第3話 神様どうかチャンスを下さい
正直言って、時間が経てば和也は私を受け入れてくれると思っていた。
でも、甘かった。
心の伴わない形だけの恋人を和也は演じ続けているから、いつまで経っても付き合いが進展しないのだ。
なぜそう思うのかというと、和也がわざと私の好みを外してプレゼントを選ぶのが分かったから……。
子供っぽいけれど、私は赤い色の小物が好き。ベルトやバッグに赤い差し色を持ってきて、遊び心のあるコーディネートを楽しんでいる。
知り合って六年も経てば、和也も私のコーディネートの趣旨を心得ていて、今日のアクセントは何? と聞くことがある。それに対して私は、リボンの柄と靴のクリップがコラボしているのと言いながら和也の前でターンしたことも。
だから、和也には私の好みが十分分かっているはずなのだ。それなのに、私の望みは叶えられない。
デートの誘いだっていつも約束を取り付けるのは私の方。
和也はどことなく私に踏み込むのを恐れているんじゃないかと思うことがある。
なぜなら、私が和也に好きだと告げても、和也からは一度も愛の言葉が返ってきたためしが無いからだ。
ひょっとして、私が何度もしつこく付き合ってと頼んだから、和也はこれ以上無理強いはしないでくれと態度で示しているのだろうか?
和也からもらったプレゼントを見るたびに、報われない気持ちになり、虚しさを感じるようになった。
今日は私の24歳の誕生日。相変わらず和也は、将来に関してほんの少しも匂わせない。
一方的に思い続けるのは、もう……。
「瑞希、婦人靴って何階だっけ? 赤い靴が欲しいなんて、瑞希はいくつになっても少女趣味だな」
嫌味かなとずきりとしたけれど、振り返って屈託のない笑顔を見せる和也に目を奪われる。
やっぱり別れを切り出すのをやめようか……
いつもみたいに優柔不断になりかけたけれど、もう、もう、私の心がもたない。軋んで悲鳴をあげている。
でも、もし……和也が今日こそ私の好みを優先してくれるのなら、いつもみたいに違う色をしれっと渡すのではなく、赤い靴を選んでくれるなら、考えてみてもいいかもしれない。
「どうして靴なんか欲しいって言ったんだ? もっと値の張るものだって良かったんだぞ?」
和也がエスカレーターを降りて、その先のレディースファッションのフロアに足を踏み出す。
「靴はね、自立を表すんですって」
和也がふと立ち止まって訝る様に私を見つめると、またあの自嘲めいた笑みを口元に浮かべた。
「どこから? というより、誰からの自立?」
和也の口元が動いたのは分かったけれど、呟いた言葉はエスカレーターを降りる際に繰り返される「足元にお気を付けください」というアナウンスにかき消された。
「何? 何か言った?」
じっと私を見つめた和也が首を振り、婦人靴のコーナーに向かって歩き出す。
私はわざと少し遅れて店に入り、和也が私に似合う靴を選んでくれるのを期待して待った。
どうか神様、私に和也を思い続けるチャンスをください。
一度だけでいい。和也が私のことを大事にしてくれている証を見せてください。
そうしたら、私はずっとついていくのに……。
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