第12話 駆逐してやる!②

「おい! 何してるんだ!」

「早くダンジョンに!」


 キョウスケたちが武彦を急かす。


 武彦は走りながら、スマホを取り出して、ダンジョンを探す。

 武彦がこのパーティの斥候職の探索者のため、ダンジョンを探すのはいつも武彦の役目だった。


「ない」

「ないって、何が?」

「近くにダンジョンがないんだよ!」

「はぁ!? 冗談言ってる場合じゃないぞ?」

「FランクじゃなくてEランクでもいいんだぞ?」

「Fランクも、Eランクもないんだよ。この辺には元々Dランクダンジョンもなかったから、突入できる距離にダンジョンがない!」

「何ぃぃぃぃ!」


 キョウスケたちも自分のスマホを取り出してダンジョンGo!のアプリを確認する。


「これもだめ。これも。これも」

「くそ! どうなってんだ!! 今日はほんとついてない!!!」


 ダンジョンGo!のアプリには突入可能なダンジョンがなかった。


「そういえば、掲示板に市川市のEランクダンジョンが全部攻略されたって書かれてた!」

「!! そういえばそうだった!」


 そこで武彦は掲示板に書かれていたことを思い出す。

 今日はEランクダンジョンが偶然攻略されてしまい、Fランクダンジョンの攻略速度がかなり上がっていると書かれていた。

 こうなることは予想できたはずだ!


 そうしているうちに武彦たちは最上階につき、廊下の端っこにまでたどり着いてしまう。


「待てコラぁぁぁぁぁぁ!!」


 後ろからは警察官が追いかけてくる。


「ど、どうする? どうするよ!」

「あぁぁぁあああ!! くる! きちゃうぅぅぅ!」


 ここは四階だ。

 大丈夫だと思って上の階に逃げたのが仇になった。


「ここから飛び降りるか?」

「俺とタケヒコは大丈夫だと思うけど……」

「……」


 武彦とキョウスケはユウダイの方を見る。

 武彦は見習い盗賊でキョウスケは見習い戦士だ。

 どちらもランクⅡまで上がっており、四階から飛び降りてもうまくいけば怪我くらいで済むかもしれない。


 だが、ユウダイは見習い商人だ。

 しかも、上からの指示でここ最近ジョブチェンジさせられたので、ランクはまだⅠだ。

 前のジョブも見習い僧侶だったので、ジョブを変更してもフィジカル面にはあまり期待できない。


「!! 新しいFランクダンジョンができたぞ!」

「何!」


 アプリを見ると、新しいFランクダンジョンが出現していた。

 まさに、天の助けだ。

 結構近くだ。

 これなら!


「くそ! 入れない!」

「タケヒコでもダメか」


 だが、武彦が突入しようとするが、突入ボタンはグレーアウトされており、『このダンジョンに突入する場合、もっとダンジョンに近づいてください』というメッセージが出ている。

 ギリギリいけそうな距離に見えなくないが、少し遠すぎるようだ。


「いや、こうすればワンチャン!」

「おい! 危ないぞ!」


 武彦は廊下から上半身を乗り出し、必死に手を伸ばす。

 少しでもダンジョンに近くなるようにだ。


 側から見たらスマホの電波を探しているように見えるかもしれないが、武彦は必死だった。


 キョウスケとユウダイはそんな武彦が落ちないように武彦のズボンを必死に掴んでいる。


「あ!」


 幸運にも、限界まで腕を伸ばすと、突入ボタンのグレーアウトが消える。

 これでダンジョンに突入できる!


「え?」


 だが、次の瞬間、Fランクダンジョンは消失してしまう。


 そんなバカな!

 まだできてから一分くらいしか経ってない。

 ダンジョン内では時間が十倍になると言っても、それでも十分だ。


 Fランクダンジョンが十分くらいで攻略されたっていうのか?


「いたぞ!」

「今日こそ捕まえてやる!」


 警察官が四階にたどり着く。


「くそ! うぉぉぉぉ!」

「キョウスケ!」


 キョウスケがアメフトのタックルのように警察官めがけて突っ込んでいく。


「うぉ!」

「こいつ、見た目以上に強いぞ」


 二人の警察官が京介を受け止める。

 かなり細身のキョウスケが想像以上の力を発揮したため、警察官は一瞬押し返される。


「舐めるな!」

「うわ!」


 だが、警察官はすぐにキョウスケを投げ飛ばす。

 武彦からはどうやったのか見えなかったが、柔道技のようなものを使っていたように見えた。


 単純なパワーなら探索者であり、ランクⅡにもなっている武彦たちは警察官に負けないが、組み合えば技量に勝る相手に分がある。

 あっちは対人戦闘のプロなんだから。


「公妨! 一名確保!」


 一人の警官は大きな声をあげながら、キョウスケに手錠をかける。


(もう逃げられない!)


 キョウスケが捕まってしまった以上、武彦たちも逃げてもすぐに捕まってしまう。


 武彦は鞄から探索で使っているサバイバルナイフを取り出す。


「被疑者! 武器所持!」


 俺のナイフを見て、二人の警官は腰から警棒を引き抜く。

 見るからに頼りない。


(大丈夫。これならモンスターより怖くない。倒せる!)


 そこまで考えて、武彦はふと我に帰る。


 倒す? 殺す? 人を? 俺が?


 人を殺すと考えると、顔から血の気が引いていく。


 膝がガクガクと笑いだし、視界が歪む。

 まっすぐ立っているのかさえわからなくなってきた。


「!! 武器を捨てて投降しろ!」

「……」


 俺は脱力するように構えを解く。


「タケヒコ!」


 後ろからユウダイの声が聞こえてくる。

 すまん。俺には人を殺すなんて無理だ。


 すると、警官が殺到してきて、地面に引き倒される。


「被疑者三名! 確保ぉぉ!」


 夜の住宅街に警察官の声がこだまする。


 両手に手錠をかけられ、警官の大声を聞きながら、武彦はどこかほっとした気持ちになっていた。

 それはキョウスケとユウダイも一緒だったようだ。

 二人とも顔から今までの張り詰めた様子がとれていた。

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