第十一話 今度裏切ったら只では済まさないからな!

~イルムガルド視点~




「ここは……どこだ?」


 俺ことイルムガルドは、目が覚めると視界がぼやけながらも辺りを見渡す。


 ここは俺の屋敷か? タンスに壁時計、インテリアまで俺の部屋にあるものだ。


 おかしい。俺はピサロとか言う人型のモンスターと戦い、メルセデスたちに裏切られたはずだ。


 自分の足で屋敷まで戻って来た記憶がない。つまりは誰かが俺を助けて、この屋敷に連れて来てくれたと言う訳だ。


 なかなか粋なことをしてくれるじゃないか。今度そいつに会った時は、礼をしなければな。そいつのお陰で、メルセデスやシモンを問い詰めることができる。


 起き上がると、どこにもケガをしていないことに気付いた。


「まるでモンスターハウスの洞窟に向かう前の状態じゃないか。屋敷で雇っている使用人の中にも、回復魔法が使える人物はいる。だが、これほどの回復力がある上級魔法を習得してはいない」


 つまりは、俺を運んでくれたやつは相当な人物だ。


「是非とも俺の手駒として欲しいな」


 口角を上げ、脳内で俺を助けた人物を思い描く。


 きっと相当な魔力の持ち主だ。年齢はおそらく若くとも50代だろう。最近の若者は他人に優しくはないからな。そして渋く、俺みたいなイケメンかもしれない。


「さて、取り敢えずはメルセデスたちを見つけて落とし前を付け、その後に俺を助けた人物を探すか」


 今後の方針を決めると、扉が開かれる。廊下側から執事の男が入って来た。


「おお! 旦那様、目が覚められたのですね!」


「世話をかけたな。急で悪いが、俺を屋敷に送り届けた人物は誰だ? どんな容姿だった?」


「旦那様、申し訳ありません。その件については答えられません」


「何だと!」


 思わず声を上げてしまった。


 いや、冷静になれ。きっと言うなと口止めされているのだ。中々の聖人ぶりではないか。知られずに礼をされないまま去って行く。物語に登場する名もない英雄のようだ。


「旦那様は、転移石でこの屋敷に戻って来られました」


 執事の言葉に、羞恥心が込み上がってくる。


 先程まで考えていた事が全て妄想になってしまうのだから。


「旦那様、お顔が赤いですよ。もしかして風邪でも引かれましたか?」


「いや、何でもねぇ。俺は元気だ」


 顔を背け、ぶっきらぼうにポツリと漏らす。


 一部分は妄想になってしまったが、俺を助けてくれた人物がいるのは確かだ。


 そいつの手がかりを探し出し、必ず手駒にしてやる。なぁに、あの洞窟に入っていたと言うことは冒険者だ。金をチラつかせれば、首を縦に振るだろう。


「執事、メルセデスたちの情報はあるか!」


「メルセデス嬢ですか? 確かこの町の食堂で見かけましたな」


「町の食堂だな!」


 勢い良くベッドから立ち上がると、急いで部屋を出る。


 そして屋敷を飛び出し、町の食堂に向かった。






 食堂に辿り着き、窓から中の様子を伺う。


 するとテーブル席に、長い紫の髪の女と茶髪の髪をアイビーカットにしている男の姿が見えた。


 居た! メルセデスとシモンだ。


 2人は食事を終えたばかりのようで、呑気にカップを口につけて談笑している。


 さて、どのタイミングで突撃しようか。


 店に入るタイミングを伺っていると、二人が立ち上がってレジに向かう。


 今から店を出るのか。なら、出入り口で待ち伏せするとするか。


 出入り口に先回りをして、扉の前で2人が出て来るのを待つ。


 しばらくして扉が開かれると、メルセデスとシモンが外に出たが、俺と目が合った瞬間、時が止まったかのように動きを止める。


 俺が目の前で待機していたことなど予想していなかったのだろう。2人は目を丸くしていた。


「イルム……ガルド」


 メルセデスが声を振り絞ってようやく俺の名を口にする。


「よぉ、2人とも元気そうで何よりだ。ちょっとツラを貸してもらうぞ」


「あ、ああ」


「分かったわ」


 2人が返事をすると、人気のない裏路地に連れて行く。


 ここは丁度スラム街との境目になっており、特別な理由がない限りは、人が来ることはない。


 ここなら、何をやっても見られることはないだろう。


「さぁ、聞かせてもらおうか。どうして俺を裏切った?」


「裏切ったなんてとんでもない。俺たちは助けを求めようとして、一旦避難しただけだ!」


 ここに来るまでにある程度言い訳を考えていたようで、俺の質問にシモンが直ぐに返事をした。


「そうか。そうか。そうだったのか、それは悪かったな。どうやら勘違いをしていたようだ」


 勘違いをしていたことを謝罪すると、2人の表情が緩む。


「そんな訳があるか! とっくにネタは上がっているんだよ!」


 声を上げると、2人の顔が再度引き攣る。


「何が救助を呼ぶためだ! あの時、俺はお前に助けてもらおうと手を伸ばした! だけどお前は俺の手を握らなかった。これは完全に俺への裏切り、いや俺を見殺すための行動だ!」


 声を上げると、つい感情的になってしまった。気がつくとシモンに拳を叩き込んでおり、彼はお腹を押さえて疼くまる。


「おえ! おええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」


 食事をしたばかりにも関わらず、腹に強い刺激を受けたシモンは、そのまま胃の中のものをぶち撒ける。


 まったく、貴族ともあろう者がこんな場所で嘔吐をするとは情けない。少し、罰を与えてやろう。


「ふん!」


「グハッ!」


 足を上げると、蹲っているシモンの頭に振り下ろす。


 彼はそのまま頭を地面に付け、顔面吐瀉物としゃぶつ塗れになる。


「うっわ! 汚ねぇなぁ。それでも貴族なのかよ。まるでこじきじゃないか。スラム街に住む連中でも、嘔吐したものを食べようとはしないぞ! ワハハハハハ!」


 乗しかかる圧力に抵抗しようと、シモンは顔を上げようとしているようだ。


 俺の足を押し上げようとする。だが、それ以上の力で押さえ付け、完全には上げさせない。


 この俺を裏切った罰だ!


 羞恥と怒りを感じながら、あの時の行いを後悔しろ!

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