2 大雨の中で②
梅雨入り———。
今まで全然気にしていなかった胡桃沢さんを、授業中にちらっと見てしまう。もちろん、俺が気持ち悪いことをしている自覚はあるけど……、今朝のことでまだ夢の中にいるようだった。
「…………朝陽!」
「は、はい!」
「授業に集中しろ……、この部分はテストに出るから」
「はい!」
ぼーっとしていたら田中先生に一言を言われてしまった。
くすくすと笑うクラスメイトたち、そして胡桃沢さんもこっそり笑っていた。なんか恥ずかしくなる……。彼女と友達になっただけで、ちょっと調子に乗ったかもしれない。でも、今までずっと女子とは縁がなかったから……他人にはなんでもないと思われることが俺にはとても特別なことだった。
別に女子が苦手なわけじゃないけど……、あんまり話したことがないのが問題。
声をかける理由もないし、女子たちと何かをするきっかけもなかったから……。
そのまま高校生になって、今の俺になったと思う。どうせ女子たちに声をかけない人だし、それに女子たちも俺に声をかけてくれないから……。俺の女子経験はほぼゼロに近い、悲しいけど……。
授業が終わった後、胡桃沢さんはいつものように数多い人たちに囲まれてしまう。
さすが……有名人。今朝のことがまるで夢だったように、胡桃沢さんは俺に遠い人だった。手を伸ばしても届かないところにいる。でも、これが現実だから……勘違いしてまたミスをしないように……、しっかりするのだ朝陽。
「今日も……眩しいな。胡桃沢さん……」
「だな」
後ろ席にいるこいつは友達の
窓側の席でいつも胡桃沢さんの話をするやつだ。
こいつは入学した頃からずっと彼女のことを「可愛いな」と俺に言ってるけど、さすが俺の友達だからか……二ヶ月が経っても彼女に声をかけるのができなかった。でも、俺は声をかけることに成功したから、ちょっと晶に自慢しようかなと思ってる。
「……はあ、俺も…モテたい!」
「お前はさ。顔は悪くないけど、自信がないからそうなるんだよ。もっと自分のことをアピールしてみろ!」
「そっか……! じゃあ、俺も胡桃沢さんに声を……!」
「それは無理かも」
「どっちだよぉ!」
胡桃沢さんの方を見て話を続ける二人。
すると、ほんの一瞬……胡桃沢さんと目が合ったような気がした。
気のせいかもしれない、いくら彼女と友達になったとしても俺は俺だからな……。特別な人にはなれない。
……
そして放課後、予想通り雨はずっと降っていた。
仕方がなく。図書館で1時間くらい勉強して、雨が止むのを待っていたけど、どうやら今日のうちには止む気がしない。
「雨は……嫌だな」
「そうだよ。私も雨は嫌」
後ろから聞こえるこの聞き慣れた声……。
もしかして胡桃沢さんかと思って振り向いたら、本当に胡桃沢さんだった。
てか、この時間まで学校にいたのか……?
こっちを見て微笑む彼女の顔に、気を取られてしまった。
「今帰るの……?」
「あっ、はい。ちょっと図書館で勉強をしました」
「ふーん。真面目だね」
「ずっと成績順位一位を守っている胡桃沢さんに比べると、俺はまだまだ足りないんです」
「じゃあ、私も頑張って勉強してみる……! 挑戦者が現れたから……!」
ドヤ顔で冗談を言う胡桃沢さん、それを見てちょっと意外だなと思っていた。
人の前ではずっと大人しい姿を見せる彼女が、いきなり笑みを浮かべて冗談を言うからその破壊力が半端ない。そして意識しないって決めたのに……その笑顔にすぐ惹かれてしまう俺も情けないな……。胡桃沢さんとは関わらない方がいいと思うけど、あっちから声をかけるのは仕方がないことだった。
「まだ……、雨降ってるね」
「はい。そういえば、友達に傘借りましたか?」
「あっ……、それだよ! 私がうっかりしてたのはそれ! ああ……、仕方がないね……。でも、駅まで……全力で走ると……」
「ずぶ濡れになります」
「だよね……。宮下くん……」
ちらっとこっちを見る胡桃沢さん。
「はい?」
「そろそろ気づいてほしいけど……!」
唇を尖らせる胡桃沢さんがほっぺを膨らませた。
うっ———、天使さん。
やべぇ———。めっちゃ可愛いな……、どうしたらいいんだ……。
「な、何をですか?」
「女の子が困ってるし、傘もないって言ってるし……」
「あっ……! ご、ごめんなさい。全然気づいてなかったんです」
「もう……宮下くん、鈍感すぎる……!」
「こんな風に女子と話すのは初めてで……、いつも緊張してしまいます……」
「ええ……、私が初めてなの? 宮下くん、女の子とあんまり話さなかったっけ?」
「はい……。だから、俺の方から声をかけたのも今朝が初めてです」
「なんかいいね〜。そういうところ、ちょっと可愛いかも」
「か、からかわないでください。男はすぐ勘違いするから……」
「それはどういう意味? ねえねえ〜。教えてよ〜」
胡桃沢さんって……こんなイメージだったのか?と思いながら、駅まで相合傘をする二人だった。
「…………」
それはなんっていうか……、すごく不思議だった。
うん……、そんな感じだったと思う。
そして、こっそり……肩を朝陽の方にくっつける雪乃。
「ふふふっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます