第三話 洞窟の見えない通路

 昼食を食べ終わった後、俺たちはこの町にあるギルドに向かっていた。


『ねぇ、ねぇ、どうしてギルドに向かうのさ? 龍玉を取り戻すんじゃなかったの? ってうわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! 揺らさないで! 気分が悪くなる』


 鳥籠の中からマーぺが訊ねてきたので、黙らせるために籠を揺らした。


「お前は勝手に喋るな。用があるときは小声で話せ」


 パペット人形に注意を促し、モンスターを睨み付ける。


「わたしも気になるよ。メイデスが龍玉を使って何をしようとしているのかは分からないけど、悠長にはしていられないと思うんだ」


「ちょっと野暮用がね。時間はそんなにかからないと思うから大丈夫だ」


 メリュジーナの言葉に、はぐらかして答える。


 マーぺがいる以上は、はっきりとは言えない。


 だけどまぁ、クリスタウロスの依頼を受けるくらいならそんなに時間は掛からないはずだ。


 人形たちの会話を盗み聞きした感じだと、まだ切羽詰まった状況ではないことは、雰囲気から分かっている。


 おそらく敵の狙いは時間稼ぎだろう。もちろんモンスターを上手い具合にスルーすることもできる。メリュジーナの飛行能力を使って空から移動すれば済む。だけどそんなことをしては、マーぺに怪しまれる可能性がある。


 1回でも不審に思われてしまえば、人形と繋がり、敵側の狙いや行動理由などを知る機会を逃してしまう。


 今考えられる最善の策は、敢えて相手の策に乗り、その上で敵の思惑通りにさせないことだ。


 しばらく街中を歩いていると、ギルドらしき建物が見えた。


 建物に近付き、ギルドであることを確認してから中に入る。


 依頼書が張られてある掲示板の前に行くと、クリスタウロスの討伐依頼があるかを確認する。


 あった。やっぱり立札に書かれてあっただけに、討伐依頼がされてあるな。


「テオ君、何かの依頼を受けるの?」


「ああ、立札に書かれてあったクリスタウロスの討伐をしようと思ってね」


『クリスタウロス! ってうわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 再びマーぺが許可もなく大声を出したので、鳥籠を思いっきり上下に振って黙らせる。


『おえぇ、気分が悪い。人形でなければ吐いているところだよ』


 本当に気分を悪くしているようで、パペット人形は籠の中でぐったりとした。


「まぁ、町の人たちも困っているみたいだし、テオ君なりに何か考えがあるのだろうから、私は何も言わないわ」


「わたしもご主人様マスターの行動には無駄がないと思っている。早くそいつを討伐して先に進もうよ」


 2人が討伐に前向きな気持ちであることが分かり、とりあえずは一安心だな。


 クリスタウロスの討伐依頼の紙を持って、受付に向かう。


「すみません。この依頼を受けたいのですが」


「本当ですか! ありがとうございます」


 依頼書を見せると、受付嬢は声を弾ませて顔を綻ばせる。


 彼女の反応を見る限りだと、誰もこの依頼を受けようとはしなかったみたいだな。


 特に依頼を受けることに関しては問題が起きないみたいだし、このまま依頼を受けるか。


「受付が終わりました。無理をしない範囲でお願いします」


 討伐依頼の許可が下り、俺たちはギルドから出た。


 クリスタウロスは、この町から東に10キロメートル離れた場所にある洞窟に住み着いている。


 依頼書には、洞窟の中にある鉱石が採取に行けなくなったと書かれてあるが、パーぺはあの洞窟に俺たちを誘い出そうとしていたって訳か。


 しばらく歩くと、洞窟の前に辿り着く。


 外から様子を伺うと、奥の方は暗く、明かりが必要そうだった。


「今、松明を用意するね」


「あ、大丈夫だよルナさん。俺の魔法で明るくするから。ファイヤーボール」


 魔法で火球を生み出し、松明代わりにすると洞窟内を明るく照らす。


「さすがご主人様マスターだね。常に効率よく動けるように、状況を把握している」


「これくらい普通だろう?」


「あはは、予言に出てくる世界の救世主は言うことが違うわね。頼りになるわ」


 メリュジーナが褒めてくるので、これくらい出来て当たり前だと言うが、ルナさんは苦笑いを浮かべてしまう。


 あれ? 俺って何かズレている?


「と、とにかく先に進もう。どこからモンスターが出て来るか分からないから、気を付けて奥に向かおう」


 俺が先頭になって先を歩き、安全を確認する。


 洞窟の中は基本的に一本道だった。しかし、途中で左右に分かれる道があり、選択を求められる。


「道がふたつになっているわね。テオ君、どっちに進む。私の直感は右かな」


ご主人様マスター、わたしは左だと思う。フェアリードラゴンとしての直感がそう囁いている」


 ルナさんは右、メリュジーナは左か。そうなると、俺が決めた道を進むことになりそうだな。


「テオ君は私の直感を信じてくれるよね!」


ご主人様マスターは、わたしの直感を信じてくれるよね!」


 彼女たちがジッと俺を見つめて来る。


 これってどっちを選んでも、なんだか角が立ちそうな気がするのだけど。


 こうなったら探査魔法を使うか。ちゃんと理論を立てて説明すれば、どっちが正解でも納得してくれるだろう。


「エコーロケーション!」


 探査魔法を発動すると、左右から音が直ぐに跳ね返ってきた。


 この反応、行き止まり?


 どう言うことだ。洞窟が奥まで続いているのであれば、跳ね返って来るまで時間がかかってしまう。


 だけど両方からは同じタイミングで音が跳ね返ってきた。つまり、どっちに進んでも行き止まりであり、距離的にはほぼ変わらない。


 不思議な現象に悩みながらも、もう一度魔法を発動する。すると不思議な反応があることに気付く。


 前の岸壁に当たっているはずの音が、跳ね返らずに先に進んでいる。もしかして。


 前の岸壁に手を添えようとしたその時、壁に触れずに腕が貫通した。


 こっちが正解かい!


 どうやら俺たちは、魔法的なもので本当の道が見えなくなっていたみたいだ。


「こっちが正解ルートみたいだね」


 壁の中をすり抜けると、奥に通路が繋がっていた。


 俺に続いてルナさんとメリュジーナが入ってくる。


「あれ? 何か踏んだみたいだ」


 メリュジーナが言葉を漏らしたので、振り返る。彼女が踏んだ地面の一部が沈んでいた。


 あれは何かの作動スイッチか!


 罠が発動することに気付いた瞬間、無数の矢が雨のように降り注いだ。


 見破った者を油断させた後に始末する二段構えの罠か!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る