声劇台本集

芳川見浪

甘味鴛鴦夫婦

舞台背景:1850年(嘉永かえい3年)の日本、長崎にある出島に近い村

 

登場人物: 男性、貿易商、出島に来るオランダ船と商取引を行っている。

  女性、男性の妻、良妻賢母(りょうさいけんぼ)を絵に書いたような人物。甘味が好き

 

 場面は男性が仕事を終えて家に帰ってきたところから


男性「『女性役の名前』! 『女性役の名前』!」(息を切らせながら、直前に走っていたため)

 

女性「あら『男性役の名前』、どうしたのさそんなに息を切らせて。あーあー雪が降っているのに蓑(みの)もつけないで、冷えたでしょう? 湯を沸かします」

 

男性「おお、それは助かる外は寒くてぶえっっっくしょい!!」(鼻をすすると尚良(なおよし))

 

女性「もー次からはちゃんと蓑笠(みのかさ)をつけてくださいね、さあ、こちらへ」

 

男性「すまない…………いや待ってくれ、そんな事よりこれをみてくれ」

 

女性「なんですか? この包みは?」


男性「これは今日取引をした紅毛人こうもうじんの商人から貰ったものでな、『しょくらとお』(たどたどしく言うと良し)という名の菓子らしい」

 

女性「まあ餡子(あんこ)みたいな真っ黒いお菓子ですこと、美味しいんですの?」

 

男性「これが中々でな、てぇへんな甘さだからおめぇに食わせてやろうと急いで帰ってきたんだ」

 

女性「まあ、甘味(かんみ)は好きですけど、それであんたが風邪を引いたらいたたまれないわ」

 

男性「いつも世話になってるからなこれくらいは当然でさあ」

 

女性「おあいこですよ」

 

男性「それに海向こうでは親しい人や恋人に『しょくらてお』(たどたどしく)を渡す習慣があるらしい」

 

女性「まあ! それでは遠慮なく一つ頂きますね」

 

 女性がチョコレートを一つ食べる。

 

女性「まあ! これはとても美味(びみ)ですわ! ん〜このような甘いお菓子は始めてですわぁ」

 

男性「そいつは良かったぶえっっっくしょい!!」

 

女性「あ、湯は自分でお願いします。私はしばらく『しょくらてお』(たどたどしく)を堪能しますわ」

 

男性「急につめてぇや」

 

 

 

紅毛人:オランダ人等の西欧人せいおうじんのこと。当時はこのようなスラングで呼んでいた。

しょくらてお:チョコレートのこと

 

 

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