第3話 休ダンジョン

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 ダンジョンは活動の状況により三種類に分類されていた。


 かつダンジョン、ダンジョン、きゅうダンジョンの三種類だ。


 一般的にダンジョンと自然の洞窟や遺跡の違いはアイテムとモンスターの復活リポップの有無である。


 自然の洞窟に棲むモンスターを倒したり遺跡のアイテムを手に入れた場合、当然、モンスターもアイテムもそれっきりだが、ダンジョン内でモンスターを倒したり宝箱を開けた場合は時間を置けばどちらも復活して元に戻る。


 復活の理由や方法はわからないがダンジョンとはそういう存在であると理解されていた。


 仮説ではダンジョンを管理している仮称ダンジョンマスターとも呼ぶべき存在がいてダンジョン内の宝箱の点検やモンスターの配置を担っているのではと言われている。


 様々なダンジョンでダンジョンマスターの存在を証明するべく、その痕跡を探す調査が行われたが現在のところダンジョンマスターの発見に至る報告はされていない。


 多くのダンジョンで代わりに発見されたのがダンジョンコアである。


 大抵はダンジョンの最深部の秘められた場所に赤黒い巨大な丸い宝石、もしくは卵のような形状をした脈を打つ謎の物体として発見されている。


 大きさは人頭大から一抱えほどもある物、家ほども巨大な物と様々だ。


 脈打つ様が心臓の鼓動のようにも見受けられるためダンジョンハート、もしくはダンジョンコアという名前で呼ばれている。


 深いダンジョンのダンジョンコアほど大きい傾向があるとの調査結果もまとめられていた。


 試しにダンジョンコアを物理的に破壊してみたところ、そのダンジョンでのモンスターやアイテムの復活はなくなり深い階からダンジョンが徐々に土に埋もれていき最後にはすべて埋まって消滅してしまった、と報告されている。


 その事実からダンジョンコアこそはダンジョンの心臓であり、また逆説的に、心臓を持つダンジョンという存在は、だからこそ一種の生物なのだという、ダンジョン生物説が唱えられた。


 さらにはダンジョンコアこそが探していたダンジョンマスターそのものであり自身の体内のモンスターやアイテムの配置を管理している、というダンジョンコア・マスター説が提唱された。


 現在、魔導士協会で主流となっている説である。


 そもそもダンジョンが、なぜモンスターやアイテムを体内に発生させるかの理由は植物が自身の繁殖に虫を利用するため花や蜜や匂いを発生させて虫を集めるのと同様の行為だと考えられていた。


 経験値や宝になるモンスターやアイテムを釣り餌として、いわゆる探索者と呼ばれる人種に体内を徘徊させる行為がダンジョンの繁殖にとって何らかの手助けとなっているのだろうと推察されている。


 世界に探索者と呼ばれる職業が現れる以前は一般の人々を細々と誘き寄せていたのであろう。


 但し、ダンジョンの詳しい繁殖行動は一切不明だ。仮説の域を出ていない。


 また実際のところダンジョンはどのようにして体内にモンスターやアイテムを発生させているのかも、やはり不明だ。


 推察ではダンジョン自身がモンスターやアイテムをつくりだしているわけではなく何らかの方法により異次元や異世界といった別の空間、もしくはこの世界の別の場所からダンジョンの内部へモンスターやアイテムを転移させているのだと考えられている。


 もし転移させられる側を第三者として端から見ていた場合、おそらくその現象は一般的に神隠しと呼ばれる忽然と人や物が消えてしまう現象と酷似するだろうと言われていた。


 ダンジョン内に存在するテレポーターやシュートといった探索者を迷宮内のどこか別の場所に移動させる類の罠にその力の一端とダンジョンの意思が垣間見られるという。


 いずれにしても一連のダンジョン管理行為をダンジョンコアが司っていると考えられていた。


 ダンジョンの心臓であると同時に脳である。最重要器官だ。


 したがってダンジョンコアを破壊した場合、そのダンジョンは遠からず消滅してしまう。


 その消滅の過程からダンジョンの活動状況による三区分、いわゆる活ダンジョン、死ダンジョン、休ダンジョンといった定義づけが行われていた。


 ダンジョンコアが破壊または発見されておらず日常的にダンジョン内でモンスターやアイテムの復活が繰り返される活ダンジョン。


 ダンジョンコアが破壊され今まさに消滅に向かっている死ダンジョン。


 何らかの理由によりダンジョンコアが活動を停止しておりモンスターやアイテムの復活の頻度が活ダンジョンに比べて極端に低下している休ダンジョンである。


 但し、消滅には向かっていないためダンジョンが睡眠中なのではと考えられている。


 仮にダンジョンコアが破壊され定義上の死ダンジョンになったからといってダンジョンの消滅は瞬間的に行われるわけではない。


 数ヶ月から数年、長ければ十数年かけて、ゆっくりと消滅するとされていた。


 死ダンジョンであっても頻度こそ少ないがモンスターやアイテムの復活は行われる。


 傷病者が死に至る瞬間までは呼吸を続けているという生理現象と、ある意味、同じではないかと推察されていた。


 しかしながら死ダンジョンや休ダンジョンでは現れるモンスターの強さやアイテムの価値が格段に低くなる。


 一攫千金狙いの上級探索者には見向きもされず探索初心者による探索の練習や観光用のダンジョンとして、一般の人々が探索者気分を味わうためのツアーやモンスターハンティングなどのアトラクション施設として主に利用されていた。


 または完全放置だ。


 ところで広く一般に信じられているダンジョン内で死んだモンスターの肉体をダンジョンの壁や床が吸収してしまうという現象は何処のダンジョンにおいても確認されていない。


 ダンジョン内に放置された死体は腐るよりも早くダンジョン内に棲む微小な蟲により跡形もなく食い尽くされてなくなるため、そこから生じた俗説であろう。

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