第17話 奇妙な魔法陣

『緊急避難警報が発令されました。北半球全域にて、危険レベル5に相当する魔力が確認されました。該当する地域の方は、すぐに身を守る行動をして下さい。繰り返します、緊急避難警報が発令されました。北半球全域にて・・・・・・』


 けたたましく鳴り響くサイレンと共に、最悪を告げる放送が鳴り響いた。地球規模での危険レベル5に相当する魔力渦の発生、それは66年前の悪夢と同等以上の厄災が人類に降り掛かることを予感させた。

 空一面に巨大な魔法陣が形成されており、空を見上げればそれが異常事態であることは誰の目から見ても明白であった。

 放送を聞いた人々は、すぐさま自分の身を守る行動を始めた。星間戦争を通して、宇宙から侵略者の存在を知った人類は、子供の頃から嫌というほど避難訓練を繰り返しており、迅速な避難が行われた。また、世界各地の魔法師達も、覚悟を決めて迎え撃つ準備を始めた。


「全ての都道府県への避難警報及び、世界各地への情報の共有、完了致しました。」


「間に合わなかったか・・・・・・」


 遠くに聞こえるサイレンの音に耳を傾けながら、武内は自身の行動が悔やんだ。健斗を一度房総半島に呼ぶのではなく、そのまま直接宇宙に向かわせていれば、間に合っていたかもしれないと思ったからだ。だが、今さら後悔してもあとの祭りでしか無かった。


「肝心の魔法の効果は掴めたのか?」


「現在特定中ですが、状況からして何らかの転移系の魔法であると予想されております。既に本土上空の魔法陣の破壊が始められており、特に人工密集地域の上空を最優先に攻撃しております。」


「国民の避難状況は?」


「国民の9割が、1時間以内に避難シェルターに入れると予想されます。現時点までは、全てシュミレーション通りです。」


「けっこう。」


 宇宙人の侵攻があった場合の対応は既にマニュアル化されており、日本各地の魔法師たちはそれぞれ行動を始めていた。島国である日本は、まずは本土上空をクリアにし、水際作戦をする方針となっていた。となれば、国を守る立場として、次に取るべき行動を考えた。


「健斗くんの現在地は?」


「ここからおよそ10万kmの地点です。」


「速度は?」


「およそ秒速100km、なお上昇中です!本条様の腕にもよりますが、あと5分ほどで接触すると思われます!」


「魔法陣を破壊するのに1分と考えて、この6分が勝負か・・・・・・」


 空に広がる無数の魔法陣と、先ほど破壊を命じた魔法陣、状況から判断するにこの2種類の魔法陣には何か関係があると見て間違いないだろう。となれば、宇宙空間にある方の魔法陣の破壊に成功すれば、上手くいけば地上の魔法陣も消せるかもしれない。


「健斗くんとの通信は可能か?」


「無理です、ノイズが酷くて簡単な信号すら送れません。おそらく、健斗くん自身の魔力が原因かと思われます。」


「成功を祈るしか無いということか・・・・・・」


「そうなります。」


 健斗に渡した通信機は、宇宙空間でもある程度コミュニケーションが取れるということで採用された特別製の通信機だ。しかし、広い範囲カバーしている分、今回のように超高速で移動している相手や、膨大な魔力が近くにあったりすると、通信ができなくなってしまうという問題を抱えている。普通に使う分には何の問題もなく使えるが、S級魔法師との通話には向いていなかった。品質が悪いのではなく、通信機を持たせた相手が悪かった。まぁ、位置情報を把握することだけはできているので、無いよりはマシと言った状況であった。

 状況を整理しつつ、魔法陣が起動した後の対応を協議していると、不意に会議室の扉が開いた。そして、一人の男が多くの部下を連れて入って来た。


「やぁ諸君、遅れてすまない。」


「有栖川さん!」


 日本魔法協会会長、有栖川武尊が遅れて会議室へと到着した。彼の登場によって、会場の空気ががらりと変わった。同時に、緊張が走った。


「現状は?」


「動きは一切ありません。以前として、未知の魔法陣は発光を続けております。」


 空一面に一斉に展開された魔法陣であったが、未知の魔法陣はその場で回転を続けながら発光するだけで、動きは全く無かった。


「・・・・・・少し妙だな。」


「何がでしょうか。」


「この星を囲むように展開されたということは、これは自然現象ではなく、何者かによる攻撃で間違いないだろう。だが、だとすればあのようにわかりやすく魔法陣を展開する理由がどこにある。」


「地球全域を同時に攻撃したいのでは?」


「それはない。地球全域を同時に攻撃したいなら、魔法を発動した時点で降下を開始するべきだ。これでは、魔法陣を破壊されてしまう。」


「確かに、これほどわかりやすく魔法陣を展開しておいて、何も行動を起こさないのは変ですね。」


「無論、敵に知恵が無いのであれば、それに越したことは無いのだがな・・・・・・」


 奇妙な行動、相手の意図が読めない。これだけ大規模な行動を起こしたということは、何かしらの狙いがあることは確実であるが、それを読めずにいた。

 それに、健斗が壊しに行っている魔法陣も気になる。


「これでは、攻撃目標であるはずの都市部上空の魔法陣を破壊されてしまうので、むしろ非効率ですよね・・・・・・。」


「っ!なるほどっ!そういう事か!」


 突然、有栖川は大声を上げた。そして、再び有栖川へと注目が集まった。

 代表して、武内は有栖川に尋ねた。


「どういう事だ?」


「逆だ、逆だったんだ。」


「逆?」


「あぁ、この魔法陣は壊されることを想定して作られている。むしろ、壊して欲しいんだ。壊されれば、その直下に都市や重要な施設がある事がわかる。」


「なっ!じゃあまさか・・・・・・」


「あぁ、ここからが本番だ。そしておそらく、トリガーは・・・・・・」


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 どうでもいい話

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