第45話 次のターゲット
「……それでお前らはおめおめと帰ってきたってわけか?」
「はい」
品川区にある廃倉庫。
京子が攫われた倉庫とは少し離れた場所にあるその場所は竜也が本拠地としている場所だった。
金田の部下だった者達は竜也に事の顛末を報告するため、その場所に来ていた。
数は半分ほどに減っている。
金田が独自に集めた者達や、金田の惨殺死体を見て、怖くなって逃げ出した者がいたためだ。
だが、大半の者がこの場所に来ていた。
彼らには他に行く場所がなかったからだ。
彼らの多くが金田の下で犯罪行為に手を染めていた。
中には警察に追われている者もいる。
そんな彼らがいられる場所は、同じ犯罪者である竜也の下だけだった。
居場所のない者達でも半数が逃げてしまうほど、金田の最期は酷いものだったということでもあるのだが。
「!! ふざけんな!!」
「「「ひぃ!!」」」
竜也が殴りつけると、竜也のそばにあったテーブルが粉砕した。
文字通り粉砕である。
いつものようなパフォーマンスの怒りではなく、心の底から怒っている。
金田の部下たちは自分たちのボスである竜也も上級冒険者であることを思い出した。
そんな竜也が使い勝手の良かった部下の金田を失って憤りをあらわにしている。
もしかしたら、殺されてしまうかもしれない。
金田の元部下たちは体を硬くした。
「……っち。仕方ねぇ」
机を粉砕して少し気が晴れたためか、金田の元部下たちの怯えた様子を見て優越感を味わったためか、竜也は落ち着きを取り戻して、椅子に座り直す。
「お前ら、その京子ってやつの母親を攫ってこい」
「え?」
「……京子ってやつは上級冒険者がいて攫えないんだろ? なら、娘を売った母親に払った分の金を返してもらわないとダメだろ」
探索者は幾らいびってもダンジョンを産まないということを竜也は実体験で知っていた。
京子が探索者であるなら、竜也にとってはほとんど興味のない相手だ。
母親より京子の方が稼げるかもしれないが、金ならダンジョンに潜っていくらでも稼ぐことができる。
それに、金田のような奴隷商人だって、何人かの探索者を商人にしてダンジョンに突っ込めばそのうち手に入るかもしれない。
そう考えると、今回の被害はそれほどないということになる。
竜也はだんだんと冷静さを取り戻していた。
「で、でも」
「なんだぁ!? できねぇのか!」
竜也は椅子の肘掛けの部分を握り潰す。
「ひぃ! やれます!」
「なら行け!」
「はいぃぃぃ!」
あいつらの中からどいつを見習い商人にしてダンジョンに入れるか。
そんなことを考えながら、竜也は逃げるように倉庫から出ていく男たちの背中を見送った。
「さて、次はどうするか?」
竜也は配下たちが出て行った部屋の中で独り言を言う。
京子の母親を攫ってくることはできるだろう。
だが、もしかしたら、また上級探索者が妨害に来るかもしれない。
娘を売るような母親を、売られた娘が助けに来るとはあまり考えられないが。
だが、もしダメだった時のために次の手を考えておいた方がいいだろう。
竜也は近くにあった棚から書類ケースを取り出す。
その書類ケースにはファイリングされたたくさんの書類が入っていた。
それは、半グレとして竜也が追い詰めている者たちのリストだった。
竜也は半グレになる前のブラック企業の社員時代からの習慣で作戦などを書類にまとめる癖があった。
竜也の作戦の成功率が高い秘訣だ。
ブラック企業に勤めていた時のことは嫌な思い出ばかりだが、この習慣は役に立つので、続けていた。
「さて、次はどいつにするか」
竜也が書類を取り出すと、一枚の書類がぱさりと地面に落ちる。
「こいつは」
その書類には、つい最近まで追い詰めていた会社の社長の名前が書かれていた。
その社長はもう少しでダンジョンが生まれそうというところまで追い詰めたのだが、借金返済のためにマグロ漁船に乗っていってしまった。
流石にマグロ漁船にまで追いかけていくことはできず、結果的に失敗に終わった案件だ。
まあ、漁船が帰ってくれば貸した金の一万倍以上の金が返ってくるだろうから、半グレ組織としては成功の部類に入るのだが。
「……いや、待てよ? こいつには家族がいたはずだな?」
この男には確か、妻と娘がいたはずだ。
離婚もしており、法的にはその家族に借金を取り立てに行くことはできない。
だが、竜也たちは元々半グレ組織だ。
法律的にどうかなんて関係ない。
「あった。こいつらだな」
竜也は書類をめくり、その男の家族の情報を確認する。
その男には美人な妻と、可愛い高校生の娘がいた。
半年のゴタゴタで、その二人は他の親族から絶縁されているらしく、孤独な状況のようだ。
しかも、今はセキュリティの低いボロアパートの一室に住んでいるらしい。
これなら追い詰めるのは容易だ。
「よし、こいつらにするか」
竜也が満足げに見下ろす書類には有村 朱莉の名前が載っていた。
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