第26話 ユニークジョブの制約②

「えーっと。どうだ?」

「ちょっと今までより体が重いような気もしますが、大丈夫そうです」

「そうか、よかった」


 光る鱗粉のようなものはすぐにおさまった。

 側から見ていて、光る鱗粉が舞う前と後で変わったことはなさそうだ。

 京子自身も色々と確かめてみているようだが、なんともないようだ。


 一体今のはなんだったんだろうか?


「あれ?」

「どうかしたのか?」

「いえ、見習い僧侶や僧侶がジョブ選択の欄から消えてて」

「え!」


 俺は京子のダンジョンGo!のアプリを覗き込む。

 ジョブの選択欄には僧侶はもちろん、見習い僧侶も見つからない。

 それどころか、見習い戦士や見習い魔法使いも無くなっている。

 せめてもの救いは見習い鍛冶師や見習い防具職人みたいな便利系のジョブが残っていることか。

 というか、見習い料理人なんてジョブもあるんだな。

 俺のところにはないから、料理ができる人限定のジョブなんだろう。


 無くなったのは攻撃が出来そうなジョブばかりだな。

 見習い商人は残ってるし。


「一回見習い聖女以外のジョブにしてみたらどうだ?」

「そうですね。やってみます」


 一度、見習い料理人に変更してみたが、無くなったジョブは復活しない。


「……もしかして、見習い聖女を選んだせいか?」

「え?」

「見習い聖女は特別なジョブだったんじゃないか?」


 ゲームの知識だが、一定の職業に就いたり、ある選択肢を選んだりすると、他の職業にできなくなったり、一定の行動しか取れなくなったりする。

 魔王のジョブにつけば、勇者のジョブを選択できなくなったり、誰かの攻略ルートに乗れば、それ以外の女の子に会いに行けなくなったりだ。


 無くなったのは見習い僧侶をのぞいて攻撃が出来そうなジョブばかりだ。

 聖女は敵すらも傷つけてはいけないということなのかもしれない。


 京子は少し不安そうにアプリを覗き込んでいる。

 まさか全ての攻撃手段が封じられることになるとは思わなかったのだろう。


 俺だって思わなかった。


「まあ、大丈夫だろ」

「え?」

「さっき約束しただろ? 京子のことは俺が守るし、京子の敵は全部俺が倒すから」

「!! はい!」


 京子は不安を振り払うように元気に返事をする。

 俺は京子が元気になったことにほっと胸を撫で下ろす。


 それに、俺が京子を守るという気持ちに偽りはない。

 俺も見習い聖女を取ることを勧めたんだ。

 責任は取るべきだ。


 京子が俺から離れていくまでは俺が京子をなんとしてでも守る。


「じゃあ、腹も減ったし、今度こそダンジョンから脱出するか」

「はい! 今日の晩御飯は期待しておいて下さいね!」


 俺たちはダンジョンを後にした。


***


「じゃあ、帰るか」

「はい」


 ダンジョンを脱出するとすでに外は暗くなっていた。

 時間は夜の六時過ぎだから、この暗さも当然か。


 日が落ち、歌舞伎町は俺のイメージしていた歌舞伎町に近づいていた。

 こんなところに女子高生がいるのは危ないし、さっさと帰った方がいいだろう。


「あ、帰りにホームセンターに寄って帰っていいですか? 色々と買いたいものがあるので」

「あぁ。いいぞ。というかごめん。何もなくて」


 多分、買い物に行きたいのは俺の部屋に調理器具がないからだろう。

 全然使わないから、小さな鍋とフライパンが一つしかない。

 部屋の主としては申し訳がない。


 というか、朝はその状況でよくあの美味しい朝食を作ってくれたと思う。

 しかも弁当までちゃんと用意しながらだ。


 京子はやっぱりすごい。

 見習い料理人のジョブを持ってるのは伊達じゃないな。


「いえいえ。必要最低限のものはありましたから。それに、私、調理道具とか選ぶの好きなので、むしろ何もなくてよかったくらいです」

「そうか? そう言ってくれるなら嬉しいが。財布と荷物持ちは任せてくれ」

「え? 私が出しますよ?」

「俺の部屋に置くものだろ? じゃあ家主の俺が出すのが当然だろ」


 今日一日で十万円以上は稼いでいる。

 だから、調理道具くらいなら痛くも痒くもない。


 それに、俺もつい最近まで社会人だったんだ。

 忙しすぎて使う機会が全然なかったから、お金なら有り余ってる。


「それより、美味しい料理を期待してるから」

「はい。わかりました。任せて下さい」


 俺たちは二人で新宿駅の方へと向かう。

 今日一日で、京子ともだいぶ仲良くなれたと思う。

 冗談を言ってもちゃんと理解してくれるし、何をしてほしいかも大体わかるようになってきた。


 実際、今も期待通りの返事を返してくれた。

 これなら、共同生活が当分続いても大丈夫だろう。


 朝と同じく、手の触れられそうな距離に京子がいたが、もう気にならなくなっていた。




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次回は掲示板回です。

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