第7話:二人の王女と交換留学の始まり

 カタンカタン。私が手放していた意識を再び取り戻したのは馬車の揺れによってでした。外の景色には城壁らしきものが見えます。どうやら、旅が終わり、私―ルナモニカ・フォン・エクスマキナ―は目的地、ヘカテリア王国の王都目前にまで来たようです。

 エクスマキナ王国のそれよりも立派で重厚な城門を通り抜けると、馬車が止まりました。馬車の前の方で慌ただしく人が動いている気配を感じます。それが一通り落ち着いたころ、私の乗っていた馬車の扉が開いた。

 馬車から降りると、正面に、癖のある金髪をサイドテールにし、薄い青色の瞳をもち、微笑を浮かべて手を振っている人、私がこの世界になってしまってから最初に出会った人、そして、この国の王女―フレアニア・フィア・エクスマキナ―がいました。


「ようこそ、ヘカテリア王国へ。ルナモニカ王女。」


彼女と目が合ったと思うと、彼女はそう言いました。 


「本日から交換留学でこの国でお世話になります、エクスマキナ王国第一王女、ルナモニカ・フォン・エクスマキナです。よろしくお願いしますね、フレアニア王女。」

「ルナモニカ王女、改めて自己紹介させていただきますね。私はヘカテリア王国第一王女のフレアニア・フィア・ヘカテリアです。こちらこそよろしくお願いします。」


 互いに言葉を社交儀礼的に交わした後、私が手を差し出すと、彼女はその手を取ってくれました。そして、私はフレアに近づくと、


「これからしばらくの間、よろしくお願いしますね、フレア。」


 と、耳元で囁きました。フレアとは結局最初に会って以降、外交の場、つまり互いに王女という立場以外では結局会えていませんでした。そのため、久しぶりに素で話せる機会がありそうなこのタイミングを楽しみにしていました。

 フレアは私の言葉を聞いたからか、それとも、もう大丈夫かと思ったからなのか、何かスイッチを切り替えたかのように表情を微笑から満面の笑みに変えました。


「じゃあ、ここからはお堅いのなしでいくけどいい?」

「え?あ、はい。大丈夫です。よろしくお願いしますね、フレア。」

「うん、じゃあ行こっか。」

「え?どこにですか?」

「この国での貴方の過ごす部屋!」


 フレアはそう言ったかと思うと、私の手を取り、急に走り出しました。あまりに急に走り出したため、合わせて走っていくことしかできませんでした。

 さて、そうやって彼女に手を引っ張られてそのまま城下町を通り抜け、王城らしき建物に入り、そして、ある部屋の前で止まりました。


「この部屋で交換留学の間はここがルナの部屋だよ!。隣が私の部屋だから何か困ったり聞きたいことがある時はいつでも来ていいからね!」


 そう言って扉を開いてフレアは部屋の中を見せてくれる。中にはベッドなど、ある程度品のある調度品や家具が揃っていた。


「はい、わかりました。あとで持ってきた荷物を運びこんでもらいます。」

「学院に行くのは明日からだね。一応今日の予定は父上に挨拶しに行くだけかな。一応母上に兄上、あと妹のヘレニアもいるけど、まあ一応非公式の場だから気は抜いてて大丈夫だよ。」

「わかりました。」

「時間については予定の時間になったら侍従さんが呼びに来てくれるはず。」


 と、なるとしばらくの間暇なんですかね?そこで、ある提案をしてみることにしてみました。


「早速ですが、どうせ暇なんですし、少し話でもしませんか?」

「うん、そうしよっか。場所は私の部屋でいいかな。何について聞きたい?」




「そうですね、魔法について改めて確認してもいいですか?頂いた資料でも確認しましたが、もっと詳しく知りたいので。」

「わかった。少しだけ待ってね。」


 フレアはそう言うなり、私を案内した部屋の隣の扉の中に入っていった。なにやらガサゴソとバタバタしている感じの音がしばらくの間聞こえた後、その部屋の扉が開きました。


「ルナ、入って大丈夫だよ。」

「失礼します。」

「あ、この椅子に座って座って、ほらほら。」


 フレアはそう言って、空いている椅子への着席を促してきました。そして、私が席に座ったのを確認した後、フレアは口を開きました。


「じゃあ、さっそくだけどまず、この国における魔法とはどういうものなのかは確認したんだよね?」

「はい、確認しました。」

「じゃあ、どんなものだったか確認してもいいかな?どこまでわかっているのかを知りたいから。」


 フレアに確認されて、私は資料で確認できたことを話しました。魔法とはヘカテリア王国の力の象徴で、生命線にもなっていることがわかりました。生命線とは文字通りの意味で国を魔物から守るために使われていること、王族や貴族の成り立ちについても魔法の腕前のいい人を中心にまとまっていき、より魔法の腕前を、と求めていった結果自然的に発生していったということ、貴族や王族はその成り立ち故、領地経営のほかに魔法の腕を磨き、魔物襲撃などの有事の際には民を率いて対策に当たるということ、そして、満足にそれらができないと判断されたりすると民によって普通に体制をひっくり返される可能性があり、その結果として、所謂ノーブレス・オブリジュが徹底された国になっているということを。


「まあ、魔法のこの国での扱いについては大体あってるかな。なにかこれについて感想だったり質問はある?」

「そうですね、ヘカテリア王国は魔物という外敵を対策するためにある、という印象がありますね。なんというか、よく国の形が保ててますね。特に民も魔法を使えるために国が民によって容易にひっくり返されるような状況なのに。」

「答えならルナが言ってるじゃないよ、魔物の脅威。魔物の脅威が本当に問題なの。その結果として、魔法の技術は発展したし、王族は国を、貴族は領地を守ることに全力を尽くすようになった。もし、悪意を持って国や領地を運営したら、たとえ民を締め付けたとしても、普通に魔物に滅ぼされちゃう。」

「…この国、過酷すぎません?」


 最後の私の呟きに対してフレアは若干の苦笑を見せた。


「まあ、これで大体はこの国では魔法がどんな扱いをされているのかは分かったよね?」

「そうですね。」


 さて、とフレアが話題を変えようとしました。どうやら、ここまでは確認でここからが本論になるみたいです。。 


「ルナが聞きたいことは魔法の仕組みについてだよね?」


 どうやら、フレアは私が聞きたかったことを理解していたようです。


「はい!そうですよ!それが一番聞きたいことです!」


 私は、つい、ずっと知りたかったことへの手がかりを得られたことで、嬉しさのあまり、舞い上がってしまいました。



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