閑話
閑話
「居場所が分かりました」
部下のその一言で、男は思わず椅子から立ち上がった。贅肉のついた巨体をゆらし、唾を飛ばして叫ぶように問う。
「どこにいる!?」
「それが、ハウゲスンのようで」
「……」
ハウゲスン。忌々しいあの地。竜と共存して我々の支配下に収まろうとしない、反逆者たちの住む場。
男は苛立ちまぎれにかんしゃくを起こす。机の上の書類をなぎ払い、インク瓶が音を立て床に落ちた。インクのしみが絨毯を汚していく。男はそれを踏みにじると、部下に次の命令をだして、部屋を後にする。
「私が戻るまでに綺麗にしておけ」
怯えたメイドたちに冷たい視線を向け、すぐ興味を失ったように歩き出す。
「…ようやく、ようやくだ」
男は皇族のみが入ることを許された部屋に入る。自分を皇族だと思っているからだ。それがどれほど不遜なことだとも知りもしないで、気づきもしないで。
「は、はは……ははは!待っていろよ、出来損ない!」
室内に置いてあったナイフを手に取る。その勢いのままに振りかざし、テーブルの上の仇敵の姿見に突き刺す。
なんども、なんどもナイフを振りかざす。そのうちに興奮していた心が落ち着いていく。心なんてとうの昔に捨てたのいうのに。
「……殺してやる。私の計画は、誰にも邪魔などさせん」
男の昏い声が静かな部屋にぽとりと落ち、波紋を広げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます