閑話

閑話


「居場所が分かりました」


部下のその一言で、男は思わず椅子から立ち上がった。贅肉のついた巨体をゆらし、唾を飛ばして叫ぶように問う。


「どこにいる!?」

「それが、ハウゲスンのようで」

「……」


ハウゲスン。忌々しいあの地。竜と共存して我々の支配下に収まろうとしない、反逆者たちの住む場。

男は苛立ちまぎれにかんしゃくを起こす。机の上の書類をなぎ払い、インク瓶が音を立て床に落ちた。インクのしみが絨毯を汚していく。男はそれを踏みにじると、部下に次の命令をだして、部屋を後にする。


「私が戻るまでに綺麗にしておけ」


怯えたメイドたちに冷たい視線を向け、すぐ興味を失ったように歩き出す。


「…ようやく、ようやくだ」


男は皇族のみが入ることを許された部屋に入る。自分を皇族だと思っているからだ。それがどれほど不遜なことだとも知りもしないで、気づきもしないで。


「は、はは……ははは!待っていろよ、出来損ない!」


室内に置いてあったナイフを手に取る。その勢いのままに振りかざし、テーブルの上の仇敵の姿見に突き刺す。

なんども、なんどもナイフを振りかざす。そのうちに興奮していた心が落ち着いていく。心なんてとうの昔に捨てたのいうのに。


「……殺してやる。私の計画は、誰にも邪魔などさせん」


男の昏い声が静かな部屋にぽとりと落ち、波紋を広げた。

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