第七話 この作戦が上手くいけば、次の町長は私だ!

~ショーン・ライヒ視点~




 少し時が遡る。


「アハハハハ! アーハハハハハハ!」


 私ことショーン・ライヒは、テオたちを山に向かわせた後、作戦が上手く行ったことに対して歓喜の笑い声を上げていた。


「上手く行ったぞ。これでやつがフラワーディジーズを伐採してくれれば、町長の野望を打ち砕くことができる。そうなれば、この町には流行病が流行したままとなって、やつをこの町から追放することができる」


 あいつらや町民には少し嘘をついていた。本当はあのモンスターは病気を治すことを可能にする。だけど、それでは私の評価は上がらず、次の町長選でも負けてしまう。


 あのモンスターがいなくなれば、流行病を治す術は私しか持っていないことになる。


「私がこの町の救世主となるのだ」


 独り言を漏らしつつ、たくさんの瓶が置かれてある棚の前に立つ。


「後は町長が追放された後に、私が密かに作っているこの特効薬を町民に飲ませば、彼らはたちまち病気が治る。そうなれば、次の町長は私に決まったようなもの。アハハハハ! アーハハハハハハ!」


 だけど、やっぱり気になってしまうな。彼らが上手く事を運んでくれるかどうか、この目で確かめるとしよう。


「そうと決まれば早速準備だ。あの山にはフラワーディジーズがいるからな。あいつが何もしてこないとは限らない。念のためにも、武器のひとつくらいは持っておくとするか」


 懐に短剣を忍び込ませ、他にも怪我をしたときのために回復ポーションも用意しておく。


「さて、これで準備は整いました。彼らが無事にあのモンスターを倒してくれれば良いのですが」


 チラリと懐に隠した短剣を見る。


「最悪の場合はこいつでグサリとするしかないですね」


 最悪のケースを考え、覚悟を決めると家から出る。そしてフラワーディジーズのいる山の中に入って行く。


 山道を歩き、前回モンスターを目撃したところに辿り着くと、彼らを見つけた。


 まだフラワーディジーズを倒していない。それに彼の前にいるのは町長じゃないか。いったい何をしているんだ?


 会話が気になり、耳を澄ませる。すると、2人の会話が聞こえてきた。


「では、話してもらおうか。お前さんたちにこの森に入るように言った人物が誰なのかを」


 何! まさか、町長にこの私のことをバラすつもりなのか! いや、そんなことはない。彼と約束したんだ。きっとブラフに決まっている。嘘の情報を教えるに決まっている。


 私は彼を信じた。しかし彼の口から出た名前は、私と町長の孫娘だった。


 うそだろう。まさか裏切ったのか。


「そうか。あの男がそのようなことを考えていたとは。それにディジーが真実であることを教えてくれたのだな」


 町長の言葉にテオは頷く。


 彼の言葉を聞き、私は納得した。どうやらあの後、町長の孫娘と接触してしまったようだ。そのせいで余計な情報を入れられ、町長側が真実だと気付いてしまった。


 くそう。このままだと私は町長になれない。


 テオたちを排除する方法を考えていると、彼らはモンスターの液体を飲み始める。


 その光景を見た瞬間、気が付くと彼らの前に飛び出していた。


「おのれ! どうしてそのモンスターを伐採しない! やっぱりお前も町長側の人間になったのか!」


 懐から短剣を取り出し、刃をフラワーディジーズに向ける。こうなってしまってはプランを変えるしかない。私自らこのモンスターを倒し、自らの手で作戦を遂行するしかない。


「消え失せろ! 化け物!」


「まずい! フラワーディジーズを失えば、町民たちを救うことができなくなる」


 町長が声を上げると、テオがモンスターの前に立つ。


「サモンウエポン!」


 テオが魔法らしきものを口走ると、彼の前に剣が現れた。するとテオは剣を握り、振り下ろす動作をすると私の短剣に刃を当てる。


 刃同士がぶつかり合い、腕に力を込めた。


 召喚系の魔法か。冒険者だけあって、中々高度な魔法を使ってくる。


「そこを退け! この裏切り者が! こいつを倒さなければ私の野望が潰えてしまう」


「お前が何を考えてこのモンスターを討伐しようとしているのかわからないが、今はその時ではない。今は、こいつを討伐される訳にはいかないんだ」


 次第に腕が痺れてくる。やっぱり普通の薬師と冒険者とでは、力に差がありすぎる。


 このままでは負けてしまう。


「こいつで諦めろ! ゼイレゾナンス・バイブレーション!」


 テオが再び魔法を発動すると、私の持つ短剣の刃にヒビが入る。そのヒビは蜘蛛の巣状に広がり、最後は砕け散った。


 なんなんだよ、今の魔法は! 私の短剣があっと言う間に使い物にならなくなったぞ。


 くそう。こうなったら最終手段だ。彼の持っている剣を奪ってやる。


「ダッシュ!」


 私は魔法を唱えた。この魔法は盗賊が主に使っている魔法だ。相手の持ち物からひとつだけアイテムを奪うことができる。これでその剣を奪ってやるよ。


 魔法が発動して、私の手元には彼が持っていた剣が移動する。


「さぁ、今度こそ終わりだ!」


「そうはさせるか! グラビティープラス! 重力2倍!」


「グハッ!」


 剣を振りかぶり、フラワーディジーズに刃を振り下ろそうとしたタイミングで、私の体は地面に叩き付けられる。


 あまりの痛みに耐えることができずに、気が付くと目の前が真っ白になっていた。

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