ヤンデレの胡桃沢さんは独り占めが大好き
棺あいこ
ヤンデレの胡桃沢さんは独り占めが大好き
一、胡桃沢さん
1 大雨の中で
高嶺の花、多分その言葉はこの人のために作られたかもしれない。
彼女の名前は
もちろん、平凡な俺はそんな彼女となんの接点もない。
いや……、ないはずだった。
「もう……、解放して……くれぇ……。全部、俺が悪いから……胡桃沢さん!」
「…………私を泣かせたくせに……、どうして大声を出すの? うん……? 私の心はずっとずっとずっとずっとずっと……。痛かったよ? ねえ、触ってみて……。私の鼓動……どれほど傷ついたのか、朝陽くんは知らないよね……? 私はずっと……好きだったから」
「…………」
「朝陽くんのことを……」
彼女の———歪んだ愛は。
みんなの知らないところでどんどん進んでいる。
……
「朝陽! お前、また遅刻するぞ!」
「いや……、お前がゲームばかりしてるからこうなったんだろ!」
「何言ってんだよ。お前も一緒にやってたくせに、急がないと田中先生に一言言われるぞ」
「オッケー! 切るぞ」
電話を切ってから急いで準備をする俺は、
昨日、友達と新発売のゲームをやりすぎて今遅刻の危機だ。
「うわ……、朝から大雨か?」
こういう時に天気まで悪いから……、うざい。マジでついてない。
てか、今電車に乗れば……ギリギリセーフかな。神様……今日は混んでない電車に乗れるようによろしくお願いします……と俺ができるのは祈るだけ。雨の日は当たり前のように人が多いから、これが一番嫌だよな……。
「はあ……」
ジメジメ……、結局満員電車なのか? 神様って本当にいるのかよ。
ぶつぶつ言いながら改札口を出ると、なぜか同じクラスの胡桃沢さんがそこに立っていた。やっぱりこの人は噂通り美人だな……と思う時、俺は彼女が傘を持っていないことに気づく。今走っても間に合わないはずなのに……、胡桃沢さんはぼーっとして空を眺めていた。
「あの……、胡桃沢さん?」
「うん?」
「ここで何するんですか? 早く行かないと遅刻しますよ?」
「うん。知ってる」
そう言ってから、また空を眺める胡桃沢さん。
「あの! 今行かないと……!」
「傘、電車の中だから……。雨が止むのを待ってるの」
「はあ……? いやいや……、それじゃ完全に遅刻ですよ! あの、俺の貸してあげますから! これ使ってください!」
正直、声をかけたのがすごく嬉しくて自分が何を言っているのか分からなかった。
「私がその傘をもらうと、宮下くんはどうやって学校に行くの……?」
「気にしなくてもいいですよ! どうせ、今日ついてないし」
「じゃあ……、一緒に行こうかな? 私だけ傘をさすのもあれだし……」
あ……、マジでこの人は天使ですか?
俺は天使を見ているのか……?
その優しい言葉に感動してしまうほど、俺は女子と会話をしたことがない。多分、彼女と交わした数分間の会話が俺の人生で一番幸せな瞬間かもしれない。噂の胡桃沢さんが目の前にいるし、それに声もかけたし……。最後は一緒に登校するビックイベントまで……、これはあいつに自慢してもいいよな……?
「どうしたの?」
首を傾げる胡桃沢さんが俺と目を合わせた。
「いいえ……! ちょっと、なんか恥ずかしいなと思って」
「そう考えなくてもいいよ。私こそ、宮下くんがいなかったらこんな風に行くのもできなかったしね?」
「はい……」
「じゃあ、行こうかな?」
学校は駅からそんなに遠くないから、俺たちが相合傘をするのもあっという間だった。それはあっという間に終わっちゃったけど、なんかすごくドキドキしてこの気持ちが収まらない。あの胡桃沢さんと相合傘だなんて……、神様は本当に実在していたのか?
「あの……、宮下くん」
「はい。胡桃沢さん、なんでしょ?」
「えっと……、せっかくだし。私と友達になってくれない……?」
今日の帰り道、注意しないとトラックなんかに轢かれて異世界行くかもしれない。
ぶっちゃけ、胡桃沢さんにこんなことを言われるとは思わなかった。俺があの胡桃沢さんと友達って……、正直みんな美人美人って言ってるからきっと別の世界の人だと思ってたのに……。すごく嬉しい……、え……普通の人間にそんなことを言ってもいいのか……? その一言が嬉しすぎて、声が出て来ない俺だった。
「いいですか? 俺なんかと……。それより胡桃沢さん、モテる人だからきっと友達多いはずだと思いますけど……」
「それは周りの人たちがそう言ってるだけ、私そんなにいないから…友達」
「あっ、すみません。勝手に勘違いして」
「いいよ。私はそんなこと意識してないけど、みんなそう言ってるから……。あっ、生意気なことを言っちゃってごめんね」
「いいえ……。なんか、胡桃沢さんも普通の人間って感じです……」
「なんだよ〜その言い方〜。私は宮下くんと同じ人間だよ?」
「あっ……、ごめんなさい。つい……」
「あははっ。でも、私たち結局遅刻しちゃったよね……」
「ですよね……」
あの日は遅刻して田中先生にめっちゃ怒られたけど、嬉しかったような気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます