第四話 クリスタルの戦士

 メリュジーナが罠を作動させてしまい、無数の矢が雨のように降り注ぐ。


 今から逃げても回避することができそうもない。なら、魔法で防ぐしかないな。


「ライトウォール!」


 空気中の光子を集めて気温を下げることにより、相転移を起こさせる。そして光子にヒッグス粒子を纏わりつかせることで、光に質量が生まれ、触れることのできる光の半球を生み出した。


 ドーム状の壁は貫通することなく全ての矢を防いだ。


ご主人様マスターありがとう。それとごめんなさい」


 うっかり罠を作動させてしまったことに対して、申し訳なく思っているのだろう。メリュジーナは顔を俯かせながら謝ってくる。


「別に気にしなくていい。正直、俺だって二段構えの罠があるとは思っていなかった。もしかしたら、俺が間違って踏んでいたかもしれない。だから、気にすることはないさ」


「テオ君の言う通りだよ。もしかしたら私が踏んでいたかもしれないんだから」


「ありがとうご主人様マスター、ルナ。わたし、この失敗を挽回してみせるよ」


 彼女の責任ではないことを告げると、メリュジーナは顔を引き締める。


「ここから先は罠を警戒しながら進もう」


 周辺に気を配りながら奥に進む。


 それにしてもなんだか妙な話だ。パーぺはクリスタウロスを使って、俺たちを排除しようとしている。モンスターを使って倒すことが目的であれば、わざわざ罠を用意する必要はない。それなのに罠が設置されてあるのは違和感を覚えてしまう。


 考えすぎだろうか。もしかしたらクリスタウロスはそんなに強くはなく、罠で俺たちの体力を削った後に、モンスターで始末する算段なのだろうか。


 ひとつの疑惑が浮上すると、様々な憶測をしてしまい、頭の中がこんがらがりそうになる。


 とにかく今は、この奥にいるだろうと思われる、クリスタウロスを討伐することだけを考えるとしよう。


 しばらく歩くも、通路は一本道のままだった。途中で道が分かれることなく、広い空間に辿り着く。


「転移石に使われるクリスタルがたくさんあるわ!」


「それ以外にも宝石の原石まであるね。まさに宝の宝庫と言っても過言ではなさそうよ」


 視界に広がる宝石の数々を見て、ルナさんとメリュジーナが言葉を漏らす。


 顔を綻ばせている彼女たちを見ると、やっぱり女の子なんだなと思ってしまう。


「メリュジーナ、宝石に興味があるのか?」


「ま、まぁ、一応興味があるかな。龍種と言うのは、宝石などを集めたりするからね」


 カラスが光る物を集める習性のようなものか。


 そう言ってしまいそうになるが、グッと堪える。


 カラスと一緒にされては、彼女は傷付くかもしれないからな。


 周辺を見渡すも、モンスターらしき存在は視認することができない。


 もしかしたら、どこかに隠れて不意打ちを狙っているのか? もしそうなら、あの罠のことも納得がいく。


「このクリスタル、大きくって太いわね。私のに入るかしら」


 ルナさん言葉が耳に入り、彼女の方を見る。ルナさんはでっかいクリスタルを、ショルダーバッグ型のアイテムボックスに入れようとしていた。


「やっぱりダメね。無理矢理にでも入れようとしたら、壊れてしまいそうだわ」


「ルナさん、一応ここにあるクリスタルや宝石の原石は、この国の資源なんだから、勝手に持ち出したらやばいと思うよ」


 苦笑いを浮かべながら注意すると、彼女はクリスタルから離れる。その瞬間、地震が起きたのか、地面が揺れた。


 地震か! いや、良く見たら巨大なクリスタル付近だけが揺れている。


「ルナさん、メリュジーナ、一旦離れるぞ!」


 彼女たちに離れるように言うと、2人が俺のところに集まる。


 様子を伺っていると、クリスタルがせりり上がり、隠れていたものが姿をみせる。


 全身クリスタルでできており、下半身は馬のような四足歩行、そして上半身は人の姿をしている。


 こいつがクリスタウロスか。


 モンスターは俺たちを見ると、拳を叩きつけてきた。


 思っていたよりも早いが、避けられないほどではないな。


「2人とも、散開して遠距離から攻撃しよう。離れていれば、避けられる。


「分かった」


「了解したよ。ご主人様マスター


 俺たちはそれぞれ回避に移り、敵の拳を躱す。


「ファイヤーボール!」


「アイスランス!」


 ルナさんとメリュジーナが魔法を発動し、炎と氷を当てる。しかし遠目からでは弾かれているように見え、ダメージが入っているようには思えなかった。


 クリスタルは、浄化の力をもつ。全てのものを包み込んで、清浄な状態にさせ、更にあらゆるものを防ぐ調和の能力も備わっている。


 魔法の源である魔力を消し去り、効果を打ち消しているのかもしれない。


 つまり、このモンスターには魔法が通用しないと言うことだ。


 こいつは参ったな。例え魔法で武器を生み出したとしても、触れればその瞬間に消し去られてしまう。だからと言って、剣などの得物は普段から持ち歩いていないし。


 持っている鳥籠をチラリと見る。中に入っているマーぺは無言であるものの、上唇から上を横にずらしていた。


 おそらく人形なりに口角を上げているところを表現しているのかもしれない。


 俺たちが苦戦しているところを見て、余裕こいているのだろうな。


 でも、悪いな。俺には勝ち筋が見えている。クリスタウロスを倒し、お前たちの予想を超えてやるさ。

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