第48話

なぜか皆が一斉に俺を見てから沈黙が続いた


さっきまで興奮していたはずの剛も落ち着いている


「確かにそうだ、俺は山本が好きだ。こっちにくる前からな!だが好きな女を守りたいと思うのは駄目な事なのか?俺はそうは思わない!!だって好きな女が近くにいると燃えるだろ?男ってのはそういう物じゃないのか!?」


はぁ…

いつもそうだ、地球にいた頃からそう

俺たちが喧嘩した時はいつも剛が勝手に熱くなって勝手に落ち着く

こうなってしまった剛は俺がどれだけ正論を重ねても折れないのを知っている

仕方ない…


「分かった!譲歩はしてやる!山本には鑑定魔法を覚える期間は与えないし、待たない。俺の2周目の事も教えない。もしお前らか山本を選ぶ状況になったら俺は迷わず山本を切り捨てる。自分で守るって言ったんだ、それくらいいいよな?最低でもこれだけは守ってもらう」


ふぅ…

と一息つく


「ここまでしても俺は山本がチームに入るのは賛成出来ない…だから」


これはいつもの事

俺達がぶつかった時の決まり

結果なんて殆ど分かっているけど…


「「多数決で決めよう」」


俺と剛の声が重なる


多数決…

その場にいる物が賛成の方に手を上げ人数が多い方の勝ち

同数となった場合は再度、話し合いをした後もう一度決を採る


とはいうが俺達は4人のはずなのに再度話し合いとなった事は今まで1度もない

理由は簡単、俺達のグループはまるで正義のヒーローのような、困っている人を放っておけない奴らが集まっている

その中で唯一俺だけが異質な存在だから


本当は多数決すらやる必要はない

今回だって結果は決まっている

それでもわざわざこんな形を取ってくれているのは、頑固で融通が効かない俺に多数決だから仕方ないと思わせてくれる3人の優しさ


今日はいつもと違って1対4か…


「じゃあ決を採るぞ。山本がチームに加入するのに賛成の人…」


剛、傑、裕二と順番に手を挙げていく

そしてあいつも…


…?

いや、なんでだよ


「じゃ、じゃあ3対2で山本はチームに参加する。って事で!」


結局手を挙げたのは3人だけ

誰かさんが手を挙げなかったせいで剛もなんか変な感じになってたじゃないか…


その後は取り敢えず解散となった

でも真意を聞く為、そいつの腕を掴む


「一体なんのつもりだ?同情か?訳分かんねぇ」


「ん〜なんでだろうね?」


初島はわざとらしく首を傾げて見せた


「あの多数決はただの確認作業だ。わざわざ悪者になる必要はなかったろ」


「私そんなの知らないし、正しいと思った方に手を挙げただけだよ」


こいつ…さっきまであわあわしてたから話聞いてなかったのか?


「だからあれはそういう多数決じゃ…」


「じゃあなんで和泉くんは手を挙げたの?」


初島の瞳が真っ直ぐと見つめてくる

その目は決して話を聞いていなかった奴の目ではなかった


「俺は…」


と、言葉に詰まってしまう

ただ俺は自分を曲げられない幼稚な性格だから…


「優しいんだね」


「んなっ!?はぁ?」


初島の突拍子もない言葉に変な声が出てしまう


「俺が優しかったら世の中人間は大体皆優しいって事になるだろが!!」


「そんな事ないよ。いっつも1人で全てを抱えて、みんなの為に尽くして…それでも自分が頑張ったとは言わない。皆が頑張ったって言うんだ」


やめろ…何を知ったふうに


「山本さんの事だってそうだよ。なんで君が言わないといけないの?皆だって本当は分かってたでしょ?」


やめろ…俺はそんなつもりで…


「わざと悪者ぶってる」


「ちが…う…」


やっと口から出た否定の言葉は酷く弱々しいものだった


「最後に譲歩するのは最初から分かってたくせに、皆に問題を突きつける為に厳しく言った。最初から譲歩して提案したってよかったのに」


「やめろ…」


心を見透かされてるような感覚になる


「君は誰よりも優しいんだ」


やめろ…やめてくれ…

俺はそんな良い奴じゃない


俺は、あいつらよりも何倍も劣ってる

だから完璧にしなきゃいけない

使える物は全て使わないといけない

あいつらが出来ないことをやらないといけない

…それが例え悪者になる事であっても!!


何も無い俺も親友だと言ってくれる

あいつらの為なら…あいつらの幸せの為なら…

俺があいつらの傍にいる為に何重にも重ねて鎧を着て、今の俺を作ったんだ!!

それを…剥がさないでくれ

そんな言葉で理解なんてしないでくれ…


今の俺は一体どんな顔をしているんだろう?

きっと酷く醜い顔だろう?

そんな顔を君には…


「私ね、こっちに来る前から和泉くんの事好きだったの」


何かを言っている気がするけどよく聞こえない

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