第2話 出会いと始まりの物語

 今アジア最強のプロチーム、Ragnarokラグナロク。そのチームエンブレムが刻まれたトロフィーに書かれた文字を眺める。


 ”第3回 Ragnarok Cup 優勝 おひるね日和”


 俺とSetoとひよりの名前が刻まれていて、眺めているうちに2か月前の日々が俺の脳裏を駆け巡っていた。おひるね日和っていうのは大会のときの俺らのチーム名だ。


 Rising Leoってチーム名は大会の後、ひよりが正式に俺たちのチームに加入することになってから付けた名前だった。


 大切に手に取りゲーミングチェアに戻る。やがて休憩を終えてみんなが戻ってきた。


「俺にも届いたよ。トロフィー」

「おっ、これで揃ったか。こうして届くと改めて色々思い出すよな」

「分かる。あたしも嬉しくて机の横に置いてるもん」

「確かに、手に取ってみると感慨深いというか」


 ひよりとの出会い、練習の日々、大会本番。1ヶ月と少しだったけど、本当に濃密であっという間の日々だった。


「いいなぁ~、H4Y4T0、僕にも見せてよ」

「あいよ。ほら、見えるか?」


 PCのカメラに近づけて見やすくする。久遠はこの時期は別のチームにいたからトロフィーが届かない。しばらく画面の前に掲げてたけどそこそこ思いから腕がしんどくなってしまった。


「見えた?」

「うん、ありがとう。これでH4Y4T0とSetoはトロフィー2つ目なのかな?」

「そうだね」

「だな」


 俺は一度席を立ち、壁側に設置した棚に向かう。俺の目線の高さくらいに置かれたもう一つのトロフィー。今回届いたものをその隣に丁寧に置いた。数秒じっと眺めたあと通話に戻る。


「置いてきた」

「俺も2つ並べてるわ」

「いいなぁ~、そっちはあたし持ってないし」


 もう一つのトロフィーは俺とSetoと久遠で勝ち取ったものだ。ひよりは参加していない。


「久遠も飾ってる?」

「もちろんだよ。大切な…本当に大切な宝物だから。懐かしいよね」

「そうだなぁ。どんくらいたつ? 1年…はまだ経たないか」

「楽しかったよなぁ」


 もう一つの大会。それはTriumph Bullet ChampionShip(U-18)、略してTBCSU-18と呼ばれてた。18歳以下のダイヤ以上を構成要件として各大陸で第1回世界大会のあとに行われたこの大会は、有望な選手の発掘を目的としたプロの登竜門としての意味合いで公式が開催した。


「すごかったよねぇ。あたしもあれ見てH4Y4T0達のことを知ったし」

「そういえば初めてひよりとコラボしたときに言ってたね」

「うん。あたしもファンの1人だったし、配信見て勉強してたから」

「大物Vtuberがリスナーだったって思うとすごいよな」

「な。それに今じゃチームメイトになってんだから分かんねぇもんだ」


 ひよりと久遠はそれぞれのトロフィーを持っていて、俺とSetoは両方を持っている。


「あたしあの大会のこととか、3人がどうやってチームを組んだのかあんまり知らないし、聞かせてよ」

「そういえばあんまり話してなかったか」

「えっ、そうなの? 僕とっくに話してると思ってたよ」

「多少話題にはなってたけど詳しくは話してねぇな」

「うん、なんかH4Y4T0とSetoがなかなか合わせるの大変だったってことくらいしか聞いてないかな」

「あぁ~」


 久遠はなるほどねぇ~って感じの嘆息を零す。俺もあの頃を思い出して懐かしいような恥ずかしいような感覚が込み上げてくる。


「久遠には苦労かけたよなぁ」

「そんなことないよ。大変だったけど楽しかったし」

「楽しかったのはそうだけどよ、まぁ俺もH4Y4T0も今より尖ってたし」

「それはそうだね」

「そうそう、そういうの気になってたの。H4Y4T0とSetoってTBのプレイ観が真逆だったらしいし、どうやって今の信頼関係を築いていったのかとか知りたい」


 俺はIGLとして盤面を制圧して勝つ、Setoは圧倒的な火力で目の前の敵をなぎ倒して勝つ。それぞれのTBにおける価値観が真逆と言ってよかった。


 でも、今ではお互いに全幅の信頼を置く相棒だ。Setoは俺のオーダーに忠実に従うし、俺もSetoの力を活かしきれるように常に考えてる。


「いい機会だし、たまには思い出話もいいんじゃない?」

「うんうん! 伝説のSleepingスリーピング Leoレオの結成秘話を聞かせてよ」

「別に秘話ってほど大したもんじゃないよ?」

「いいの! 憧れのチームの話を本人たちから聞けるなんてすっごい贅沢だし」

「んじゃH4Y4T0、任せるから聞かせてやってくれ」

「お前も手伝ってくれよ?」

「わぁってるよ」


 Sleeping Leoっていうのは俺たちがTBSCU-18に参加した時のチーム名だ。


 ひよりはすごくワクワクした感じで待っている。

 

 それじゃああんまり引っ張ってハードル上げてもしょうがないし始めるか。


 俺とSetoと久遠、3人がどのようにして出会い、あの大会に挑んだのか。


 Sleeping Leoの出会いと始まりの物語を。


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本作をお読みいただきありがとうございます。

この作品は、『Triumph Bullet【トライアンフ バレット−栄光の弾丸−】 〜プロゲーマーとVTuberの運命の出会い~』の第1章の数か月前を描く物語です。


第0章という位置づけですが、どちらから読んでいただいても問題ありません。


どうしてもキャラクターの関係性などをネタバレなしで読みたい方はこちらから


第1章~

『Triumph Bullet【トライアンフ バレット−栄光の弾丸−】 〜プロゲーマーとVTuberの運命の出会い~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330650305932410

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