第十四話 よくも顔どころか体全体に泥を塗ってくれやがったな!

~イルムガルド視点~




「くそがああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺ことイルムガルドは、エレファントエンペラーの突進を受け、空中に舞いながら叫び声を上げる。


 数秒浮遊した後、重力に引っ張られた俺の体は地面の上に落下した。受け身をまともに取ることが出来ずに、背中を強打して一瞬呼吸が止まってしまう。


「イルムガルドさん大丈夫ですか!」


 ユリウスが駆け寄り声をかける。


 モンスターの突進が当たらなかったのか。運の良いやつめ。


「今、回復してあげますね。ヒール!」


 ユリウスが両手を翳すと青白い光が発生してた。


 体の痛みが引いていく。こいつ、回復役としては使えそうだな。


「勝手な行動をするな! お前のせいで、モンスターの攻撃を受けてしまったじゃないか!」


「勝手に石を投げたのは謝ります。ですが、僕の石は当たらなかったです。むしろイルムガルドさんが大声を上げたのが原因ですよ。なので、見つかった責任は僕にはありません」


 正論を言われ、思わず口を噤む。しかし、ガキに言われたと言う事実が大人のプライドを傷付けられた。


「何を言う! お前が勝手な行動をしたから、咄嗟に叫んでしまったんじゃないか! こうなってしまった元凶はお前だ! お前が悪い!」


 全責任をユリウスに押し付け、彼を睨み付ける。


 ユリウスは信じられないものを見たかのような驚きの表情を浮かべていた。


 だが、そんなことなどどうでもいい。今はエレファントエンペラーを倒すのが先決だ。


 立ち上がって周辺を見る。討伐対象のモンスターが、前足を蹴りながら今にも走り出しそうにしていた。


 まるでイノシシの突進じゃないか。さっきは運良くやつの刃物に当たらなかったから良かった。だが、再び突進を食らってしまえば、今度こそあの斧のような鼻で切り裂かれるかもしれない。


『パオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!』


 エレファントエンペラーが声を上げ、再度突撃してくる。


 今度は斧の形をしている鼻を左右に振っていた。


 今ならギリギリで躱せる。


 敵の攻撃から逃れようと地を蹴って草原を走ろうとする。


 しかしいきなり足が掴まれ、転倒してしまう。


「グヘッ」


 顔面から地面にぶつかり痛みが走った。


 地面に倒れた状態で後方を見る。するとユリウスが俺の足首を掴んでいた。


 こいつ、文字通りに足を引っ張りやがって!


「ダメです。起き上がっては」


「この! 邪魔しやがって!」


 感情的になり、ユリウスに対しての怒りが強くなった。やつの拘束から逃れようと、掴まれていない方の足で何度も彼の頭を蹴る。


 だが、どんなに蹴られようとも、ユリウスは掴んでいる手を離そうとはしない。


「好い加減にしろ! お荷物が!」


 モンスターとの距離が縮まる中、何度も蹴りを入れる。するとようやく観念したようで、握っていた手を離す。


「今の内に距離を空ける」


「ダメ! 起き上がっては!」


 ユリウスの言葉を無視して立ち上がったその時、エレファントエンペラーは目前にまで迫っていた。


 運良く斧のような鼻に当たることはなかったものの、再び吹き飛ばされてしまう。


 ドボン!


 吹き飛ばされた先は沼だった。だけどこの沼は普通の沼ではなく、泥沼だったのだ。


 全身泥塗れとなり、水分を吸った衣服が重い。


 歩き難い泥沼の中を歩き、岸に上がる。


 くそう! くそう! くそう! 貴族の俺に文字通り泥を塗りやがって! あのユリウス、もう許さねぇ!


 怒りを爆発しそうになるところを必死に我慢しながら、モンスターがいる場所に向かう。


 ユリウスは地面に倒れた状態で、エレファントエンペラーを攻撃していた。


 何をやっているんだ?


「イルムガルド、遅くなった。ようやくここまで戻ってこれた。どうして全身泥塗れなんだ?」


「イルムガルドどうしたの? 泥パックにしてはやりすぎじゃない?」


 俺と同様に最初の突進で吹き飛ばされた2人が戻ってくる。


「誰が戦闘中に美肌を求めるか! 全てユリウスのせいだ!」


 地面に横になりながらの戦っているユリウスを指差しながら声を上げる。


「あの子、あんなところで何やっているのかしら?」


「あいつ運が良いな。あんなに近いのに踏み付けられていないぞ」


 1人で戦っているユリウスを見て2人が言葉を漏らす。だが、今はそんなことなどどうでもいい。あいつが足止めをしてくれている今がチャンスだ。


「メルセデス! エレファントエンペラーの足元に攻撃だ!」


「でも、今攻撃したらあの子にも当たってしまうわよ」


「そんなことは言われなくとも分かっている! あいつは所詮使い捨ての道具だ。どうなろうと構うものか」


「分かったわ。ファイヤーボール!」


 メルセデスが放つ火球がモンスターに向かって放たれる。火球は狙い通りにエレファントエンペラーの足元に当たり、周囲を燃やす。


『パオオオオオオオオオオォォォォォォォォン!』


「ワハハハハハ! ざまぁ! 俺を泥沼に飛ばした罰だ! ユリウス共々燃えてしまえ!」


 燃えるエレファントエンペラーは悲鳴を上げながら草原を走っていく。


 モンスターが燃えながら草原を駆け回ると、次々と草花に燃え移り、笑っていられる状態ではなくなった。


 なんて事だ。このままでは俺たちまで炎に囲まれてしまう。


「シモン、メルセデス、逃げるぞ」


「ええ、そうね」


「だな。俺たちだけでどうにかできる状況ではない」


 逃げることを決めると、視界の端でエレファントエンペラーが倒れるのが見えた。


 どうやら炎で焼かれて倒れたようだな。


 モンスターは倒したのだ。草原の一部が燃えたくらいで、俺が罪に問われることはないだろう。


 燃え続ける炎を背に、俺たちは一目散に走って町へと帰還する。

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