第4話 GO TO ダンジョンキャンペーン!④
「やべ! かなり時間をかけちまった! さっさと帰らないと。社長。暴走してないといいけど」
社長の奥さんに見ているように頼まれていたのに、かなり長い間放っておいてしまった。
最近の社長はかなり暴力的だ。
奥さんや娘さん、そして、息子のように可愛がってくれている俺の前では比較的マシだが、その3人がいないところだと荒れっぷりがやばいらしい。
俺の場合、顔が怖いから冷静になってしまうだけかも知れないが。
昔はかなり温和な人だったんだが、会社が傾きだしてから変わってしまった。
武井さんや中村さんに聞いた話だと、闇金業者にゴルフクラブ持って殴り込みに行こうとしたこともあるらしい。
会社が傾きだしたきっかけは一緒に事業をしていた会社が倒産したことだった。
その会社の社長は夜逃げしてたくさんの借金が残された。
そして、その借金の幾つかが共同で事業をしており、仲の良かった社長に回ってきてしまったのだ。
そこまでは仕方のないことだ。
うちの社長も事業に関わっており、失敗したことは社長にも問題があった。
だが、そこからが問題だった。
逃げた社長が闇金から金を借りていたようなのだ。
闇金はいくつかの借金の連帯保証人だったうちの社長のところに取り立てに来た。
取り立ては苛烈で、はっきり言って違法なものだった。
電話は四六時中鳴り止まず、オフィスに取り立てに来るのは当たり前で、取引のある会社なんかにも取り立てに行ったらしい。
警察も動いてくれたのだが、どういうわけか警察がいるとあいつらは現れない。
それどころか、結構大きな組織なのに本拠地がどこにあるかもわからなかったのだ。
かなり念入りに捜査したにも拘らずだ。
警察の人から聞いたのだが、奴らは結構前から存在する半グレ組織で、ずっと捜査を続けているが、まだ尻尾を捕まえられていないそうだ。
そんな状況なので、取引先は潮が引くようにさっていき、社員もとばっちりを恐れて次々辞めていってしまった。
そうして、結構勢いのあったうちの会社は半年で倒産した。
社長は奥さんと離婚し、借金を返すために明日からマグロ漁船に乗ることになっている。
***
「やっべぇ」
戻ってくるとオフィスは静まり返っていた。
先程までBGMのように響いていた社長が何かを殴る音が聞こえない。
もしかしたら、社長は出ていってしまったのかも知れない。
「社長。いますか?」
俺は急いで社長室に近づき、ノックをする。
すると、社長室の扉はすぐに開く。
(良かった、ちゃんといた)
だが、社長室から出てきた社長を見て俺は度肝を抜かれることになる。
「おぉ。サグル。待たせちまって悪いな。さっさと帰ろう」
「え? 社長。ですよね?」
「? 他の誰に見えるってんだよ」
「いや、えーっと」
社長は昔のような温和な表情で微笑みかけてくる。
さっきまで鬼のような表情で何かをボッコボコにしていた人とは別人みたいだ。
ひん曲がったゴルフクラブとボコボコになった机が社長の後ろに見えるので、おそらくさっきまで怒っていたのは間違いない。
「悪い、心配かけちまったな。さっきどうしてかすーっと怒りが抜けてな。冷静になってみると、あんなものを殴ってるより、どうやって一刻も早く借金を返すか考えた方が得だと思ったんだよ」
「……そうですか」
もしかしたら、『ダンジョンGo!』のおかげか?
さっきできたダンジョンは社長の負の情念が固まったものだったのかも知れない。
社長の負の情念がダンジョンを作るレベルまで達して、ダンジョンができた。
出来立てのダンジョンだったから、難易度も低かったのかも。
そして、そのダンジョンを俺が攻略したから、社長の負の情念が消えて、冷静になったとか。
本当にそうかはわからない。
でも、もしそうなら少し嬉しい。
社長には色々とお世話になった。
その社長にどんな形であれ恩返しができたことはかなり嬉しかった。
「じゃあ、俺はこのまま港のほうに行くから。お前も達者で暮らせよ」
「はい。社長もお元気で」
颯爽とさっていく社長の背中を俺は少しの達成感を抱きながら見送った。
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