第11話 駆逐してやる!①
「はぁ〜。めんどくせぇ〜」
「そういうな。これも仕事だ」
中田武彦は大きなため息を吐くと、今一緒にパーティを組んでいるキョウスケに嗜められる。
「でも、今日もこれから借金取りに行かないといけないんだぞ? 気が滅入る」
「気持ちはわからなくもないが、仕方ないだろ。俺たちには俺たちの生活があるんだから」
武彦たちは竜也の下っ端の下っ端だ。
竜也から直接指示を受けているわけではなく、竜也の部下たちに弱みを握られ、働かされているいわば使い捨てのコマみたいなものだ。
竜也の部下たちもその多くは竜也のように人の弱みを握って部下を作り、そいつらに危ない仕事をやらせていた。
最悪の不幸サイクルだ。
武彦たちも弱みを握られているため、仕事は選べない。
「それに、金は借りたら返すのが当たり前だ。返さないあいつらが悪い」
「でもさ、今回のターゲットは借金を借りた奴の友人の家族なんだろ? 他人じゃん! それに、母子家庭で借金が返せる見込みもない」
今、武彦たちが取り立てを行っている有村家は実際に借金をした男の連帯保証人(と言ってもおかしくないと竜也が判断した相手)の離婚した奥さんだ。
もはや赤の他人だ。
それに加えて、有村家は大黒柱がマグロ漁船にのっているため、収入が生活最低限しかない。
住んでいるボロアパートを見てもそれが伺える。
つまり、借金を回収できる見込みはほぼゼロだ。
「これなら直接ダンジョンに潜って稼いだ方が得じゃないか?」
「滅多なことを言うな。何されるかわからないぞ」
「……悪い」
彼らはダンジョンへの突入に制限がかけられていた。
竜也の部下たちにとって、武力というのは彼らを押さえつける手段の一つだ。
だから、武彦たちが自分たちより強くなられては困る。
そのため、武彦たちを使っている側の人間は武彦たちが強くなりすぎないようにダンジョンの突入に制限をかけているのだ。
具体的にいうと、武彦たちがダンジョンに潜っていいのはこの借金の取り立てに行く前と後の一日二回だけだ。
それ以外では、キョウスケとユウダイには会うことすら許可されていない。
連絡先も知らないし。
その上、ダンジョンに潜って稼げるからという理由で、取り立ての報酬はほとんどでない。
「今日はほとんど倒せなかったんだよな。昨日の帰りはEランクダンジョンに入ったから一回も戦闘できなかったし」
「……そうだな」
今日はダンジョンがどんどん攻略されており、ダンジョンに突入したのに、一度も戦闘ができずに追い出されてしまった。
掲示板を確認してみると、どうやら、今日は偶然市川市のEランクダンジョンが全てなくなってしまい、Eランク探索者がFランクダンジョンに潜っているため、ダンジョンの攻略サイクルが速くなっているそうだ。
明日には元に戻るそうなので、今日は諦めるしかない。
速く竜也たちから家族を守れるくらいに強くなりたい武彦としては、一日の足踏みさえもどかしかった。
「じゃあ、お仕事しますか」
「おう」
愚痴を吐きながら歩いていると、有村母娘の住んでいるアパートが見えてきた。
相変わらずボロいアパートだ。
こんなアパートに住んでいる母娘に一億なんて大金払えるはずないのに。
(許してくれよ。これも生活のためなんだ)
武彦たちは警察のパトカーのすぐ横を通り過ぎる。
特にこそこそしているわけでもないのに、警官たちは武彦たちに気づかない。
ダンジョンから脱出した後、一定時間は謎の力が働いて周りの人から見えなくなっているのだ。
それは探索者だけでなく、一般人も対象になる。
流石に、防犯カメラとかは騙しきれないため、万引きとかをすれば捕まるが、こんなオンボロアパートの近くには防犯カメラなんて高価なものはない。
(ほんとにダンジョン様様だな)
武彦たちはいつものように二階にある有村家の前までたどり着く。
そして、左右を確認して、警察官がいないことを確認する。
すぐ後ろには階段があり、逃げることは容易だ。
「上にも警官はいなかった」
「よし、じゃあ、始めるか」
上の階を確認に行っていたユウダイが帰ってくると、俺たちは大きく息を吸う。
そして、一斉に大声を出した。
「有村さーん! ア・リ・ム・ラ・ミ・カさーん」
「借りたら返すの当たり前!」
「出てきてくださーい!」
扉をドンドンと叩きながら部屋の中に向かって大声を出す。
隣ではキョウスケが嫌がらせのようにインターホンを何度も押す。
いや、完全に嫌がらせか。
こんなボロアパートなら壁も薄いだろうし、室内にも俺たちの大声は聞こえてるはずだ。
武彦は家の中で震えている親子を幻視する。
それが、自分の母親と、歳の離れた妹と重なる。
(!! 仕方ない、仕方ないことなんだ!)
武彦は自分の気持ちを振り切るように何度も扉を叩きつける。
「お前ら! 何やってんだ!!」
「やべ! サツだ!」
「逃げろ!」
武彦は必死に階段を駆け上がる。
だが、武彦の中にはどこかホッとしたような気持ちもあった。
武彦は走りながらスマホを取り出し、ダンジョンGo!のアプリを起動する。
「早くダンジョンに突入するぞ!」
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