第十二話 くそう!どうして求人を出したのに人が集まらねぇ!
~イルムガルド視点~
「ワハハハハハハハ!」
俺ことイルムガルドは、シモンの顔面を
「た、頼む。もう許してくれ」
涙を流しているのか、地面が湿っている。だけど泣き落とし程度では、俺は許しやることはできない。
何せこっちは死に掛けているところを見殺しにされそうになったのだ。俺を放っておくようなやつの願いなんか、簡単に聞いてやる訳にはいかない。
「そう簡単に許してやるかよ! お前は俺を裏切った。それは大罪に等しい。簡単に許してやるかよ」
シモンの頭を押さえ付けている足に力を入れ、再び吐瀉物が広がっている地面に近づける。
「そうだなぁ。お前が吐いた
「な!」
「イルムガルド、それはいくらなんでもやりすぎよ」
今まで静観していたメルセデスが、やり過ぎだと指摘する。しかし苛立っている俺はそんな彼女を冷ややかな目で見た。
「なら、お前が代わりにシモンの吐いた物を食べるって言うのか? お前が身代わりになるって言うのなら許してやる」
シモンの身代わりになると言うのであれば許してやる。そう告げると、彼女は顔色を悪くして口を閉ざした。
誰だって他人の嘔吐物を食おうとは思わないからな。
「さぁ、選べよ。俺に許されずにこのまま屈辱的な時間を過ごすか。自ら吐いたものを処理して許されるか」
「わ、分かった。食うよ」
再び選択肢を訊ねると、シモンは後者を選んだ。そして自ら吐いたものに口を近づけ、舌を突き出して舐めとる。
「ワハハハハハハ! 傑作じゃないか! お前、貴族としてのプライドがないのかよ! ワハハハハハハ! あー腹が痛い!」
ああ、ムカついたやつをざまぁするのがこんなに気持ちいいとは。癖になりそうだ。今後は俺の機嫌を損なわせるようなやつは、片っ端から恥辱に塗れた仕返しをしてやることにしよう。
思いっきり笑い、ざまぁに成功したからだろうか。気が付くと俺の心は晴れやかだった。
メルセデスにも何か罰を与えようかと思ったが、もうどうでもよくなった。
「分かった。分かった。そこまでして許しを乞うのであれば許してやろう。俺は寛大だからな。ワハハハハハハハ!」
再び笑い声を上げ、シモンの頭に乗せていた足を退ける。
「お前の行動に免じて今回は許してやる。だけどこれ以上俺を裏切ろうとするな。もし、次裏切ったのなら、人間の尊厳を失わせるような罰を与えてやるからな」
「わ、分かった。もうお前を裏切らない」
シモンに忠誠を誓わせ、踵を返す。
「俺は先にギルドに行ってくる。お前たちは準備が出来次第、直ぐに来るように」
ギルドで落ち合うように告げると、俺はギルドに向かった。
ギルドに辿り着くと、扉を開けて中に入る。すると雰囲気が違うことに気付いた。
なんか冒険者たちの顔付きが良くなっていないか? みんな自信に満ちて、生き生きとしているような気がする。
パッと見たところそんなに強そうではないが、良い肉壁にはなってくれそうだな。
視線を左右に動かしながら、ギルドマスターを探す。
仲間募集をする前に、まずはあの人物の情報収集からだ。
ギルド内を見渡すと、ギルドマスター室と書かれたネームプレートのある部屋から男が出て来る。
お、丁度良いタイミングで出て来てくれたな。
「ギルドマスター、ちょっといいか」
男に声をかけながら、手の平を上にして指を手前に動かす。
「お前……いや、あなた様はイルムガルド様ではないですか。何用で来られたのです?」
この男、今俺のことをお前と言って慌てて言い直したな。誰のお陰でこのギルドが運営できていると思っている。俺が出資してあげなければ、今頃このギルドは廃業になっていたんだぞ。
「俺たちが入ったモンスターハウスの洞窟、あそこに入った人物の情報を寄越せ」
「イルムガルド様以外に、モンスターハウスに入った人ですか? はて? なんのことでしょうか? 私には身に覚えがないのですが?」
「惚けるな! 俺には分かっているんだ。早く教えろ! 誰のお陰でこのギルドの経営ができていると思っているんだ」
ギルドマスターの胸倉を掴み、怒鳴り声を上げる。
「すみません。嘘を付いていました。本当は1人います。ですが、どこの誰かだけはいくらイルムガルド様でも教えることができません。これだけは口が裂けても教えることはできませんので」
「なん……だと」
ギルドマスターの言葉に衝撃を受けた俺は、掴んでいた手を離す。
あの自分勝手で傲慢なところがあるこのギルドマスターに忠誠を誓わせるだと! この俺ですら、金でようやく動かせると言うのに、いったいどんな人物なんだよ。
ますます手駒として欲しくなった。もし、そいつを仲間にすることができたら、もう無敵じゃないか。
「分かった。そこまで言うのであれば、これ以上は詮索しない。前回の探索で多くの犠牲者が出た。だから補充するメンバーを探している。冒険者共に伝達してくれ」
「分かりました。では、手配しておきます」
この場から逃げるようにギルドマスターが去って行く。
「さて、メンバーが集まるまでそこの椅子にでも座っておくか。数分もあれば、俺たちのパーティーの護衛をしたいというやつが集まってくるだろう」
俺はフロントにある椅子に座り、護衛参加者が来るのを待つ。
しかしいくら待っても、護衛任務をしてくれると言う冒険者は、1人たりとも現れなかった。
準備を終えたシモンとメルセデスが合流するも、その後も誰も声をかけて来ない。
「どうして誰も来ないんだ! ギルドマスターはいったい何をやっている!」
思わず声を上げ、俺の怒声が建物内に響く。
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