45 イタズラ好きな胡桃沢さん②
昼休み。お弁当もいいけど、たまにはパンも食べたくなるよな……。
普段なら胡桃沢さんと一緒にお昼を食べるけど、今日は彼女に許可を得て今晶と売店に向かっている。とはいえ、最近晶とは全然話していなかったからな。ずっと胡桃沢さんのことを優先したから……晶とゲームもできなかったし、お昼を食べるのもできなかった。俺には一人しかいない友達だから……、こうやって一緒にお昼を食べたかった。
でも、今日は意外と静かで不思議だった。
普段ならすぐゲームの話をしたはずなのにな……。
「なあ、朝陽」
「うん?」
「…………胡桃沢さん、可愛いよな?」
「確かに、いきなりそんなことを……?」
あっ、そうだ……。
晶……胡桃沢さんのこと好きだったよな。しまった……。胡桃沢さんに気を取られて、晶のことを全然考えていなかった。
「羨ましいな……」
「いや……、なんか…ごめん」
俺たちが付き合ってるのはみんな知ってるから、今更言い訳はできない。
パンを買いながら、俺はこの静寂をどうしたらいいのか考えていた。と言っても、俺にできるのは何もないよな。友達が好きだった人が今は俺の彼女で、彼女はすでに晶の告白を断った。なのに、この罪悪感はなんだろう……。無表情でジュースを買う晶の横顔を見て、俺は余計な心配をしていた。
「いや……、謝ることないさ。なんか……、やっぱり朝陽だなーと思って」
「えっ? どういうこと?」
「お前は女の子が苦手だけど、割とカッコいいから……。クラスの女子たちがたまにお前の話をしてたぞ?」
「へえ……、そっか? でもさ、俺は晶の顔も悪くないと思うから。そんなこと言うなよ。俺は普通だ」
教室に戻ってきた俺は晶の席でゆっくりパンを食べていた。
「あのさ、二人……休み時間にずっとくっついてたけど、普段からそんなことをしてたのか?」
「え……、どうだろう」
「そういえば最近……ずっと二人で帰ったよな?」
なぜ、そんなことを聞くんだろう?
「あっ、うん。胡桃沢さんと約束したからな……」
「…………」
晶はためらっていた。
多分……ためらっていたと思う、一体何が言いたかったんだろう……? 俺は晶の悪い癖を知っている。それは何かを悩む時に唇を噛むことだった。今の状況で何を悩んでるのかはよく分からないけど、晶のその表情と癖が気になる。ここで俺はどうしたらいいんだ……?
「あのさ……」
すると、先に声をかける晶。
「うん?」
二人がお昼を食べる時、朝陽の後ろには雪乃が座っていた。
静かに、朝陽にバレないように……じっとする。
そして雪乃は自分に気づいた晶を見て、「シーッ」と人差し指を唇に当てた。
「どうした……?」
「ハムッ!」
「うん?」
それはほんの一瞬だった。
後ろから何かが出てきて、そのまま持っていたパンが消えてしまう。
「ゆ、雪乃……?」
「甘い〜」
「お昼は……?」
「友達と食べたよ? 朝陽くんは?」
「盗まれた……」
「ぷっ。あはははっ、盗まれたって……。でも、それは油断した朝陽くんが悪いんだから〜」
「一体……、どこから来たの?」
「先からずっと後ろにいたよ〜?」
ドヤ顔をする胡桃沢さんは笑いながら持っていたチュパチャプを口に入れた。
全く……、子供じゃあるまいし。
そしてしばらく静寂が流れていた。
「あっ、ごめんね。二人で何か話してたの?」
「あっ、普通の話だから気にしなくてもいいよ」
「じゃあ……、私友達のところに戻るからね!」
「うん」
「あっ、そう。朝陽くん、口開けてみて」
「えっ、うっ?」
先まで胡桃沢さんが舐めていたチュパチャプが……今俺の口に入ったけど、これはなんだろう……? いきなり間接キスを……? マジか。
「ふふっ、デザートは甘いのがいいよね? それあげるから捨てちゃダメだよ?」
「…………うん」
「ふふっ」
そう言った胡桃沢さんが俺の頭を撫でてくれた。
なんか、からかわれてるようなこの状況。
ちょっと待って、晶の前で何をしてるんだよぉ……!! 胡桃沢さん……。
「うわぁ……。パンが飴になってしまった」
「…………」
「あっ、そうだ。晶、何か言いたいことでもあるのか? 先からずっと我慢してるように見えたから」
「俺……。いや、やっぱりなんでもない」
「なんだよ〜」
「そうだ。そろそろ文化祭だろ? お前は胡桃沢さんと回るつもりだよな?」
「うん。晶はどうする?」
「まあ、俺は昔から文化祭あんまり好きじゃなかったからな……。裏で寝る」
「なんだ。たまには楽しんでくれよ。文化祭だろ?」
「うん。考えてみる」
普段と違うこの雰囲気、なんだろう……?
気のせいか……? 本当に、気のせい……なのか。
「あっ、そうだ。俺もFF買うけど、どこまでやった? 一緒にやろう!」
「それ……もうやらないから」
「えっ? そう? ボス倒した?」
「うん」
「そうだったんだ……。だよな。最近、ゲーム全然できなかったから……」
「そう」
どんどん冷たくなる晶の声。
よく分からないけど、なぜか距離感を感じる俺だった。
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