第16話 私立探偵 金田ハジメ①

「サグルさん。お風呂お借りしました。いいお湯だったんで、サグルさんも冷めないうちに入っちゃって下さい」

「おぉ。わかっ、た」


 風呂場から出てきた京子を見て俺の思考は一瞬フリーズした。

 白い肌は少し上気して赤みを帯びており、色っぽい。

 そして、俺が用意したシャツを着ているが、サイズが合っていないため、かなりブカブカだ。

 小さめのワンピースみたいになっている。

 短パンも一緒に準備したのだが、シャツがブカブカなせいで履いていないように見える。

 履いてるよな?


 彼シャツの破壊力の強さをこんなところで認識してしまうとは。


「? どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。京子の寝る準備は済ませておいたから」

「わぁ。ありがとうございます。横になって寝るなんて久しぶり」


 京子は嬉しそうにエアーマットレスの上に転がる。

 ブカブカなシャツのせいで胸が見え……。


「! 風呂入ってくるな。先に寝てていいから」

「はーい」


 眠たそうな返事を背に、俺は浴室へと向かう。

 手早く服を脱いで浴室に入る。


「……」


 いつも入っている浴室のはずなのに、いつもとは少し違うように感じる。

 心なしか、いつもより良い匂いがするように思うし。


 それは、ここにさっきまで女子高生がいたせいか、それともただの気のせいか。


「いかんいかん。さっさと入ってしまわねば!」


 俺は邪な気持ちを振り切り、体を洗う。

 いつもより念入りに洗ったのはどうしてか。


「……」


 そして、再び難関がやってきた。

 湯船だ。

 ここにさっきまで美少女が入っていたかと思うと、どうしても躊躇してしまう。

 彼女いない歴=年齢の俺にはハードルが高すぎる。


「えーい。ままよ」


 俺は勢いよく湯船に浸かる。

 入って仕舞えば普通の湯船だった。


 それでも出るまでずっと悶々としてしまったが。


***


「すー。すー」

「やっぱり寝ちゃったか」


 俺が浴室から出てくると、すでに京子は夢の世界に旅立ってしまっていた。

 今日疲れたというのもあるかもしれないが、これまでの疲れも出たのだろう。

 ネットカフェなんかじゃちゃんと眠れないからな。


 京子の安らかな寝顔からは本当に安心してくれているということが窺えた。


「……おやすみ」


 明日からどうするのかはまた明日話し合えばいいだろう。

 とりあえず、今は俺も疲れたし、さっさと眠ってしまおう。


 俺は安らかに眠っている京子の隣を起こさないように静かに通り抜け、自分のベットで横になる。

 電気を消せばすぐに眠気が襲ってきて、俺も夢の世界へと旅立っていった。


◇◇◇


「はぁ? お前今なんて言った?」

「ひぃ!」


 東京の品川区にある倉庫街の一角にある街の発展から取り残されたような古びた倉庫。

 竜也がアジトとして使っているその場所に怒声が響いていた。


 機嫌の悪い竜也の前には京子の元パーティメンバーであったケンタとケンゴが地面に正座している。


 ケンタはケンゴと一緒に竜也の下にきていた。

 ケンタは竜也の半グレグループのメンバーだった。


 竜也は『ダンジョンGo!』の適合者を自分のグループに勧誘し、そいつらにノルマを与えてダンジョンに潜らせ、ある程度強くなると、自分の犯罪者グループのメンバーとして使っていた。

 ケンタも一ヶ月ちょっと前に竜也の部下に声を掛けられて竜也のグループに入った下っ端だった。


 そして、今日が竜也に上納金を払う日だ。

 だが、今日は十分に稼げず、ケンゴに借りても九万円ちょっとしかいかなかった。


「その、今日は上級探索者が渋谷のダンジョンを荒らしてて、明日、明日なら必ず払いますんで!」

「そんな言い訳はどうでも良いんだよ!」

「ひぃぃぃぃ!」


 竜也は近くにあった机を蹴っ飛ばすと、その机はケンタの脇を掠め真っすく壁に飛んでいき、壁にめり込む。

 普通なら放物線を描くところを直線的に飛んでいった。

 どれだけの強さで蹴られたのか、想像すらできない。


 少なくとも、ケンタは自分がそんなことをやれるようになる未来は想像できない。

 これが上級冒険者だ。


「クソ。まあいい、明日まで待ってやる。二人で百万。耳を揃えて持ってこいよ」

「「ひゃ、百万!」」


 ケンタとケンゴはその値段に目を見張る。


「一日待ってやるんだ。利子がつくに決まってるだろ!」

「で、でも、流石に十倍はやりすぎなんじゃ」

「……俺は別にお前の可愛い妹に払ってもらっても良いんだぞ?」

「そ、それだけは!」


 ケンタには妹がいた。

 健太とは似ても似つかない可愛い妹で、都内にある進学校に通っていた。

 中学の頃から不良になり、両親に煙たがられているケンタにも優しく接してくれる妹だ。


 竜也はどこからかその情報を手にいれ、ことあるごとにそのネタで脅してきていた。


「じゃあ、百万。明日までに用意しろよ」

「……はい」


 ケンタは悔しそうに唇を噛みながらうなずくしかなかった。

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