50 そして日曜日④
そういえば……、俺……胡桃沢さんの部屋に入るのは初めてだよな?
なんか俺が想像してたことと違って、少女漫画に出そうなそんな部屋だった。ベッドにはペンギンさんといろんなぬいぐるみが置いていて、薄桃色の布団や枕……、そして可愛い飾りが壁に飾られていた。可愛い人の可愛い部屋か……、やはり天使様。
ベッドに胡桃沢さんを下ろして、その頭を撫でてあげた。
「ごめんね。せっかく来たのに、お母さん仕事ばっかりで……」
「ううん……。大丈夫」
「何しようかな? 二人っきりだし……」
「雪乃は……やりたいことないの?」
「やりたいこと……、私は! このまま昼寝したい!」
「ひ、昼寝……? せっかく雪乃の家に来たのに、うちにいる時と同じことをするのは惜しくない?」
「でも……、私は朝陽くんとくっつくだけで十分楽しいから。そばでその温もりを感じたい……」
「へえ……」
うちにいる時はほとんど映画やドラマを見る。
一応俺のそばにいると安心するって言ったけど、まさか自分の部屋でもそんなことをするとはな……。思い返せば、二人っきりの時はよく寝てたような気がする。それは気のせいじゃなさそう……。映画やドラマを見る時はうとうとしながら俺にくっつくからな。ちゃんと見る時もあるけど……、気づけばいつの間にか寝ている胡桃沢さんがいた。
俺に抱きついたままテレビを見るのが好きなのか、あるいはくっついたまま寝るのが好きなのかはよく分からない。確かなことは二人っきりになると俺から離れようとしないこと。それにこれは不思議だと思うけど……、テレビを消すとすぐ復活する胡桃沢さんだった。先まで寝てたはずなのに、静かになるとすぐ目が覚める。
それはよく理解できなかった。
「はあ……」
あくびをする胡桃沢さん。
「寝不足?」
「うん……。朝陽くんのそばで寝るのはまだ慣れてない、ドキドキしすぎて寝られなかったよ……」
「……だから、寝る時は一人で———」
「それは嫌!」
「はい……」
「寝る時も、学校に行く時も、ご飯を食べる時も、全部私と一緒!」
「じゃあ……、一つ聞いていい?」
「うん?」
「たま〜に……、一人の時間が欲しくなるけど……」
「どうして?」
首を傾げる胡桃沢さんに、俺はうっかりしていたことを思い出した。
今まで……俺に一人の時間があったのか? 確かにあったかもしれないけど、ほとんどなかったような気がする。それに胡桃沢さんも俺の話に疑問を抱いてるような顔をしてるし……。
「な、なんでもない」
「どうして一人の時間が欲しいの?」
「たまに……、えっと……。いつも一緒にいると……一人でできることができなくなるから……?」
「私の知らないところで、何をするつもり……? そもそも、一人でできることって何? 一緒じゃダメなの? 私、分からない」
「うん……。そうだよね」
「それ、別れたいって意味じゃないの?」
そ、そうなるのか……? 別にそんなこと考えてないけど……。
だた……、男としてたまにゲームとかそういうのがしたかっただけなのに、この雰囲気はなんだろう。それに先まで笑っていた胡桃沢さんが、今は心配してるような気がした。俺ってやつはこんないい時に、水を差すようなことを言っちゃって……、本当に馬鹿馬鹿しい。
「ち、違う……。俺が雪乃にそんなこと言うわけないだろ……」
「だよね? じゃあ、一人の時間なんていらないもんね?」
「…………うん」
「ねえ、私がそばにいるのに……どうしてそんなこと言うの? ひどい……、私は死ぬ時まで離れたりしないからぁ———!」
いきなり声を上げる胡桃沢さんに、思わずその口を塞いだ。
「うっ!」
「声……大きいよ! 雪乃」
「朝陽くんが嫌なことを言うからじゃん!」
「ごめん……」
「ねえ、朝陽くん。私眠い……」
「はいはい……。こっち来て」
「ううん……」
俺に寄りかかって目を閉じる胡桃沢さん、そのまま昼寝をする二人だった。
それより他人の家に来て……、のんびり昼寝をするのはすごいな。
……
「ううん……」
俺はもしかして胡桃沢さんの抱き枕かな……?
動いてないのに、暑すぎる……。
「…………雪乃……」
小さい声で胡桃沢さんを呼ぶ。
でも、疲れたせいで返事はできず、すやすやと俺のそばで寝ていた。そのまま彼女をベッドに寝かせて背筋を伸ばす。それより、俺一時間半くらい寝てたのか……? 元々、胡桃沢さんを寝かせた後、ゆっくり本でも読むつもりだったのに……。その寝顔があまりにも可愛くて、ついそのそばで寝てしまった。
「…………朝陽くん、ケーキ美味しい?」
「うん?」
なんだ……。寝言だったのか……?
びっくりしたぁ……。
「…………」
ベッドから立ち上がって、もう一度背筋を伸ばす。
まだ時間あるし、彼女が起きる前までゆっくり本を読むことにした
胡桃沢さんも読書好きだったのか、その本棚にはいろんな本がぎっしりと差し込まれていた。いわゆる優等生の本棚って感じ。その中には推理小説とロマンス小説、それにイギリスの超有名なファンタジー小説などがあって、意外といろんなジャンルを読んでいた。
「うん……? これは?」
適当に読むことを探していた時、その隣に見慣れた色の本が差し込まれていた。
「あれ……? 卒アル……?」
俺はその卒アルを見つめていた。
なぜなら、それは〇〇中学校の卒アルだったからだ。
「どうして……、この卒アルが」
「朝陽くん……?」
「えっ……?」
後ろから聞こえる胡桃沢さんの声に……、持っていた卒アルを足の甲に落としてしまった。
「うっ……!」
「あ、朝陽くん! だ、大丈夫……?」
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