No.003 艦影

 艦内に張り巡らされた伝声管から、副艦長ホーキンスの声で『総員戦闘配置、総員戦闘配置。 訓練ではない、繰り返すこれは訓練ではない!』という声が艦内に響く数分前。レーダーを見ていた副艦長ホーキンス・サブマールは点が映ったのを見て首を傾げながら聴音機を手に取り耳に当てた。


短信音たんしんおん、1回。それと、音紋おんもん解析開始っと」


 短信音たんしんおんが放つ〈ピン・・・!〉という特徴的な音と共に、聴音機に推進音が聞こえて来た。


 そして、音紋おんもん解析機の画面を見るとどこかの国が異世界の艦隊を召喚したと噂程度にあった艦影が出てきた。


 すぐに近くにある伝声管に「リラム?ちょっと、今いい?聞きたいことがあるの」と、声をかけた。

 3秒後、モンキーラッタルを駆け上がって発令所に来た兄のリラムに、レーダーと音紋おんもん解析機に映る艦影を見せて「敵って事で、間違い無いよね?」と聞いた。


 リラムは腕を組みながら「ああ。 しかも、軽巡洋艦ライト・クルーザークラスか・・・。最悪だ」と呟きすぐに「戦闘配置を発令、急速潜行用意!」と指示を出した。


 そして、今に至る。


__________


 艦内の電気が常灯から戦闘灯に機関室から順番に変わる中、発令所に急ぎやってきたみんなに事を話した。


 そして、艦長のリラム・サブマールが航海長のマーセル・リビアと水雷長のエザリカ・フォラーセルに「急速潜行! 魚雷戦、用意!」と発令した。


「了解、ベント弁解放! 急速潜行、用意ヨシ!」


「ガッテン。 魚雷戦準備! 艦首発射管、1番と5番に通常魔道魚雷通常魚雷。 装填開始!」


 その間にもレーダーに映る点がこちらに向かってくるが、なぜか着弾音や被弾音がしない。


「・・・ッ、雷数ヒト?いや、フタ! 敵艦、魚雷発射!」


 その時、聴音機をつけた狭域測音長ソナーのイラ・ハーゼル(姉)が声を上げた。


「Shit!(クソッ!)囮魚雷デコイ、艦尾装填! 緊急発射スナップ・ショット!」


 すぐさま、デコイが発射されたが浸水1区画というダメージを負った。


「ッ! 間に合わない!」


「Prepare for shock!(衝撃に備えろ!)」


 捕まり棒に手を伸ばした瞬間、激しい揺れが艦内を襲った。


 そして数秒間揺れた後、「被害状況、報告しろ」というと青ざめた顔色と声で通信長のラル・メランダが報告して来た。


「ッ、艦長」

「ん?どうした?」


「艦尾発射管室が・・・」


艦尾発射管室そこがどうした?」


「艦尾発射管室が、浸水により機能停止しました・・・」


「なに・・・?」


__________


 聴音機をつけた広域測音長レーダーのイヴ・ハーゼル(妹)が声を上げた。


「レーダー上に、新たな識別! これは・・・、なんて読むんです?」


「ん? モニターに出してくれるか?」

「は、はい! えーっと、あ。これです!」


 映し出されたモニターには4文字のアルファベットが表示されていた。


IOWAアイオワ、だって!?」


 アメリカ海軍所属戦艦のアイオワ(BB-61)を簡単に説明すると、アイオワ級戦艦のネームシップで同型艦は4隻存在する。


 全長は270,427メートルで、全幅ぜんぷくが32,971メートル。


 主砲塔にMARK.7 16インチ約41センチ50口径3連装砲塔を3基9門搭載し、副砲にはMARK.12 5インチ約センチ38口径連装砲塔を10基20門搭載している高速戦艦だ。


 最大速力は、(年代によって異なるが)最初期1943年就役時は33ノットで第二次改装後または退役間近1968年〜1990年時は35,2ノットだった。


 そんな傑作戦艦が、なぜここ異世界に?

 いや、考えている場合ではない。軽巡洋艦に見つかって更に攻撃して来たということは、こちらを敵として見ているということだ。


 艦長のリラム・サブマールは腕を静かに組み解いて、水雷長のエザリカ・フォラーセルに「エザリカ。 艦首発射管に装填している通常魚雷は、何本だ?」と聞いた。


「えっと・・・、2本です」


 これを聞いて、「とりあえず、今は。航海長マーセル、アイオワに対して直角コースを取れ! エザリカ。1番発射管、準備Ready」と焦ることなく発令した。


「ッ、了解! 面舵一杯!」


「1番発射管、準備完了Ready to set!」


「・・・発射始めShoot!」


 1本目の魚雷が飛び出し海中を目標戦艦アイオワに向かって直進する中、2本目の目標を接近してくる軽巡洋艦に向かうように艦首を調整した。

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