隠キャぼっちマン友達なしの俺が転生して女子高生と一つ屋根の下!?

@humster_ster

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転生モノって、最近流行ってるだろ?色々都合のいい設定てんこ盛りで無双とかしちゃうやつ。そんな転生モノの主人公にどうやらなってしまったらしい。何に転生したのかって?


――――――リンゴだ。


みなさんご存知丸い真っ赤でジューシーなりんごだ。そのまま食べてももちろん美味しいし、アップルパイなんかにしても良い。風邪のとき、お母さんにすりおろして食べさせてもらった、なんて人もいるのではないだろうか。

……ダメだ。俺が知りうる限りのりんご知識を思い出しても何にもならない。

動けない、声が出ない、手も足もない。何故か周りの様子を見ることが出来る。車が走る音が聞こえる。視覚と聴覚はあるようだ。どうしてだろう。

まあそれは、ご都合主義ってやつなのかな。

俺がりんごであるという現実は認めざるを得ないようだ。認めよう。俺はリンゴだ。リンゴであるということは果物、つまり食べ物だ。そう、俺は食べられるために存在しているのだ。転生して10分そこらで命を落とすかもしれないのだ。

嫌だ。折角の転生なのだからあんなことやこんなことがしたい!!しかし、この姿では何も出来そうにない。ただただ思考を巡らせるだけだ。食われるのか。食われるしかないのか。

切られるときとかはその……痛くないだろうか。もしすり下ろされることにでもなったら……恐ろしい。考えるのはやめよう。

周りを見渡すと俺は机の上にいるらしい。キッチンではないようだ。ベッドに机、本棚。誰かの部屋と言ったところか。

丸かじりにするつもりでもない限り切ってから食べるものではないだろうか。丸かじり説も捨てきれないけれども、とりあえずすぐに食べられることはなさそうだと思う。思いたい。

 ……しかしまあ、リンゴとして生涯を終えるのも悪くないかもしれない。人間に戻ったところでどうせ友達もいないぼっちマンだ。


部屋のドアが開き、1人の女の子が入ってきた。若い。高校生ぐらいだろうか。服装が全体的に黒っぽいし、猫背気味である。顔はそこそこだしスタイルも悪くないのにもったいない気がする。


「掃除、よし。おやつ、よし。飲み物、よし。クッション、よし。りんご、よし。よし。」


指差し確認して部屋を出た。

俺をここに置いたのはあいつで間違いなさそうだ。しかしなんだってこんなところに置いたんだ。食べるならちゃんと洗って切って食べた方が食べやすいと思うのだが、やはり丸かじりするのだろうか。それとも握力で潰す練習をするのか。食べ物で遊んではいけない。

掃除、おやつ、飲み物、クッション、そしてリンゴ。

俺以外の確認事項から考えると友達が遊びに来るようだ。

暗そうな感じなのに友達いるんだな、あいつ。

どうしてリンゴを用意したのだろうか。その友達はリンゴが好きなのだろうか。でもそれなら切ってお皿に乗せて出すだろう。丸かじりが趣味なのか……?でもそれならそれで人数分用意すると思う。力自慢のために潰されるのか。

いやまて。これから来るのは友達ではなく彼氏で、その彼氏がぎゅーバキッブッシャアきゃーすごーい!と言われるためのかませ犬になるのか。

やだな。すっげーやだ。普通に食え。食われる覚悟はまだ出来てないけど、潰される覚悟はもっと出来ないと思う。というか男の手に握られるのが嫌だ。


「お邪魔しまーす」

「あ、荷物好きなとこ置いていい……よ」

「うん。あとこれ、お土産。ご家族に」

「別にそんな……いいのに……今いないし……」

「いないからこそちゃんとした方がいいと思って。また来た時に会うかもしれないし」

「じゃあ、帰ってきたら渡しとく、ね」

「うん、お願い」


ひとまず来たのが男じゃなくてよかった。年は猫背の奴と同じくらいだろうか。黒地に白で『無 敵』と書かれたTシャツを着ている。無敵なのか。無敵なのかお前は。下はベージュのチノパンを履いている。

なんだろう、男子小学生って感じがする。わんぱくだなあ。俺の中で無敵ちゃんになった。

家族へのお土産も持ってくるあたり好感度高い。この子に潰されるのならいいかもしれない。

体がふわりと浮いた。無敵ちゃんの手の平の上に乗せられ顔を動かして俺を見ている。


「うん、いい感じ」

「そ、そう?スーパーで適当に買ったんだけど……」

「いいの選んだね」


どうやら俺はいいリンゴらしい。鼻が高いぜ。ないけど。


「リンゴなんてどれも一緒じゃない……?」

「ううん。全部違うよ。私も買ってきたから比べてみよう」


無敵ちゃんが持ってきたカバンから紙袋を取り出す。その紙袋の中からりんごが出てきた。無敵ちゃんが取り出したのは1つだったが、まだいくつか紙袋の中にはありそうだった。食いしん坊か?


「莉乃さん、あの、私にはどっちも同じリンゴに見えるけど……」

「そんなことないよ。デッサンはとにかくよく見ることか大事。ほらほら、よーくよーく比べてみて」


猫背ちゃんは俺ともうひとつのリンゴを手のひらに乗せ上から下から横からじっくり観察している。そんなに見られるとこそばゆい。

といつか無敵ちゃん莉乃って名前だったんだ。俺の中では完全に無敵ちゃんだけど。


「ん〜あ、こっちのりんご少し傷がある。私は気にせず食べるけど。……あ、こっちのりんごの方がおしりが立体的だ!」

「お、気づいた?デッサンはそういう微妙な違いとか形をしっかり捉えるための訓練だから。リンゴは基礎がたくさん詰まってるから初心者にはうってつけだよ」

「へー。でも本当にこれで絵が上手くなるの?リンゴを描くのが上手くなるだけじゃ……」

「これは基礎訓練だから、何を描くにも役に立つよ。何事も基礎が大事だからね。」

「基礎、か。うん!わかった!き、気合い入れてやるね!」


俺は心の中でガッツポーズをした。食われるのは当分先だ!俺のようなリンゴを買ったのは絵の練習の題材にするためであって食べるためではない!一命を取り留めたぜ!

しかしまだ安心は出来ない。飽きて食べようよーってなるかもしれないし、傷む前に食べちゃおうかーってなるかもしれん。いや、腐っていく過程も描くかもしれない。その場合俺は食われることなく老衰で一生を終えることができる!包丁で切られる痛みも歯で噛み締められる痛みも知らずに死ねるかもしれない!

いやしかし腐っていくところを観察され絵として記録されるのか。腐って匂いも酷くなりハエがたかるようになったら生ゴミとして捨てられるのだろう。

そう考えると食べられる方が幸せなのではないか?死に方なんか選べないのに考えてしまう。人間の悪い癖だ。

無敵ちゃんによるデッサン講座がはじまった。俺は興味がなかった。最初はぼーっと聞いていたがところどころ記憶がない。寝てる状態なのだろうか。リンゴ

も寝られるとわかったので寝ることにした。


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