【XRMMO】ヴァルキュリー・アルカディア・ミラージュ【現実世界に重なり合う99の仮想世界】

やなぎもち

第1章 邂逅

001 ゲームをしながら登校

 西暦2052年。

 都会から離れた少し田舎の街。

 周りが田んぼだらけの道を、学生服の少年が自転車に乗っていた。

 少年の名前は八神悠斗やがみゆうと、高校二年生。

 今は通っている高校に朝の登校中だ。


 悠斗は首にウェアラブルデバイス着用端末、両目にスマートコンタクトを着用している。

 ウェアラブルデバイスには、スピーカー、カメラ、マイク、通信の機能が備わっている。

 カメラは3箇所。左右前方に2個、そして後方に1個が付いている。

 映像がスマートコンタクトに映っているため、常に360度の視界がある。

 悠斗は自転車に乗りながらXRMMO『ヴァルキュリーValkyrieアルカディアArcadiaミラージュMirage』、通称VAMヴァムをARで遊んでいた。


 VAMはXRMMOをうたっていることもあり、VR・AR・MRと様々な形で遊ぶことが出来る。

 フルダイブのVR。

 現実に重ね合わせるAR。

 そして現実世界の物質と同じ振る舞いをさせるMR。



 XR(X Reality:クロス・リアリティ)または(Extended Reality:エクステンデッド・リアリティ)とは、VR・AR・MRなどの総称。現実世界と仮想世界の関わり合い全般の技術を指す。


 VR(Virtual Reality:バーチャル・リアリティ)とは、コンピュータ上で仮想世界を作り出し、あたかもそこにいるかの様な感覚を体験できる技術のこと。

 日本語では仮想現実、人工現実感と呼ばれている


 AR(Augmented Reality:オーグメンテッド・リアリティ)とは、人が知覚する現実世界をコンピュータによりCGや文字情報で拡張する技術のこと。

 日本語では拡張現実、強化現実、増強現実と呼ばれている。


 MR(Mixed Reality:ミックスド・リアリティ)とは、現実世界と仮想世界を混合し、現実のモノと仮想的なモノがリアルタイムで影響しあう新たな空間を構築する技術のこと。

 日本語では複合現実と呼ばれている。



 傍から見ればただの田んぼ道だが、悠斗の目には別の世界が重なって映っていた。

 一面の草原世界。

 VAMには99の世界がある。

 そして、ここは第3世界グラスランド。


 人工物が一切無い自然のままの世界が一面に広がっている。

 地平線まで続く植物達の楽園。

 太陽の光を存分に浴びて、成長し放題の草木たち。

 日本の片田舎でもなかなか見られない景色だ。


 本来なら歩くのさえ草が邪魔して一苦労する。

 しかし、悠斗は関係なしに自転車を進めていた。

 仮想世界の障害物は、現実世界の悠斗に物理的干渉をしない。


 そんな悠斗の自転車に並走している仮想世界の人物がいた。

 その人物は一生懸命に草を掻き分けて、進んでいる。

 必死の形相を浮かべているのかと思えば、そんなことはなく。

 ただ無表情、無感情で横を走っていた。


 その人物は悠斗のプレイヤーキャラ。

 名前はトウヤ、レベル11。

 職業クラス初心者ノービス


 顔は悠斗に似ている。黒髪で幼い顔立ちだが目は力強い。

 細身で背も高くないが弱々しさは感じない。

 悠斗は色白だが、トウヤは健康的な肌色をしている。

 フード付きの緑色マントをかぶり、左の腰には剣の鞘をぶら下げていた。


 トウヤの視点からは、悠斗の顔のある場所に、半透明の水色の四角い箱が浮かんで見えた。

 トランプのカードを横にしたような大きさの長方形。

 これはプレイヤーの視点が、そこにあることを示すマーカー。カメラマーカーと呼ばれている。


 このカメラマーカーはVRでプレイしている人のための配慮となる。

 カメラマーカーがないとARプレイヤーが、どこで何を見ているのかが分からない。

 誰もいないからと鼻歌を歌っていたら、実は誰かが見てました。なんて恥ずかしいことがないように、そこにARプレイヤーがいますよ。ということを知らせる役割がある。

 VRプレイはキャラとプレイヤーが同一化するが、ARプレイはキャラとプレイヤーは別々の存在のまま遊ぶことになる。


 悠斗は視線操作でメニューを呼び出し、プレイヤーキャラのトウヤに命令を出す。

 ゲームの操作は視線移動や音声入力、カメラを使ったジェスチャーで可能。

 さらに脳波を読み取るBrain Machine Interface デバイスを装着すれば、考えるだけでも操作ができるようになる。



『近くにいる敵を倒して、素材収集をしながら、自プレイヤーを追跡せよ』



 悠斗はゲームの視点をマップモードに切り替えた。

 カメラマーカーは球体のマップマーカーに変化し、上空へ急上昇する。

 そして一定の高さでピタリと停止し、移動する悠斗の真上を追跡していた。

 マップマーカーの高さによって観測範囲が、第三者にも分かるようになっている。

 高さ50メートルなら、半径50メートルの範囲を観測といった具合だ。


 草原の景色から一変し、地図のような平面マップが表示された。

 このモードはARプレイというよりも、位置情報ゲームに近い。

 自キャラや敵が図形で簡易表示されている。

 他のプレイヤーなどとコミュニケーションをとるならARプレイの方が適しているが、ソロ狩りをオートでするならマップモードの方が適している。



 悠斗が移動をしていると、やがて赤い三角形がマップに表示された。

 三角形の上には「ホーンラビット・LV1」と書かれている。

 この草原地帯では一番多く生息している魔物だ。

 一度倒したことのある魔物なら名前とレベルが表示される。

 名前の通りにウサギに角が生えた姿をしている。

 大きさは中型犬ぐらいあり、色は白から黒まで様々いる。


 攻撃は頭に生えた大きな角での突き攻撃。

 VR初心者は、まずこのホーンラビットで戦闘を練習するのが良いとされる。

 戦闘に慣れていない人の場合、攻撃された瞬間に恐怖で目をつぶり体を硬直させてしまう。これでは良い的だ。

 ARのみで遊ぶ場合は、オート戦闘なのであまり意味はないが、VRの場合は攻撃されることに慣れる必要がある。


 ホーンラビットで突き攻撃になれたら、次は上位種のソードラビットだ。

 ソードラビットは角が進化して剣のようになっている。

 突き攻撃だけではなく斬攻撃もしてくる。

 二種のラビットと戦うことで、点と線の基本攻撃に慣れることができる。

 さらにシールドラビットと戦うことで、相手の防御を掻い潜り攻撃を当てる練習をするのも良いだろう。


 AIも良く出来ており、オート戦闘でも常人レベルで戦える。

 だがVR操作に慣れたプレイヤーは、超人のような動きをするので、同じレベルならVR操作に軍配があがる。

 ゲームを本気で遊ぶならば、VRプレイ一択になる。


 トウヤがホーンラビットに向かうのを確認すると、悠斗はマップ画面を最小化して視界から消した。

 後はトウヤがオート戦闘をしながら、悠斗を追いかけて学校まで来るだけだ。

 この第3世界グラスランドは比較的、魔物のレベルが低い。

 なので、いちいち戦闘を見なくとも、負けることはほとんど無い。


 悠斗は視界隅の時間を確認する。

 少し急がないと電車に乗り遅れる時間だ。

 自転車のペダルを強く踏み込み、悠斗はスピードを上げた。




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