第3話 大義名分と行動

「・・・・・・で?これは?」


「果たし状です。」


「は?果たし状?」


 果たし状が何かは知っている。

 争いの決着をつけるため、命をかけて戦うことを申し込む書状。

 もちろん、実物を見るのはこれが初めてだ。俺が異世界に行っている4年の間に、日本では果たし状が流行していたのだろうか。


「な、何でこんなところに果たし状が?」


「それはもちろん、送るためです。」


「は?」


 見ると、おそらく筆ペンで俺の名前が達筆な文字で書かれていた。しかも、宛名ではなくて差出人の欄に。俺が異世界に行っている4年の間に、宛名と差出人を書く位置のマナー入れ替わっていなければ、これは俺が送る事になっているらしい。


「日本魔法協会上層部は、A級魔法師となった本条くんの校内ランキング未だに4位である事を不満に思っております。幸い、有栖川さんはそんな事を気にするお方ではありませんが、日本魔法協会も一枚岩では無くてですね・・・・・・」


「それで果たし状を?」


「はい、校内ランキングを上げる方法はただ一つ、より上位な者に決闘で勝利することです。そこで、校内ランキング2位は私ですので、1位の方と3位の方に対して果たし状を送ろうと思いまして・・・・・・」


 そういえばロリ先輩は、弱そうな見た目をしているが学生の中ではトップクラスの実力を持っている。校内ランキング1位のやつがどんなやつなのか知らないし興味もないが、彼女は学生最強と言われても納得ができるぐらいの強さを持っている。


「この学校では、挑戦する側が相手に果たし状を送るのが慣例なのか?」


「はい、その通りです。」


 俺が尋ねると、ロリ先輩はそれに頷いた。だけど確か、俺はルーシアやスキンヘッド先輩と戦った際、果たし状を送った覚えも受け取った覚えもない。疑問に思った俺が、懲罰委員会のNo.2である先輩と目を合わせると、彼は静かに首を横に振った。

 どうやら、そんな慣例は無いようだ。そこで俺は、ある一つの可能性を思いついた。


「もしかしてだけど、有栖川からそう教わったんじゃないだろうな。」


「は、はい、そうですけど、どうしてわかったんですか?」


「性格の悪そうなあの男が考えそうなことだなと思ってな。」


 すると、ロリ先輩は事の経緯を事細かに話してくれた。日本魔法協会所属の魔法師らしく、決闘を挑む際は果たし状を用意するように有栖川から言われたらしい。


「それで?俺はこれを、その第1位と第3位に届ければいいのか?」


「いいえ、果たし状自体は既に届けてあります。そちらは予備です。」


「は?」


「果たし状の方は既に、御二方の手元に届いております。そして、御二方から了承の返事を既に頂いております。」


「マジか・・・・・・」


 俺の知らない間に、どうやら話は進んでいたらしい。まだあまり理解できていないが、とりあえず校内ランキング1位と3位の生徒と決闘をして勝てば良いらしい。


「決闘は、第一アリーナにて本日の午後4時開始を予定しております。」


「は?4時?もう過ぎてるじゃねーか。」


「はい、ですので急ぎましょう。」


 懲罰委員会室の壁に掛かっているアナログ式の時計を見ると、既に時計の針は午後4時を回っていた。


「・・・・・・これも、有栖川からの指示か?」


「はい。」



 *



「遅れての登場とは、ずいぶんと余裕そうだな。」

「・・・・・・」


「ちょっとした行き違いがあってな。俺は遅れるつもりも、あんた達と戦うつもりもなかったが、他の連中が放してくれなくてな。」


 俺が第一アリーナに到着した時には既に、第一位の先輩と第三位の先輩は俺を待っていた。俺と2人が決闘をするという噂を聞き付けたのか、アリーナの観客席には多くの生徒が集まっていた。

 よくよく見ると、明らかに生徒じゃない人が何人か混ざっているのが見えた。どうやら、今日の俺は見せ物パンダのようだ。


「この俺様に喧嘩を売るとは、良い度胸じゃないか、後輩っ!」


「そっちこそ、ただの学生の分際でA級魔法師に喧嘩を売るなんて、正気の沙汰とは思えないな。」


「別に売っていないし、時間に遅れたのはそっちだけどな。」


 まずはいつもの煽り合いから、相手の感情を前面に引き出して、冷静な判断ができなくなるように仕向ける。魔法師同士の戦闘は思考力、魔法力、体術のようなわかりやすい指標ではなく、どんな状況でも精神を安定させる事が最も重要だと言われている。

 戦闘が高速化された現代の魔法師同士の戦闘では、刹那の時間に様々な事を考え、判断を下す事が求められる。そのため、相手の行動に対して冷静に最善の対応をする事こそが、そのまま勝利に繋がる。

 だから、口撃によって少しでも相手の精神に揺さぶりをかけた。


「色々と言いたい事はあるがまぁいい、決闘を始めようじゃないか。」

「・・・・・・」


「あぁ、俺に喧嘩を売った事を後悔させてやろう。」


「いやだから、売って無いって。」


 俺様口調の先輩と無口の先輩は、それぞれ魔力の集中を始めた。どっちが1位でどっちが3位なのかはわからないが、両方とも倒せば問題ないだろう。

 思えば、これだけの観客に囲まれながら戦闘をするのはこれが初めてだ。ルーシアとスキンヘッド先輩の時も凄かったが、あの時とは違い今回は色々な組織に見られながらの戦闘になる。

 一体何処の組織なのか、全くと言って良いほど興味はないが、どうせなら派手に行こうか。


「2人まとめてかかって来い、遊んでやるよ。」


「人の話を聞けっ!」


 _____________________________

 どうでもいい話

 大義名分とは。

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