第16話 男装の麗人アメリア ②



 アメリアは思っていたよりも、知的で楽しい女性だった。

 ハンネスとエルフィンが帝国軍を去ってからというもの、知的で楽しい会話とは無縁だったオスカーは、アメリアとの語らいを大いに楽しんだ。

 それゆえ、婚約解消の申し出を、どう切り出すべきか悩んでいた。

 しかし驚いたことに、婚約解消の話を先に切り出したのは、アメリアの方だった。


「申し訳ないが、私には心に決めた方がいる。

 婚約を解消してはもらえまいか?」

と彼女は突然、オスカーに言った。

 それはオスカーにとって願ったり叶ったりの提案だったのだが、アメリアの思い人のことがやはり気になった。


「あなたの気持ちは、分かりました。

 そうおっしゃるのなら、婚約は解消しても構いません」

とオスカーはアメリアに言った。

「でもあなたの心を射止めた幸せな殿方は誰なのかぐらいは、教えてくれませんか?

 それが婚約解消の条件です」

と付け加えた。


 それに対してアメリアは、

「実はまだ、その方のことは、家族にも話していないのです」

と言った。


「5年前に一度、お会いしたきりで、その方が今、どこにいるのかも分かりません。

 でも、その方のことが、忘れられないのです」

と言った。


 なぜかわからないが、オスカーはアメリアが恋する相手が気になった。

「どこでお会いした方なのですか?」


「祭りでにぎわう、街中で偶然、お会いしました。

 あの時、私は、兄と二人で、お忍びで祭りを見に行っておりました。

 付き人は数名おりましたが、護衛のものは不在でした。

 そしてその時、反帝国の反乱分子が、そのすきをついて、王族の血を引く私を誘拐しようとして、襲いかかってきたのです。

 兄は私を置き去りにして、一人、自分だけ逃げました。

 連れのものは身をはって私を守ろうとして、次々と殺されて行きました。

 そんな時、群衆の中から、素手でその暴漢に立ち向かい、私を救出してくれた方たちがいたのです。

 暴漢たちは卑怯にも、私の顔にナイフを切りつけ、私は顔に大きな傷を負っていました。私は血だらけになって、泣いていたわけです。しかし私を助けてくれた方は、それは優しい声で言ったのです。


『大丈夫です。泣かないで。

 私の友は医官です。

 あなたの傷を、必ず直してくれます』

と・・・。 


 そしてその方は、もう一人の方に、

「ハンネス、このお嬢さんの傷を直してやってくれ」

と言ったのです。そして驚いたことに、そのハンネスというかたは、そのひどい傷を、本当にきれいに治してくださったのです」


 その話を聞いて、オスカーはすぐに彼女を助けたのは、エルフィンとハンネスに違いないと思った。


「二人ともそれは美しい方でした。

 そして私は一目で、そのハンネスという方に、恋をしたのです」












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