第十話 育ての親との再会
「それじゃ行くわね」
誘拐犯の黒幕の1人であろうと思われるシモンに接触することにした。
結局はわざと捕まり、内部から捕まった人々を救出する作戦を実行することした。
背後には認識阻害の魔法で野盗に成り済ました2人がおり、ゆっくりと近付く。
「待たせたな」
メリュジーナがシモンに声をかけると、彼はこちらに顔を向ける。
「おう、お前たちか。思ったよりも遅かったな。それに今回の収穫は1人だけか」
どうやら魔法の効果が発揮されているらしく、シモンには野盗に見えている様子。
「ああ、邪魔者がいたせいで、このざまぁだ。まぁ、どうにか1人だけでも連れて来ることはできた」
話し合って決めたセリフをメリュジーナが言うと、シモンはジロジロと自分の顔を見てきた。
「ふむふむ。俺は写真を見ていないが、今回は当たりの様な気がするな。後のことは俺に任せて、お前たちは早く次の仕事に取り掛かれ」
「はいはい、分かりましたよ」
二人が離れると、シモンが腕を引っ張り、強引に船に乗せられる。甲板に上がり、顔を上げるとメリュジーナがもう1人を掴んで空を飛んでいる姿が見えた。
彼女の飛行能力なら、例え海を移動しても見失うことはないだろう。
「何をボケっとしている。乱暴されたくなければ大人しく引っ張られろ」
その場に立ち止まってしまったからか、シモンが声を上げて引っ張り、船内に連れられる。階段を降りて最下層と思われる場所に辿り着くと、牢屋の中に入れられた。
「目的地に着くまでは、その中で大人しくしておれ。まぁ、女1人でどうにかなるとは思えないがな」
「あら? それは失礼しちゃうわね。こう見えても強いのだけどなぁ?」
「ワハハハハハ! 野盗に簡単に捕まるやつが強いだと? 寝言は寝てから言うんだな」
笑いながら、シモンはこの場から立ち去って行く。
油断しているのか、それともバカなのだろうか。いや、きっと両方だろう。わざと捕まったと言う考えを思考から外している。
首を左右に振って周囲を確認する。他に捕まっている人は居らず、自分だけがこの場にいる。
「ファイヤーボール」
魔法を唱えると空中に火の玉が出現する。
「どうやら魔法を封じる結界は施されていないみたいね。では早速」
生み出した火球を鉄格子に当てる。すると火球は弾かれ、こちらに飛んできた。
「反射魔法! ウォーターボール」
自身に向かって来る火球に向け、水球を放ち、火球をかき消す。
「まさか反射魔法が施してあるとは思わなかったわね。上級魔法なら突破できるかもしれないけれど、そしたらシモンに気付かれるかもしれない。ここは大人しく牢屋にいたほうが良さそうね」
その場に座り込み、船が目的地に辿り着くのを待つ。
「メリュジーナたちは、ちゃんと付いて来ているのかしら?」
この作戦は彼女たちの協力も必要。2人が外から揺動し、内部に侵入した自分が攫われた女の子たちを救出して外に逃す。
揺動側が欠けても、自分が失敗しても女の子たちを逃すことが難しくなる。
「絶対に作戦を成功させないと」
周辺に窓がないのでどれくらい時間が経ったのかは分からない。しばらくしてシモンが再びやって来た。
「着いたぞ。さぁ、こっちに来るのだ」
彼に従い、ゆっくりと立ち上がるとシモンに近付く。彼は持っている縄を使い、逃げられない様に両手を縛る。
「女の子をこんな扱いするなんて貴族として最低よ」
「何! どうして俺が貴族だと分かった!」
声を上げて驚きの表情を見せる彼に、失敗したと思った。
ルナさんからしたら、シモンが貴族だと言うことを知らない。なのに、今の言葉は失言だった。
「だ、だって。あなたが着ている服って高そうじゃない? 平民の私には一生かかっても着られそうにないなぁと思ったから」
「なるほど、確かにこの服は一般人が手を出せない額だ。それで俺が貴族であると分かったのだな。納得した」
「あはは」
苦笑いを浮かべ、その場を誤魔化す。
シモンがバカで本当に良かった。
両手を縛られ、縄を引っ張られた状態で階段を登り、甲板に上がる。
顔を上げて上空を見上げると、メリュジーナたちの姿が見えた。
良かった。無事に追跡できたみたいだ。
彼女たちにアイコンタクトを送り、シモンに引っ張られるまま付いて行く。
しばらく歩くと、大きな屋敷が視界に入った。きっとあの中に捉えられた女の子たちがいるのだろう。
屋敷前に来ると、シモンが扉を開けて中に入り、彼に付いて行く。
「この中に入れ!」
部屋の中に入る様に促され、扉が開かれる。中に入ると、そこには金髪の髪をランダムマッシュにしている男と、紫髪をロングにしている女がいた。
「イルムガルド、メルセデス、新しい女を連れて来た」
「今回は1人か。だんだんと数が減っているな。もし、こいつが違っていれば、次の町に移動するか」
イルムガルドは懐から一枚の紙を取り出し、見比べる様に交互に見てくる。そして彼は口角を上げた。
「メルセデス、シモン。朗報だ。こいつ、ルナの可能性が高い」
「それは本当!」
「マジか。これでゲルマンの依頼達成だな」
「まだ確信はない。この女は他の女たちとは別にしておけ」
「了解した。さぁ、確認は終わった。今度はこっちに来い!」
縄を引っ張られ、部屋から追い出されると今度は階段を降り、地下へとやって来る。
地下は牢屋になっており、牢の中にはあの町や付近で捕まった赤髪の女の子たちがいた。
「さぁ、お前はこっちの牢に入るんだ」
彼女たちとは違った牢に入れられると、シモンはこの場から去って行く。
「よし、行ったな。それじゃあ作戦開始と行きますか」
「さっきまで女の子だったのに、男になっている」
反対側の牢にいる1人の女の子がポツリと呟く。
そう、俺は認識阻害の魔法を使い、俺のことをルナさんだと周囲に思わせていたのだ。
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