯の気を引いている内に、この屋敷から脱出する。落ち着いて俺に着いて来てくれ」


 囚われた女の子たちに指示を出すと、階段を上がって1階に向かう。


 1階には人の姿が見当たらない。このまま玄関とは反対側に向かい、窓を叩き割って外から脱出するとするか。


「みんな、こっちだ。着いて来てくれ」


 玄関側とは反対側に歩いて行くも、俺は違和感が拭えきれないでいる。


 可笑しい。どうして兵士の1人も屋敷にいないんだ? 全員がルナさんたちと戦っている? いや、普通なら万が一のことも考えて、屋敷の中にも兵士を配置しておくものだ。


 そう言えば、牢屋にも見張りがいなかった。今思えば違和感だらけしかない。


 これは何かの罠なのか? 手薄と見せかけて本当は俺たちの思考を読み、脱出しようと思っている場所に兵士を配置しているのか?


 おかしな点がありすぎて、様々な憶測を考えてしまう。


 だけど今やるべきことは、連れ去られた彼女たちを家に帰してあげること。そのことだけを考えよう。


 奥に進んでいると、白い粉の入った瓶が転がっていた。


「これは……もしかして」


 首を左右に振ると、キッチンらしき部屋が見えた。もしかしたらあの部屋にあったものなのかもしれない。


 白い粉の入った瓶を拾い、懐に仕舞うと奥へと歩き出す。


 玄関とは反対側の壁に辿り着き、窓を開けて外の様子を窺う。


 外には人ひとりすらいなかった。


 嘘だろう。どうしてここまで兵士がいない。俺の知らない間にイルムガルドたちに何かあったのか? 例えば問題を起こして爵位の降格などがおき、満足に兵士を雇えない状況下に陥っているとか。


 そんなことを考えるも、直ぐに首を振る。


 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。見張りの兵士がいないなら、好都合だ。


「みんな大丈夫だ。このまま窓から脱出しよう」


 よじ登って窓から外に出ると、建物の中にいる女の子たちに声をかける。


 屋敷の奥には森が続いているみたいだ。


「みんな着いて来て」


 女の子たちを誘導して森の中を歩いて行くと、途中で洞穴を発見した。


 中を確認すると、獣などはいなさそうであり、しばらくの間は身を隠すのに丁度良さそうだ。


「しばらくの間この中に居て。多分大丈夫だと思うけど、万が一何かが起きたら、この転移石を使って真っ先に町に帰るんだ。いいね」


 俺に声を掛けてくれた女の子に転移石を渡すと、彼女は無言で頷く。


 さて、ルナさんたちの加勢に入るか。勘当されてはいるが、元身内の蛮行は許す訳にはいかない。


「スピードスター!」


 俊足の魔法を発動すると、すぐさま来た道を引き返す。

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