第13話

翌日、またもや俺の部屋のドアを叩く音がする

なんで連日…

祐二が今日も来た?

いや、流石にそれはないだろう

じゃあ誰だ?傑?剛?

裕二が口を滑らせた?


はぁ…

なんにせよ憂鬱だな


しばらく待ってみたがドアを叩く音は止まらない

どころかどんどん激しくなっていく

渋々ドアを開けるとそこには…


思わずサッとドアを閉じた

今、誰かいた気がするけど気の所為だろう


俺は修行に戻った


ドアがさっきより激しく叩かれる

あぁ、うるさいな…

誰もいないはずなのに…


さっきよりも長く放置していたのだが一向に諦めない

というかいい加減ドアを破壊してでも入ってきそうな圧を感じる…


「うるさい」


入れるつもりはない

一言だけ言ってドアを閉めようとした

…が


「うわぁ…」


「「うわぁ…」じゃなくて痛いんだけど」


彼女は強引に足を隙間にねじ込んできた

こいつ開けるの待ってただろ…なんて執念


「痛いなら足どけなよ」


「君ってほんと見かけによらないのね」


「そんな褒めんなって」


「ここで私が叫んだらどうなるかしら?それにこの場所知られたくないんでしょ?」


「お前もいい性格してるわ」


なんと言おうと折れる気はないらしい…


「はぁ…降参、降参」


渋々ドアを開ける

今度はちゃんと迎え入れる

来客は初島だった


「2日ぶりね」


「ここは誰に聞いた」


一応聞いてはみたがここを知ってるのは1人しかいない


「1人しかいないでしょ?」


ですよね…

祐二、何やってんだよ

初島の事好きなんじゃねぇのかよ?

それに俺、ここの事内緒って言わなかったっけ?


「ふふ、君のそんな顔初めて見るわ」


ふわりと花が咲くような笑顔を見せる

ドキッとしたのを隠す為、なるべく素っ気ない対応をとる


「そすか」


落ち着く為には剣を振ろう

1…2…3…


「客が来たのにお茶もでないの?」


生憎お茶を切らしててな?


「うるさい黙れ、図々しいな!」


「本音と建前が逆になってないかしら??」


流石の初島でもこの態度にはお怒りらしい

お怒りついでに帰ってくれないだろうか…


「これは失礼」


「なんでそんな冷たいのよ…わざわざ会いにきてあげたのに」


何故こうも男を勘違いさせるような事を言うのだろうか?

お前が好きなのは裕二だろ?

男性経験が浅いお嬢様に灸を据えてやろう


「なに?誘ってんの?」


「え」


「男の部屋に1人で来て、そんな事言うって事はそういう事だろ?」


剣を置き

初島の方へ近付く

初島はハッとしたような照れたような、顔を真っ赤にしながら後退る


ほらな?嫌なら来るなよ…


初島は声もあげず、赤い顔のままギュッと目を瞑っていた


なんだこの可愛い生き物は…

俺の男心を弄んだ罰としてからかってやろう


チュッと効果音を出しながら頬に指で触れる


「え…?え…?あぇ?」


もともと赤かった顔が茹でダコみたいにさらに赤くなった


「そんな耐性ねぇなら男の部屋に1人で来んなや、好きでもねぇ奴に手は出さねぇよタコ」


そのまま初島を叩き出してドアを閉め修行に戻る

本当にアイツは何がしたかったんだろうか?



――時は少し戻る



剛達のダンジョン初挑戦の日

教官から指示が出る


「お前達は今日からダンジョンに挑戦する。といっても初級ダンジョンにはほとんど危険はないだろう。しかしっ!!不測の事態が起きてから対処するのでは手遅れだ!対処しやすい様4人以上でチームを組め!理想は魔法士1人にタンク1人アタッカー2人が望ましい!それではさっそくチームを組め」


指示が出てすぐ生徒達が動き出す

1周目では祐二が魔法士、剛がタンク、和泉と傑がアタッカーという役割にだった

だが状況に合わせて和泉と傑もタンクの役割を担っていた

その指示をしていたのが和泉だった


和泉の代わりにチームに入ったのは矢島やじま浩之ひろゆきという男子

金髪で目つきが悪く所謂ヤンキーという分類の人間


本人の希望でポジションはアタッカーとなった

武器は大剣のよくいるパワータイプ


ダンジョン内に入るとすぐにへドリアンと遭遇する


ここは普通、魔法で攻撃する場面

祐二が前に出る


「俺に任せ…」

「シャハハハハ」


それよりも早く矢島は駆け出しへドリアンに斬り掛かる

鋭い一撃ではあったが物理耐性の高いへドリアンには軽くダメージを与えただけだった


「ちっ、駄目か!おい!!」


まるで当然と言わんばかりに祐二に攻撃しろと指図する



「んだよ!!火よ、我が魔力を以て、燃え上がれ、ファイア!!」


へドリアンは跡形もなく燃え尽きる


1周目ならここで祐二のレベルが上がっていたのだが、この世界は累積ダメージによる経験値分配が行われる為、矢島にも経験値が流れ祐二のレベルが上がらなかった


矢島はそれ以降へドリアンに対しては手を出さなくなったがゴリアナが現れた時は連携もクソもなく斬り掛かり

相手の攻撃はタンクである剛に全て受けさせる

余りにも自分勝手な戦い方をしていた


結局初日は祐二がレベル4、剛と傑がレベル2、矢島がレベル7になった


和泉がいない事による弊害がこんな形で現れるとは、和泉も剛達も誰も想像出来なかっただろう


結果的だけ見るとレベルが上がらないのは良かったのだが、そんな事は関係ない3人のストレスはどんどん溜まっていった


自分勝手なレベリングによりどんどんレベルをあげる矢島

勿論能力も比例して上がり、ますます好き勝手するようになっていった

剛達も文句を言えればいいのだが、ダンジョン攻略自体は順調だしレベルが上がらないわけではないので困っていた

1週間もした頃には祐二がレベル10、剛と傑がレベル8、矢島がレベル21と倍以上差がついていた


1週間の間、剛が指示出ししたり

連携を取ったりと色々やったが全て無視

流石に我慢の限界がきた剛達は矢島に追放を告げる


これだけの奴が1周目では存在感がなかったのは何故か?というと

1周目では矢島とパーティを組む人がおらず、痺れを切らした矢島が単独でダンジョンに挑み

あっけなく死んだのだ


和泉は間接的にだが矢島の命を救った

のだがそのせいでストレスが溜まっていた祐二に殴られてしまったのは不憫過ぎるだろう

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