第15話 ……頑張って、みようかな②

「それにしても、今日は災難だったなぁ」


 京子は怖い想像を振り払うように顔に湯船のお湯をかけ、今日起こったことを思い出す。

 今日もいつものようにダンジョンに潜っていた。

 だが、渋谷ならいつもはダンジョン突入から一時間以上は攻略されないのに、今日は一体モンスターが倒された時に攻略されてしまった。

 いつもなら、一つのダンジョンで最低でも十体はモンスターが倒せるのに、一体だけだった。


 最初はもうほとんど攻略済みのダンジョンだったんだろうと思った。

 そのため、二つ目に潜るダンジョンは三人で『ダンジョンGo!』を確認して、近くにダンジョンが新しくできたのをチェックしてからそのダンジョンに潜った。

 だが、そのダンジョンもモンスターを一体倒したあたりで攻略されてしまった。

 三度目、四度目と三人でしっかり確認してから潜ったが、結果は同じだった。


 それでも、ダンジョンに潜らないわけにはいかない。

 京子たちは五つ目、六つ目とダンジョンに潜り続けた。

 それでも状況は変わらない。

 むしろ、数をこなしていくうちにダンジョンにいられる時間はどんどん短くなっていった。


 今考えると、サグルさんがダンジョンになれて探索スピードが上がっていたからなのだろう。


 七つ目、八つ目と数をこなすうちにケンタが目に見えて焦り出した。

 その様子が心配になった京子は、ケンタに話しかけた。

 ケンタは、今日返さないといけない借金があるのだそうだ。

 返さないと大変なことになると青い顔をして言っていた。


 そこで、もし次のダンジョンでも同じ状況なら、Eランクダンジョンに潜ろうという話になった。


 京子だって、このままだと生活費が危ない。

 今日明日はなんとかなっても、このままが続けば一週間は持たない。


 夕方になると、仕事終わりや学校帰りの探索者が増えてくるので、激戦になることを京子たちは知っていた。

 少し不安だったが、京子はEランクダンジョンに潜ることを了承した。


 そして、九つ目のダンジョンも同じ状況だったので、少し休憩を取った後、京子たちはEランクダンジョンへと突入した。


(でも、Eランクダンジョンは予想以上の地獄だったんだよね)


 Eランクダンジョンに入って、しばらく移動すると京子たちはモンスターに襲われた。

 今まではこちらから仕掛けていっていたのに、向こうから襲われてしまったのだ。

 パニックになった京子たちは訳もわからず逃げ出すことになった。

 そして、逃げている途中に京子はケンタに足を引っ掛けられ、置き去りにされた。


(あの時はもうダメだと思ったな)


 足を引っ掛けられたと気づいた時にはケンタたちは遥か彼方を走っており、飛蜘蛛はすぐ後ろに迫っていた。

 思わず悲鳴を上げて逃げ出したが、ケンタたちは振り返らない。

 そして、その声が不快だったのか、京子はモンスターに殴り飛ばされてしまった。


(でも、その後サグルさんに助けてもらったんだよね。カッコよかった)


 身体中が痛くて、京子はもうダメだと思った。

 そんな気持ちでモンスターを眺めていると、目の前に影が現れた。

 それがサグルさんだった。

 京子はその横顔に見惚れてしまった。

 モンスターを容易く打倒する姿に心臓が早鐘を打った。


 しかも、サグルさんは京子を助けただけじゃなくて、京子の治療のためにポーションまでくれたのだ。


 最初は羨望に似た気持ちだったが、その気持ちは恋へと変わっていった。


 だが、サグルさんは京子のことを女として意識していないのかもしれない。

 Eランクダンジョンの中でも何度かアプローチしてみたが、距離が縮まった感覚があまりしない。

 ここにくるまでの間も、手すら繋いでもらえなかった。


「私、魅力ないのかな? おっぱいは大きいほうだと思うんだけど」


 京子は自分の胸に触れてみる。

 母親の恋人たちも明らかに京子の胸に視線が行っていた。


 でも、好きな人に興味を持ってもらえないのであれば、なんの意味もないではないか。


「って。私、何考えてるんだろ!」


 京子は邪念を洗い流すように何度も顔にお湯をかける。

 そして、少し冷静になって、サグルが京子を誘った時のことを思い出す。


 サグルは京子のことを心配して家に誘ってくれた。

 だが、その後、京子が女の子だったことを思い出し、焦って弁明していた。

 あの時のサグルは可愛かったなと京子は思った。


「ちゃんと女の子だとは認識されてるんだよね。……頑張って、みようかな」


 京子は決意を新たに、浴場を後にした。

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