バスルームの人魚
来宮ハル
プロローグ
プロローグ
彼に呼ばれてバスルームの扉をそっと開く。電球色の照明はどこにでもある普通のバスルームのそれだけど、彼がいるだけでとても幻想的に見えた。
バスタブの中で身体を抱えこみ、眉毛を下げたまま上目づかいをしている彼は、幼い子どものようだ。そっと近寄って、震える手でその耳に触れたらこそばゆそうに身体をよじる。
ただの透明なお湯が海みたいに青く染まって──いや、染まっているのではなくて彼の身体の色がそのまま水の中で乱反射していた。
お腹から上はいつもの彼だけど、下半身だけが魚の形をしていて、その身体には虹色のうろこが無数に付いている。数枚は剥がれて水面に浮いており、照明の光に反射して水が光っているように見えた。
人とは違うその形が恐ろしくないといえば嘘になる。だけど、怯えている場合でもない。
「……ごめんね」
さびしそうにつぶやく彼の声はかすれていた。消えてしまいそうで、胸の奥が潰されそうに痛い。それと同時に腹の底が焼き切れてしまいそうなほど熱くなる。
「……どうして」
揺らめく水面を眺めながら、私は思わずそう言い返していた。
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