第42話 別に痛くなくても「いて」っていっちゃうのはどうしてなのか?④

「……? あれ、昨日の子じゃない? たしか、美優ちゃんだっけ」

「え?」


 俺たちが戦闘体勢で待ち構えていると、その人影はこちらに向かってゆっくり近づいてきた。

 しばらくすると朱莉には誰か認識できたみたいだ。

 朱莉が気づいてから少しすると俺にもそれが誰かわかるくらいの距離になる。


 こちらに近づいてきているのは昨日の偽の入里試験で相手をしてくれた美優だった。


「こんなところで何してるんだ?」

「わからない。まだ僕たちの探索の時間は残ってるし、次の探索者ってわけでもないはずだ」


 俺たちが予約したのは一時間でまだ十五分ほどしか時間は経っていない。

 次の探索者が来るにしては早すぎる時間だ。


 夕方の時間帯で探索可能な時間が少ないから、予約が入っていないと思ってきたにしても、今の時間に来るのは少しおかしい。

 これから夕方になりモンスターが強くなってしまう時間帯になるのだ。

 もし来るとするなら、夕方が終わって夜になるくらいの時間だと思う。

 どうせ夕方の時間は探索できないのだから、来ても無駄だ。


 夕方の時間帯が終わるまで後三十分くらいはある。

 そのくらいの時間になれば次の予約の探索者がきそうだなと思っている。


 それに、次の予約パーティーは確か美優たちじゃなかったはずだ。

 フィールドを予約した時にメンバーの名前を見たけど、全員知らない人だったと記憶している。


 おかしいところはそこだけじゃない。


「……どうして一人なんだ?」

「……近くに隠れてたりはしなさそう」


 それに、美優は一人だった。

 昨日は五人パーティを組んでいた。

 ダンジョン探索にきたのであれば五人いるのが普通だろう。


 朱莉の索敵にも引っかからないということは本当に一人なのだと思う。

 フィールドに一人で来る理由なんて何かあるだろうか?


「もしかして、昨日のことを謝りにきたとか?」

「あ、それはありそう」


 モンスターを借りにきたわけではないなら一人でもそこまでおかしくない。

 美優はあのパーティで頭ひとつ抜けて強かった。


 いや、美優がパーティの要で、他の子達は彼女を補佐するためについていたという方が正しいかもしれない。


 実際、横目で美優たちの戦闘を見ていた感じ、美優が戦闘を担当していて、他の子達は美優を補助魔法で強化したり、回復魔法で美優の疲労をとったりと、美優の支援しかしていなかった。

 その支援だって美優には必要なさそうに見えた。

 むしろ、美優がパーティメンバーを守っている場面が何度かあったので足手纏いと言っても良かったかもしれない。


 だから、美優が一人でダンジョン内をうろうろしてもそこまで危険はないんじゃないかと思う。


 昨日敵対したとはいえ、敵意を見せていたのはあの剣崎とかいう男で彼女はあまり俺たちに敵意を見せていなかった。

 むしろ、俺たちに対して友好的な雰囲気すらあった。

 美優も俺たちと敵対したことは本意ではなかったんだろう。


 だから、昨日のことを謝りにきたというのなら合点がいく。

 それなら一人で来たというのも違和感がない。

 俺たちを警戒させないようにするためだろう。


 主戦力ではないとは言っても人数が多かったらどうしても相手を威圧してしまうからな。


(今日になって金竜会の寮に移るまではずっと誰かに監視されてたみたいだしな)


 実は、昨日は何度か誰かの視線を感じたのだ。

 おそらく、純血主義者の連中だろう。

 監視はお粗末なもので、巻くことは簡単だった。


 誠一郎さんに連絡するために隠れ里から出た時はついてこなかったし。

 それに、外から直接金竜会の寮に向かった時は誰もついてこなかった。

 おそらく、共同寮の近くで張っていてそこからついてきていたのだろう。

 共同寮から金竜会の寮に荷物を運んでいる時にはついてきたから俺たちが共同寮から金竜会の寮に移ったのはバレていると思うが。


 バレたというか、気づいたというべきか。

 純血主義者も金竜会のような組織とは敵対したくないんじゃないかと思う。


 その証拠に共同寮と金竜会の寮を何往復かしたけど、最初の往復以降は監視がついてこなくなった。

 今年は金竜会の純血主義者もいないから、何かおこった場合に仲裁してくれる人がいないということだし。


(そういうことならそこまで警戒する必要もないか)


 俺たちは戦闘体勢を解いて、美優がくるのを待つ。

 美優も武器こそ持っているが戦闘をしに来たという雰囲気ではないし。

 こっちが戦闘体勢だと近づきづらいだろう。


 だが、美優はなぜか俺たちから少し距離を空けたところで立ち止まってしまった。


「??」

「……ごめんなさい。『猪突』!」

「!!」


 咄嗟に俺は近くに立っていた京子たちを突き飛ばし、美優のスキルの射線から外す。


 だが、それは無駄なことだった。

 美優のスキルは俺一人だけを狙っていたからだ。

 いや、俺の後ろに隠れたりしたら巻き込まれていたかもしれないから、突き飛ばしたのも完全に間違いというわけではないかもしれない。


「くぅ。『墜刃』」


 俺は間一髪で美優の攻撃を小太刀で受け止めた。










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お読みいただき、ありがとうございます。


今週も遅くなってしまい申し訳ありません。

まだ、風邪が治りきっておりません。

まぁ、だいぶマシにはなったのですが。

夏風邪は治りにくいというのは本当ですね。


次話は来週月曜日の7時ごろに投稿します。


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