高卒、無職、ボッチの俺が、現代ダンジョンで億を稼げたワケ〜会社が倒産して無職になったので、今日から秘密のダンジョンに潜って稼いでいこうと思います〜

砂糖 多労

第一章 ボッチ男と家出少女

第1話 GO TO ダンジョンキャンペーン!①

『……様の今後いっそうのご活躍をお祈りいたします』

「はぁぁぁぁぁ。またダメだ」


 目の前のスマホにはいわゆる『お祈りメール』が表示されていた。

 これで五十社目のお祈りメールだ。


 俺は倒産した会社のオフィスの片隅で深々とため息を吐いた。

 がらんとしたフロアには机の一つもなく、残っているのは地面にポツンと置かれた電話と俺が今腰掛けている借金とりが回収できなかった廃材の山だけだ。

 社長室からは社長が何かを殴るような音が聞こえてきており、ちょっとしたホラーゲームのステージみたいな感じもする。


 書類選考は問題なく通るのに、面接となると一次面接すら通ったことがない。

 今回のメールも、書類選考までは好感触だったのに、面接では相手がビクビクしていてほとんど話ができず、面接の翌日にはこうしてお祈りメールが送られてきてしまった。


「……やっぱり顔か?」


 そう言って俺は自分の目元に触れる。


 俺は昔から父親譲りの悪人顔だと言われてきた。

 高校時代は何もしていないのに地元のヤンキーからは『不滅の竜』なる不名誉なあだ名で呼ばれていて、恐れられていた。


 どうやら、筋金入りのヤンキーだった親父の異名らしい。

 親父は名の知れたヤンキーで、俺の母親を孕ませた後、どこかの抗争で死んでしまったそうだ。


 そんな感じだから友達も少なく、当然、彼女なんてできたことがない。


「仕方ない。とりあえず、内職でも探すか」


 そう思って内職の求人サイトを開く。

 他の仕事と違い、内職系は全く誰とも会わずに仕事を進めることができる。

 そのため、俺でも簡単に仕事が見つかるのだ。


「ん? なんだこれ?」


 いつもの仕事を探しているサイトを開くと、一番上にゲームアプリの宣伝広告が表示されていた。

 いつもならスルーするのだが、俺はその煽り文句が気になってしまっていた。


『ダンジョンGo!GO TO ダンジョンキャンペーン実施中!!今なら初回ダンジョンクリア報酬として10,000円プレゼント!!モンスターを倒して、“ストレス発散”しませんか?』


 普段ならゲームアプリなんてスルーするのだが、どうやら、これはゲームを遊ぶだけでお金がもらえるらしい。

 もしかしたら最近流行りのゲームでお金を稼ぐ『Play to Earn』ってやつかも知れない。

 確か、俺より先に辞めていった誰かが、それで稼いでいくって言ってた気がする。

 もしそうなら、内職の代わりになるかもな。


 それに、今は暇だし、何より、ストレス発散という文言が気になった。

 会社の倒産に関係して、色々とあったのでストレスが溜まっているのだ。


「一体どんなゲームかな? ストレス発散って書いてあるし、無双系みたいに雑魚Mobを倒しまくるやつかな?」


 俺はアプリを早速ダウンロードする。

 ダウンロードは一瞬で終わった。

 幾つか『本当にダウンロードしますか?』とか、『あなたの情報を取得しますがよろしいですか?』みたいなポップアップメッセージが出たので、ダウンロードが始まるまでの時間のほうが長かったくらいだ。


 もしかして、ウイルスとかだったか?

 まあ、このスマホには実家と会社の電話番号しか入ってないし、最悪初期化すればいいか。

 なくなったら困る友達のアドレスとかも入ってないし。


 いかん、泣けてきた……。


「お。ちゃんとアプリゲームみたいだな」


 ダンジョンGo!を起動すると、マップが表示された。

 ここら一帯の地図だ。

 そこに幾つかのアイコンが配置されており、どうやら、これがダンジョンのようだ。


「位置情報を使ったゲームだったか」


 スマホのGPS機能を使って位置情報を取得して遊ぶゲームがある。

 ダンジョンGo!はそれ系だったらしい。


「この系統のゲームは結構しんどいんだよな。……お金も手に入るみたいだし、とりあえず遊んでみるか」


 位置情報を使ったゲームはユーザーが動き回らないといけないから、結構めんどくさいのだ。

 散歩はストレス発散にいいと聞いたことがあるから、もしかしたら自分で動いてストレス発散をしろってことか?


 もしそうなら幻滅だ。

 とりあえず一つダンジョンをクリアしてみて、一万円だけもらって、面白くなさそうなら削除だな。


「……ここからじゃどこのダンジョンにも潜れないな」


 ダンジョンを示すアイコンは地図上にたくさんあり、それを選択すると、ダンジョンの情報が表示されるようだ。

 それぞれ、A〜Fの等級が振られているらしい。

 Aが一番上で、Fが一番下かな?

 正確にはBは見当たらないが、そういう感じの割り振りがされてそうだ。


「できれば一番簡単そうなF級に入りたいんだけど、結構遠いんだよな」


 今いる場所からだとどのダンジョンも少し遠い。

 一番近いダンジョンも『このダンジョンに突入する場合、もっとダンジョンに近づいてください』というメッセージが出て、『突入』ボタンが選択できない。


「この場所を離れるわけにはいかないからなぁ」


 今、社長室には社長がいる。

 定期的に何かを殴るような音が聞こえてくるから、今日も荒ぶっているのだろう。


 昔は温和な人だったんだけど。


 社長の奥さんに社長のことを見ておいてほしいと言われているから、放っていくわけにもいかないんだよな。

 社長にも奥さんにも色々お世話になったし。


「お?」


 すると、目の前にダンジョンが発生した。

 ランクはI。

 ABCDEFGHIだから、かなりランクは低い。

 もしかしたら、チュートリアルダンジョンかも知れない。


「とりあえず、これに潜ってみるか」


 ダンジョンを選択し、『突入』ボタンをタップする。


「え?」


 次の瞬間。俺が腰掛けていた廃材が消失した。

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