第十話 追い詰められたハナマドウジジイ

~テオ視点~




 俺たちを欺こうとしていたモンスターが真の姿を見せた。


 一応人の姿を模っているが、体は蔓や蔦でできており、一部分には花も咲いている。


『ワシの名はハナマドウジジイ。とあるお方の命令で、この町を我々モンスターの拠点にするつもりであった。その計画をよくも邪魔してくれたな』


 ハナマドウジジイと名乗ったモンスターは、訊いてもいないことを勝手に話し出す。


 正直、モンスターたちの計画には興味がない。だけど、メリュジーナやルナさんたちに危害を加えようとしたことに関しては、許す訳にはいかない。


『ワシの計画は完璧だったはず。どうしてワシの幻覚にかからなかった?』


「えー、どうしてそんなことをわざわざ教えないといけないんだよ。面倒臭い」


「きっと冥土の土産として欲しいんじゃないのかな? 今からテオくんに倒されるのに、真実を知らないで倒されるのはきっと悔やむと思うよ」


 説明するのを面倒くさがっていると、ルナさんが冥土の土産として欲しいのではとモンスターの気持ちを代弁してくれた。


 なるほど、確かにこれから倒されるんだ。冥土の土産の1つや2つくらいは欲しいだろうな。


「分かった。冥土の土産に教えてあげるよ!」


『誰が冥土の土産だ! あの世に旅立つのはお前たちだ!』


 せっかく話す気になったのにも関わらず、ハナマドウジジイが話の腰を折ってくる。


「せっかく話す気になったのに、話の腰を折らないでくれよ。まぁ、このまま教えないとなると、俺のほうが気持ち悪くなるから話すけどよ」


『だからもう、そんなことなどどうでも良いと言っておるだろうが! 良く考えれば、お前たちを倒せば真実などどうでも良いわい!』


 どうやらモンスターを怒らせたらしく、ハナマドウジジイの体から蔦が放たれる。


 この蔦は、森の中で襲ってきたあの蔦と同じだ。やっぱり俺が思った通りか。


「ファイヤーウォール!」


 蔦が俺の肉体に触れる寸前に魔法を発動し、目の前に炎の壁を出現させる。


『アチチチチ!』


 炎の壁の中に蔦が突っ込み、燃やされると炎が蔦を伝って本体に熱が届く。


「お前が植物のモンスターである以上、炎攻撃には弱い。お前は詰んでいるにも等しい」


『確かにそうだな。だが、これならどうだ!』


 ハナマドウジジイが蔦を操り、ゾンビに見えていた町民の体を巻き付く。


 しまった。俺としたことが、町民を避難させることを忘れていた。


『さぁ、ワシを燃やせば、こいつらも燃えるぞ。良いのか? 罪なき町民を魔女裁判の如く燃やし尽くされるぞ』


「町民を盾にするなんて卑怯よ!」


『ギャハハハハハ! モンスターにとって卑怯とは褒め言葉だ! 恨むのであれば、直ぐに町民を避難させなかったお前たちのポンコツぶりを恨みやがれ!』


 卑劣な行動に、つい拳を強く握ってしまう。


 町民を逃さなかったのは俺の落ち度だ。自分で蒔いた種は自分で刈り取る。


「俺が使える攻撃魔法は炎だけではないぞ! ウォーターカッター!」


 魔法を発動すると空気中の水分が集まり、知覚できる量にまで拡大する。


 そして今度は水の塊が加圧により、直径1ミリほどの厚さに形状を変えると、蔦に飛ばす。


 勢いのある水が蔦に触れた瞬間、蔦が弾けて拘束された町民が解放される。


 だけどこのままでは、再びハナマドウジジイが蔦を使って再び捕まえようとするだろう。その前に町民たちを救出する。


『おのれ! せっかくの盾を解放しやがって! だが、そんなものは再び捉えればいいことだ!』


 ハナマドウジジイの体から、再び蔦が飛び出す。


 お前の行動はバレバレだ! 俺が同じ過ちを犯すと思ったら大間違いだ。


「グラビティープラス!」


『ギャワワ!』


 重力を増やす魔法を発動し、モンスターの周囲だけ重力を3倍にする。すると、ハナマドウジジイは地面に這いつくばり、蔦を操ることができなくなる。


 その間に町民たちが俺たちのところにやって来た。


「ありがとうございます。お陰で助かりました」


 町民たちに礼を言われる中、ルナさんとメリュジーナに顔を向ける。


「ルナさんとメリュジーナはみんなを守ってくれ。多分問題ないと思うが、万が一にでも攻撃を撃ち漏らす可能性もある」


「分かったわ」


ご主人様マスターの命に従い、その命令を遂行してみせる」


 2人が返事をすると、再びハナマドウジジイを見る。


 やつは、ゆっくりと立ち上がってこちらを睨んでいた。


 やっぱりモンスターだけあって耐えるか。年寄りだからと言って、3倍は舐めすぎていたかもしれないな。


 相手が植物で肉体を構成してある以上、臓器を持っているモンスターとの戦闘のようにはいかない。


 心臓を破裂させる即死魔法や、一瞬で気を失わせる失神魔法などは通用しないはず。


 となると、やっぱり1番は炎で燃やすことだよな。


『くそう。こうなったら仕方がない。奥の手を使ってやる! フラワーディジーズよ! 根っ子を経由して森からエネルギーを奪い、ワシに渡せ!』


 ハナマドウジジイが両手を上げると、やつの身体がどんどん大きくなる。


『森よ! ワシに元気パワーを分けてくれ!』


 モンスターの巨大化が収まらない。このままではこの倉庫を突き抜けるかもしれないぞ。


「みんな! 倉庫からなるべく離れるんだ!」


 この場にいる全員に避難するように告げ、俺も急いで倉庫から出る。


 全速力で走り、ある程度倉庫から距離を離して振り返った。


 巨大化したハナマドウジジイは2階建ての建物並みの大きさとなっており、大木のような姿に変わっていた。


『ギャハハハハハ! ワシに奥の手を使わせたことは褒めてやろう。だが、これで貴様も終わりだ!』


 大木となったハナマドウジジイが声を上げ、木の枝が触手のように動きながら俺に襲い掛かってくる。

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