第5話 今日も元気に暗殺、暗殺♪①
「ふぅ。やっとダンジョンに潜れた」
社長を見送った翌日、俺はFランクダンジョンに来ていた。
Fランクダンジョンに潜るまで結構大変だった。
最初は家の近くにあるFランクダンジョンに行こうとしたのだが、ダンジョンに向かっている途中でそのダンジョンは消失してしまった。
それならと思って次に近いダンジョンに行こうとすると、そのダンジョンもまた消失した。
その次のダンジョンは突入可能の距離まで来たのだが、誰かに攻略されてしまい、突入することができなかった。
どうやら、Fランクのダンジョンは取り合いになっているらしい。
画面を見ているとFランクのダンジョンは出来てから消えるまでのサイクルがかなり短い。
画面に表示されても、三十分以内には攻略されてしまう。
東京周辺は人が多いから『ダンジョンGo!』のユーザーも多いのだろう。
そのせいでダンジョンが次々攻略されてしまう。
そこで、俺はあえて人の多い渋谷まで来てみていた。
ダンジョンは負の情念によって作られる。
それなら、人の多い場所の方がたくさんできると思ったからだ。
近くでたくさんダンジョンができれば、移動の時間が短い分、ダンジョンに突入しやすい。
それに、たくさんダンジョンがあれば探索者が分散する分、攻略されるまでの時間が長くなるんじゃないかと思ったのだ。
案の定、渋谷に来てみると、たくさんのダンジョンができては消えていった。
だが、消えるまでの時間が俺が住んでる市川市よりゆっくりな気がする。
ダンジョンに対する探索者の数はこっちの方が少ないようだ。
今日は平日だし、朝より昼間の方が人が少ないというのもあるかもしれない。
「よし。じゃあ、やって行きますか」
俺は気合を入れてダンジョン内を駆け出す。
「はえぇ!」
今まであり得ないくらいのスピードで動けている。
おそらく、ジョブ『忍者』のおかげだろう。
『忍者』のジョブはどんなゲームでも基本的にスピード特化の前衛アタッカーだ。
ソロでやるのなら、このジョブがいいと思った。
何より、称号によって得たジョブだから、強いことが期待できる。
初期から選べるジョブは『見習い戦士』とか『見習い魔法使い』とか、全部『見習い』がついているが、これにはついていないというのも良い。
多分、『忍者』は『見習い盗賊』というジョブの上位職なのだと思う。
他が下位職しかないなら、メインジョブは上位職の『忍者』一択だろう。
ちなみに、セカンドジョブは『見習い魔法使い』にした。
だって魔法使ってみたいじゃん。
多分、『見習い盗賊』とかにした方が、メインジョブとの相乗効果で強くなるんだと思うが、そこはロマンを優先させてもらった。
「お! モンスターだ」
ダンジョンを走っていると、目の前にモンスターを見つける。
おそらく妖怪がモチーフなのだと思うが、日本の古い本の挿絵とかに出てきそうなの謎生物だ。
絵をそのまま立体にしたような感じなので、生物感がなく攻撃しやすい。
「『隠密』」
敵はまだ気づいていないようなので、俺はスキルを使って足音を消す。
スキルはジョブを設定した時に頭に流れ込んできた。
『忍者』のジョブは姿を隠す『隠密』や敵に気付かれずに攻撃すればダメージが十倍になる『暗殺』、壁や天井も地面と同じように走ることができる『壁走』みたいなスキルが使えるらしい。
戦闘スタイルとして、気付かれずに近づいて一気に倒すものになるようだ。
かなりソロ向きの職だ。
俺はそのまま一気にモンスターに近づいていく。
「『暗殺』」
「!!」
そして、後一歩まで近づいた時に俺は手に持った小太刀をモンスターに向かって振るう。
この小太刀は昔、京都の映画村に行った友人にもらった小太刀のレプリカだ。
ジョブに合った武器を使うとスキルの効力が上がると書かれていたので、家にある武器っぽいものを色々装備してみたのだが、これが一番しっくりきた。
ヘルプにはジョブと武器の相性が良くないと武器補正が発生しないので、攻撃力より相性の良い武器を使うようにと書かれていたので、この模造刀を持ってきてみていた。
本当に効果あるのか、少しドキドキしたが、模造刀の小太刀はモンスターの首?を切り裂き、モンスターはボフッっと音を立てて煙になる。
ーーーーーーーーーー
嫉妬の醜鬼(F)を倒しました。
経験値を獲得しました。
報酬:20円獲得しました。
ーーーーーーーーーー
「あいつ、鬼だったのか。そういえば、昨日倒したやつも同じような雰囲気だった気がする」
目の前に昨日と同じメッセージウインドウが出て、戦闘が終わったことを確認する。
今日は昨日のように小銭が落ちてきたりはしない。
『ダンジョンGo!』の設定で、口座振込にしてもらえたのだ。
いちいち小銭を拾うのは大変だと思っていたので、口座振込してもらえるのは本当に助かる。
こんな怪しげなアプリがどうやって口座振込するのか気にはなるが、そこは考えない方がいいのだろう。
それに、謎組織が口座振込する方が謎ウインドウから現金が出てくるよりは現実的だ。
ちなみに、ヘルプ曰く、報酬は雑所得として確定申告をしないといけないらしい。
そういうところはちゃんとしているんだなとちょっと驚いてしまった。
「おっとこうしている場合じゃない」
一回の戦闘で得られる報酬は微々たるものだ。
だが、ダンジョンを攻略するとモンスターを倒した場合の100倍くらいの報酬がもらえるらしい。
モンスターを倒した報酬もダンジョンを攻略した報酬もランクが一つ上がるごとに10倍になるらしいので、Iランクで一桁だったからFランクなら千円台になるはずだ。
だから、俺はなんとしてもこのダンジョンを攻略したい。
それに俺には一つアドバンテージがある。
昨日手に入れた『御命頂戴』の称号のおかげで、ボスのいる場所がわかり、ボスのいるところまで一直線に向かえるのだ。
場所がわかっても通路とかはわからないので、最短ルートで向かうことはできないが、他の探索者より有利なのは間違い無いだろう。
まあ、『御命頂戴』の称号はみんな持ってるかもしれないからアドバンテージかどうかはわからないが。
「さっさとモンスターを倒してダンジョンを攻略するぞ!」
俺はダンジョンボスのいる場所に向かって駆け出した。
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