89 私のこと③
最初からダメって知っていたけど、やっぱりダメだったんだ……。
私なんかより、もっと可愛くてみんなにモテる人が好きになるよね……。悔しかったけど、それが現実だったから。私は幸せそうに見える二人を遠いところで見つめるしかなかった。
失恋ってこんなこと……? 心がすごく痛い。
宮下くんは初めて……私に声をかけてくれた人。でも、今はその姿がだんだん遠ざかる。そして私はクラスの女子たちがたまに話していたことを思い出す。それは確かに男女の話だった。いくら仲がいい友達だったとしても、彼女ができると距離感を感じてしまうって……。他人の彼氏になったから、他の女子と距離を置くのは当然なことだけど……、チャンスがなくなったのがすごく悲しかった。
「…………」
友達にもなれない。宮下くんには彼女ができちゃったから……。
なんのために生きてきたのかな……、私は。
目的がなくなって、私はまた前のように暗くなってしまう。そしてその頃……、私には予測できなかったことが起こってしまった。それはある男の人に告られたこと、最初は「えっ」とびっくりして信じられなかったけど……。あの人はだんだん変わっていく私のことをずっと見ていたって、いつか告白ができるように……心の準備をしていたって……。中学校に来て、私に告白をしてくれた人は初めてだった。
「付き合ってください……。ずっと、好きでした……。今更、こんなことを言うのが変に聞こえるかもしれないけど……。胡桃沢さんのことが好き」
「どうして、私に……? 他に可愛い女の子、たくさんいるのに」
「それは一年生の時からずっと……ずっと見てきたから。そして、二年生になって胡桃沢さんと同じクラスになったから……チャンスは今しかないと思って」
「うん。でも、私あんまり可愛くないから。今のことは……」
これは私にもチャンスだったかもしれない。
誰も声をかけてくれなかった暗かった過去を乗り越えるチャンス……。
「えっ! そんなことない。可愛いから……!」
「そう……? 私、可愛いかな……? よく分からないけど、誰にもそんなこと言われたことないから……」
でも、君じゃダメだった。
私が欲しかったのは今学校のどっかであの先輩と一緒にいる宮下くんだったから。
「うん! 可愛いよ」
「…………ありがと。でも、私には好きな人がいるから……。ごめんね」
「…………」
そしてあの人に「可愛い」って言われたのが、私が宮下くんを諦めなかった理由になる。もっともっと……、可愛くなったら。宮下くんを振り向かせるのができると私はそう思っていた。友達じゃなくて、宮下くんの恋人になりたい。そこに大した理由はなかった……。一度、他の女に取られちゃった物を取り戻したかっただけ。
宮下くんは、私の初恋だったから———。
小学生だった頃、私はお父さんに「恋」ってなんなの?って聞いたことがある。
そしてお父さんは「恋はね。好きな人を思い出すだけで心がドキドキして、何もできなくなるのを恋と言う。雪乃ちゃんはまだ子供だからよく分からないよね?」と。
あの時は分からないってお父さんに話したけど、今はその話の意味が分かりそう。好きな人、私は宮下くんのことを思い出すたびにドキドキして……、寝られなかった。私の物にしたい、そして……宮下くんを独占したい感情を感じる。
それは恋だった。
虚しい私の心を満たしてくれる人、それは宮下くんじゃなきゃダメ。ダメだった。
だから……、私は宮下くんのことを諦めなかった。
それがいけないことって知っていても、私はこっそり二人を覗いてしまう。そこにいるのが私だったら……とそんなくだらないことを考えながら、ずっと宮下くんを尾行をした。塾に行く時も、家に帰る時も……。そう、私は宮下くんのことならなんでも知りたくなった。
ストーカーみたいに———。
そして、ある日……私は体育倉庫に向かう二人に気づく。
「あれ……、今日……体育の授業はないはず…………」
いつものように私は二人のことが気になって……、体育倉庫の中をこっそり覗いてしまった。
「ねえ……、今日はどうしてあの子と仲良く話したの? 言ったよね? 私以外の女の子と仲良くするのはダメって……」
「す、すみません……」
頬を叩く音がした。
「…………」
「彼女の言うことを聞かない彼氏はクズだから、朝陽くんも知ってるよね? 自分がクズってことを」
「は、はい……」
もしかして、いじめの現場……?
でも、二人は付き合ってるはずなのに、どうして……?
よく分からなかったけど、二人から目を離すのができなかった。もし、本当にいじめだったら私が宮下くんを助けてあげないと……。なのに……、どうして……? 私はどうして…………。
「お仕置きをしなきゃ……」
「つ、次はちゃんと注意します。だから……、今回だけ……」
「脱いで」
「…………」
先輩の前で制服を脱ぐ宮下くん。
私は体育倉庫の裏側にある隙間で、静かに……それを見つめていた。
「背中」
「そ、それはダメです……! い、痛いから……」
「痛いのはほんの一瞬、終わったら一緒に気持ちいいことをしようね?」
気持ちいいことって……、もしかして。
そう言ってから、あの先輩は持っていたカッターナイフで宮下くんの背中に何かを刻む。
「うっ!!」
そして、その場でキスをした……。
その後は私が知っているあれだった。
「…………」
ぼとぼと……。
いけない、これはいじめなのに……。どうして……、どうして、どうして、どうして、どうして……。私はこんなにドキドキしてるのかな? これは「恋」だよね? お父さんが言ってくれたドキドキする感情、これは恋だよ。間違いない、私は恋をしている。宮下くんに恋をしている……! だから、宮下くんが欲しい……。
止まらなかった……。
目の前にいる宮下くんが欲しくて、欲しくてたまらない。あの二人を見て、私は彼女に抗えない彼氏は最高だと思っていた。もし……。宮下くんが私の物になったら、あの日のお父さんみたいに、勝手に消えたりしないよね? だよね? だって、宮下くんは彼女に従う人だから……言うことを聞いてくれる人だから。その姿を見て、私は……いつの間にか興奮いていた。
ぼとぼと……。
「うっ……。私も恥ずかしいことをしている……。宮下くん……」
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