第14話 ……頑張って、みようかな①
「はぁ。あったかい」
京子はサグルの家でお風呂に浸かっていた。
こうして湯船に浸かるのはいつぶりだろう?
少なくとも、家出をして、ネットカフェに泊まるようになってからはシャワーしか浴びられていないから、一週間はシャワー生活だ。
家にいた時だって、母親が男を連れ込むことが多かったので、シャワーすら浴びられない日が多かった。
母親が家に連れ込む男はいつも京子のことをいやらしい目で見てきた。
その視線に気づいたのは、中学に上がった頃だったと思う。
しかも、母親は庇ってくれなかった。
むしろ、どんどん京子に対する当たりが強くなっていったように思う。
今考えると、母親は自分の彼氏を魅了する京子に嫉妬していたのだろう。
そして、母親との確執が決定的になったのは一週間ほど前、あの事件があったせいだ。
その日、母親はいつものように家に男を連れ込んでいた。
母親が男を家に連れ込むことはもうなんとも思わなくなっていた。
物心ついた頃からそうだったし、京子の父親は京子が物心つく前に謎の事故で亡くなっていた。
だから、母親が男を家に連れ込むことは当然のことだと思っていた。
むしろ、他の人の家には母親が男を連れ込まないと聞いて驚いたくらいだ。
母親が男を家に連れ込んだ時は、京子は自分の部屋にこもってできるだけ息を殺していた。
そうしていれば、母親の機嫌も悪くならないし、男は勝手に帰っていくからだ。
だが、その日はいつもと少し違った。
母親が連れ込んだ男が京子の部屋に侵入してきたのだ。
その日はなんとか追い返すことができた。
だが、母親は京子を心配するどころか、京子のせいで、男が帰ってしまったことを怒った。
京子は母親と口論になり、そのまま家を飛び出した。
そして、通学定期を使って渋谷まで出てきた。
なんで渋谷に来たのかはよく覚えていない。
ただ人が多くて賑やかなところに行きたかったのか、神待ちしていたらカッコいい男性に出会えたっていう友達のセリフを覚えていたのか。
そこで京子はケンタと出会った。
最初、ケンタは京子をナンパしてきた。
正直迷惑だと思っていたら、すぐにケンゴがやってきて二人で『ダンジョンGo!』の話を始めた。
どうやら、二人はパーティメンバーを探していたところだったらしい。
京子はその時二人が話している内容はよくわからなかった。
だが、「うまくいけば一万円以上稼げる」とか「早く仲間を増やさないといけない」とかわかる部分もあった。
ゲームに詳しくない京子は二人が闇バイトの話をしているのだと思った。
当時、世の中なんてどうでもいいと思っていた京子は仲間に入れてほしいと二人にお願いしたのだ。
(本当に危ないことをしたな〜。もしかしたら、水商売のスカウトとかだったかもしれないんだから)
ケンタとケンゴの二人は京子の発言に驚いた顔をした。
京子が『ダンジョンGo!』の適合者だったからだ。
二人とも、適合者以外の前で『ダンジョンGo!』の話をしても、相手が理解しないことをわかっていたので、京子の前で堂々と『ダンジョンGo!』の話をしていたのだ。
だから、京子が会話を理解していることを本当に驚いていた。
京子は「闇バイトより危ない仕事だけど、ついてこい」というケンゴの後をついて場所を移動した。
そこで、ケンタに招待コードをもらい、『ダンジョンGo!』をインストールし、初めてのダンジョンに潜った。
そして、ケンタの指示するままに『見習い僧侶』のジョブについた。
それから京子は一週間毎日ケンタたちとダンジョンに潜ってお金を稼いだ。
一日で一万数千円は稼げたので、ケンタに教えてもらった高校生でも泊まれる漫画喫茶に泊まりながらそれから今日まで一週間生活していたのだ。
(今考えると、ケンタは私が独立できないように『見習い僧侶』を選ばせたんだろうな)
ケンタたちのパーティーに足りてないジョブはいくつかあった。
多分一番欲しかったのは索敵ができる『見習い盗賊』だっただろう。
京子から隠れて京子を『見習い盗賊』に変更させないかという話をしているところを見たことがある。
だが、『見習い盗賊』はうまくやれば一人でもやっていけるジョブだ。
だから、京子の独立を恐れて、二人は切り出せなかったのだと思う。
(よく考えると、二人でダンジョンに潜るのは無理だろうし、私が入る前は『見習い盗賊』の仲間がいたのかも)
ケンタとケンゴの二人ではFランクのモンスターでもギリギリ倒せるかどうかだ。
にもかかわらず、京子がパーティに参加した時にはすでに二人のジョブランクはⅡになっていた。
つまり、もう一人くらいパーティメンバーがいたということだ。
それが『見習い盗賊』だったんじゃないかと思う。
その人が何かの理由で抜けたため、急遽メンバーを探していたんじゃないだろうか?
(まさか、私みたいに囮にしたとか? ……まさかね)
京子は温かいお風呂に入りながらも、体の震えを止めることができなかった。
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